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魔法特許庁ーーその魔法、違法ですーー  作者: にけ


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「スケープゴート」

二月の第二週、火曜日だった。


サクの連絡制限が続いていた。


弁護士からの週次報告によれば、IMPの事情聴取は続いているが、新しい進展はないとのことだった。


ハルトは通常業務を続けていた。


---


昼過ぎだった。


藤本が声をかけてきた。


「神崎さん、アルカナテックが記者会見を開くらしいです。今から始まるとのことで」


「記者会見ですか」


「はい。緊急会見という形で、さっきアナウンスが出ました」


ハルトはパソコンで速報を確認した。


**アルカナテック、緊急記者会見 技術流出に関する新事実を発表か**


---


フロアの何人かが、スマートフォンや画面で会見の中継を見始めていた。


ハルトも画面を開いた。


桐島社長が壇上に立っていた。


先月の対談と同じ、落ち着いたスーツだった。表情は真剣だった。


「本日は、先般よりお騒がせしております技術流出の疑惑について、新たな事実をご報告するために、この場を設けました」


桐島は続けた。


「弊社の内部調査および当局との協力の結果、弊社の機密データに不正アクセスを行った人物を特定しました」


---


記者からどよめきが起きた。


桐島は静かに続けた。


「その人物は、弊社の元社員です。氏名は、現時点では当局の要請により公表を控えますが、在職中に魔石の精製データおよび出力安定化技術の一部にアクセスしていた記録が確認されました」


「佐久間サクさんや三谷コウさんとは、別の人物ですか」記者が聞いた。


「はい。別の人物です」桐島は言った。「佐久間さんと三谷さんについては、弊社は今回の件への関与を確認していません」


「つまり、お二人は無関係だということですか」


「弊社の調査では、そのように判断しています」桐島は言った。「佐久間さんには、大変ご迷惑をおかけしました。改めて、お詫び申し上げます」


---


記者から質問が続いた。


「特定された人物は、ロシアにデータを流したと確認されていますか」


「現時点では、データを外部に持ち出した可能性が高いと見ています。ただ、ロシアへの流出については、当局が調査中です。弊社として断定できる立場にはありません」


「その人物は現在どこにいますか」


「当局が把握しています。それ以上は、弊社からお答えできません」


「今回の特定に至った経緯を教えてください」


「弊社の内部調査チームが、アクセスログを精査した結果です」桐島は言った。「詳細については、捜査に影響する可能性があるため、公表を控えさせていただきます」


「佐久間さんへの疑惑が浮上した経緯については、どうお考えですか。三谷さんの発言がきっかけでしたが」


桐島は少し間を置いた。


「三谷さんの発言については、弊社は関知していません」桐島は言った。「ただ、その発言が正確ではなかったことは、今回の調査結果からも明らかです。三谷さんがなぜあのような発言をされたのかは、弊社にはわかりかねます」


---


会見が終わった。


ハルトは画面を閉じた。


フロアが少し騒がしくなった。


藤本が言った。


「神崎さん、どう思いますか」


「少し整理します」


ハルトは頭の中で、会見の内容を確認した。


別の元社員が特定された。データへの不正アクセスは事実。ロシアへの流出は調査中。佐久間さんと三谷さんは無関係。桐島がサクへの謝罪を口にした。


一つずつ、確認した。


不正アクセスが事実、という部分。


それは、おそらく事実だと思った。アクセスログは記録として残る。消すことはできない。


ただ、その人物が本当の黒幕なのかどうか。


そこは、別の話だった。


ロシアへの流出については断定できないと桐島は言った。


不正アクセスの記録がある人物を、ロシアへの流出の主犯として仕立て上げることは、できる。


ただ、それが事実かどうかは、別の話だった。


---


堂島部長が声をかけてきた。


「神崎くん、会見見たか」


「はい」


「どう思う」


「不正アクセスの記録が事実だとすれば、その部分は根拠があります」ハルトは言った。「ただ、ロシアへの流出との関連は、今の段階では確認できません」


「俺も同じことを思った」堂島部長は言った。「ただ、この発表でIMPの捜査の方向が変わる可能性がある」


「佐久間さんへの制限が解除される可能性がありますか」


「あり得る。発表を受けてIMPがどう動くか、注目している」堂島部長は言った。「続報が出たら共有する」


---


夕方、ソウから連絡が来た。


「会見、見たか」


「はい」


「どう思った」


「不正アクセスの記録は事実だと思います。ただ、その先が見えません」


「俺も同じ見方だ」ソウは言った。「アクセスログは消せない。だから、アクセスした記録がある人間を使った」


「使った、というのは」


「実際にアクセスしたかもしれない。ただ、それがロシアへの流出と直接繋がるかどうかは、別の話だ」ソウは言った。「その人間が本当に流出させたのか、それとも別の誰かが流出させた上で、その人間のアクセス記録を根拠として使ったのか」


「後者の場合、その人間はスケープゴートということになります」


「そういうことだ」ソウは言った。「ただ、今の段階では確認できない。アルカナテックの発表だけでは、判断できない」


「はい」


「ただ、この発表でIMPの注目が別の人間に向けば、佐久間さんへの制限が緩む可能性がある」ソウは言った。「それは、いいことだ」


「はい」


「もう少しだ」ソウは言った。「大丈夫だ」


---


その夜、弁護士から連絡が来た。


「今夜、IMPから連絡がありました。アルカナテックの発表を受けて、佐久間さんへの事情聴取を一時中断するとのことです。連絡制限についても、近日中に解除の方向で検討しているとのことでした」


ハルトは少し間を置いた。


「佐久間さんは、今どういう状況ですか」


「施設での事情聴取が止まりました。移動の自由はまだ制限されていますが、連絡については近日中に解除される見込みです」


「わかりました。佐久間さんに伝えてもらえますか」


「何と伝えますか」


「会見の内容は確認しました。もう少しで話せます」


翌朝、弁護士から返信が来た。


「佐久間さんに伝えました。『うん、待ってる』とのことです」


---


リアにも報告した。


「弁護士から連絡がありました。IMPが事情聴取を一時中断するとのことです」


「そうですか」リアは言った。「アルカナテックの発表が影響しましたね」


「はい」


「ただ」リアは言った。


「はい」


「今回の発表、気になることがあります」


「はい。私も同じです」


「特定された人物が誰なのか、なぜその人物がアクセスしていたのか。公表されていないことが多すぎます」


「ロシアへの流出との関連も、断定されていません」


「はい」リアは言った。「記録として確認できることと、できないことが、また混在しています」


「はい」


「神崎さん、一点確認させてください」


「はい」


「今回の発表で、佐久間さんへの疑惑が晴れたとは、まだ言えないと思っています」


「はい。IMPの正式な判断が出るまでは、確定ではありません」


「その通りです」リアは言った。「ただ、方向は変わりました。記録は、動いています」


「はい」


---


ハルトはデスクに残っていた。


今日のことを頭の中に入れた。


桐島の会見。別の元社員という言葉。不正アクセスは事実。ロシアへの流出は調査中。サクへの謝罪。スケープゴートという可能性。弁護士からの「うん、待ってる」という言葉。


全部、残った。


方向は変わった。


ただ、終わってはいなかった。


誰かが、計画的に動いていた。


サクの居場所を流した人間。三谷を追い詰めた人間。今回の発表で別の人間を使った可能性のある人間。


全部、繋がっているかもしれなかった。


ただ、今夜は確認できなかった。


コートを着た。


帰った。


---


第六十三話 了

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