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魔法特許庁ーーその魔法、違法ですーー  作者: にけ


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「無罪」

二月になった。


三谷の最後の言葉が、IMPの捜査に影響を与えた。


三谷の母が、息子の最後の言葉をIMP日本連絡部に伝えていた。ハルトは後から知った。


捜査の方向が、変わり始めた。


---


二月の第一週、月曜日だった。


朝、リアからメッセージが来た。


「今日、連絡があるかもしれません。準備しておいてください」


「何の連絡ですか」


「佐久間さんの件です。MPBにも正式な連絡が来る予定です」


---


午前中、通常業務をこなした。


昼前、堂島部長がハルトを呼んだ。


部長室に入った。


本田捜査官がいた。


「神崎さん、先日はご協力ありがとうございました」本田は言った。


「はい」


「佐久間サクさんの件について、正式にお伝えしたいことがあります」


ハルトは本田を見た。


「IMPとして、佐久間サクさんへの疑いを解きました」本田は言った。「技術流出への関与は認められないという結論です」


---


本田が続けた。


「捜査の過程で、複数の事実が確認されました」本田は言った。「一点目、佐久間さんの研究データに、アルカナテックの技術との直接的な共通点は認められませんでした。佐久間さんの研究は、独自に積み上げられたものです」


「はい」


「二点目、三谷コウさんの最後の言葉が、捜査の重要な端緒になりました。三谷さんのご家族から証言をいただきました。『俺じゃない』『佐久間、ごめん』という言葉です」


「はい」


「この証言を受けて、三谷さんの行動の背景を調べました。三谷さんが亡くなる前の数週間、外部から継続的な接触を受けていた形跡が確認されました」


「外部からの接触、ですか」


「詳細はお伝えできませんが、三谷さんが虚偽の発言をするよう誘導されていた可能性が高いと判断しています」本田は言った。「三谷さんもまた、被害者だったと考えています」


ハルトは少し間を置いた。


「三点目です」本田は続けた。「神崎さんが事情聴取の際に提供してくれた記録、白銀主任の証言、MPBの申請記録。これらが、佐久間さんの研究の正当性を示す根拠として機能しました」


「記録が」


「はい。記録があったから、事実を確認できました」本田は言った。「神崎さんが積み上げてきたものが、役に立ちました」


---


本田が帰った後、堂島部長が言った。


「神崎くん、よかった」


「はい」


「佐久間さんに、連絡してあげてくれ」


「はい。すぐします」


「それと」堂島部長は言った。「今回の件、お前が記録を正確に持っていなければ、こうはならなかった。覚えておいてくれ」


「はい」


---


デスクに戻った。


サクに電話した。


一回のコールで出た。


「ハルトくん」


「はい。IMPから連絡が来ましたか」


「来た」サクは言った。「今朝、弁護士経由で。疑いが解けたって」


「はい。こちらにも正式な連絡がありました」


「ハルトくん」サクは言った。


「はい」


「終わったよ」


声が、少し震えていた。


「はい」


「終わった」サクは繰り返した。「本当に、終わった」


「はい」


しばらく何も聞こえなかった。


サクが泣いているのか、笑っているのか、わからなかった。


ただ、電話口に、息をする音だけが聞こえていた。


「サクさん」


「うん」


「よかったです」


「うん」サクは言った。「ハルトくん、ありがとう」


「私は記録を持っていただけです」


「それが全部だよ」サクは言った。「ハルトくんが記録を持っていてくれたから。リアさんが記録を守ってくれたから。三谷くんが最後に本当のことを言おうとしてくれたから」


「はい」


「全部が重なって、ここに来た」


「はい」


「ありがとう」サクは言った。「本当に、ありがとう」


---


少し間があった。


「ハルトくん」サクは言った。


「はい」


「研究、続ける。もっと本気でやる」


「はい」


「こんなことがあっても、やめなかった私の研究を、絶対に完成させる」


「はい」


「約束、まだ有効だよね」


「はい。有効です」


「じゃあ、待っていてください」サクは言った。「必ず、完成させるから」


「はい。待っています」


「ハルトくんのために完成させる、とか言ったら、重い?」


「いいえ」ハルトは言った。「嬉しいです」


サクが笑った。声を出して笑った。


「ハルトくんが嬉しいって言った」


「言いました」


「ちゃんと言えるんじゃないか」サクは言った。「よかった」


---


電話が切れた。


---


夕方、リアから連絡が来た。


「正式な連絡、受け取りましたね」


「はい。堂島部長から伝えていただきました」


「MPBとして提出した記録が、役に立ちました」リアは言った。「神崎さんの記録も、私の証言も、全部が根拠になりました」


「ありがとうございます」


「神崎さんが一番の根拠でした」リアは言った。「あなたが佐久間さんと何を話したか、なぜ話したか、全部正確に記録されていた。それが事実として機能しました」


「白銀主任が証言してくださったことも、大きかったです」


「二人で積み上げてきたものです」リアは言った。「神崎さん、お疲れ様でした」


「はい。お疲れ様でした」


「佐久間さん、どうでしたか」


「泣いていました。笑ってもいました」


「そうですか」リアは言った。少し間があった。「よかったです」


---


ソウにも報告した。


「佐久間さんの件、解決しました。IMPから正式な連絡がありました」


返信が来た。


「そうか。よかった」


「ありがとうございました。協力していただけると言っていただいて、心強かったです」


「当然のことだ」ソウは言った。「お前が何もしていないことは、わかっていた」


「はい」


「佐久間さんも、これで研究に戻れる」


「はい。続けると言っていました」


「そうか」ソウは言った。「それがいい」


少し間があった。


「お疲れ、神崎」


「はい。お疲れ様でした」


---


定時になった。


コートを着た。


魔法庁を出た。


二月の夜だった。


空気が冷たかった。


ただ、少し、違う冷たさだった。


歩きながら、今日のことを頭の中に入れた。


本田捜査官の「記録があったから事実を確認できた」という言葉。サクの「全部が重なって、ここに来た」という言葉。リアの「二人で積み上げてきたものです」という言葉。三谷の最後の言葉。


全部、残った。


記録は、消えなかった。


サクの研究の記録。MPBの申請記録。ハルトの頭の中の記録。三谷の最後の言葉。


全部が重なって、今日に来た。


帰った。


---


第六十二話 了

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