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魔法特許庁ーーその魔法、違法ですーー  作者: にけ


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28/31

「帰省」

年末の最終出勤日、フロアに菓子折りが並んだ。


取引先からのものと、職員同士で交わすものと。リアが一件ずつ確認して、礼状のリストを作っていた。ハルトは書類の整理をしながら、それを横目で見ていた。


定時になった。


「よいお年を」という声があちこちで上がった。


リアがハルトに向いた。


「よいお年を、神崎さん」


「よいお年を、白銀主任」


「帰省しますか」


「はい。明日の朝に」


「どちらに」


「静岡です」


「そうですか」リアは少し間を置いた。「ゆっくりしてきてください」


「白銀主任は」


「実家が近いので、元日に顔を出します」


それだけ言って、リアはコートを手に取った。


---


翌朝、ハルトは新幹線に乗った。


窓際の席だった。富士山が見えた。冬の空気の中で、白くはっきりしていた。


スマートフォンを見た。サクからメッセージが来ていた。昨夜のうちに届いていた。


「よいお年を。来年もよろしく」


ハルトは返信した。


「よいお年を。来年もよろしくお願いします」


送信した。窓の外を見た。富士山がゆっくり後ろに流れていった。


---


実家は静岡市内の住宅地にあった。


二階建て、築二十年の家だった。玄関を開けると、味噌汁の匂いがした。


「おかえり」


母の声だった。エプロン姿だった。


「ただいま」


「痩せた?」


「変わっていないと思います」


「そう見えない」母は言った。「荷物置いてきなさい、もうすぐご飯」


---


夕食は三人だった。


父、母、ハルト。父は六十代、定年退職して今は家庭菜園をやっていた。魔力保有者だった。属性は水系、出力は中程度。ただし魔法を仕事に使ったことは一度もなかった。


「仕事はどうだ」と父は言った。


「忙しかったです。年末にかけて特に」


「ニュースで見た。特許の見直しとか」


「関わっていました」


「お前が?」父は箸を止めた。「どういうふうに」


「過去の拒絶事例を精査する作業を担当しました。二百十四件を確認して、問題のある案件を洗い出しました」


父はしばらくハルトを見た。


「二百十四件、全部お前が確認したのか」


「はい」


「一人で」


「通常業務と並行して、二ヶ月かかりました」


父は黙った。母が味噌汁を足した。


「大変だったな」と父は言った。


「面白かったです」


父はまた少し黙った。それから、小さく笑った。


「お前は昔からそういう奴だったな」


---


夜、父と二人になった。


居間でテレビを見ていた。父が缶ビールを飲んでいた。ハルトはお茶を飲んでいた。


「魔法庁が襲われた件も、関係してたのか」とテレビを見ながら父は言った。


「はい。建物の中にいました」


「怪我は」


「していません」


「そうか」父は缶ビールを一口飲んだ。「連絡してほしかった」


「終わってから連絡しようと思っていました」


「終わってから、か」父は言った。「まあ、お前らしいけどな」


テレビの音が続いた。


「職場の人間は、どうだ」父は言った。「うまくやれてるか」


「はい。上司に恵まれていると思います」


「上司か。どんな人だ」


「白銀主任は、仕事が速くて判断が正確です。信頼できます」


「他には」


「魔法庁に神宮寺さんという方がいます。うるさいですが、頼りになります」


「うるさいが頼りになる、か」父は笑った。「それは本物だ」


少し間があった。


「友達は」と父は言った。


「大学の知り合いがいます。今は別の会社にいます」


「会ってるのか」


「たまに」


「それはよかった」父はテレビを見た。「非適合者で特許庁に入るのは大変だと思って、ずっと気になってたんだ。お前は何も言わないから」


「心配をかけるようなことは、特になかったので」


「心配するのは親の仕事だから、別にいい」父は言った。「ちゃんとやれてるなら、それで十分だ」


ハルトは缶ビールを持った父の横顔を見た。


何も言わなかった。


ただ、少し温かかった。


---


元日の朝だった。


母が雑煮を作っていた。父が庭に出ていた。霜が降りていた。


ハルトは縁側に座って、庭を見ていた。父が霜の降りた野菜を確認していた。

魔法は使っていなかった。手で触って、目で確認していた。


ハルトはそれを見ていた。


父は魔法を持っていても、手で確認することを好む人間だった。

ハルトが子どもの頃から、ずっとそうだった。


魔法があっても、手で確認する。


ハルトが記憶で確認することと、少し似ていると思った。


---


三が日が終わった。


帰る日の朝、母が駅まで送ってくれた。


「また来なさいよ」


「はい」


「お父さん、喜んでたから。テレビ見ながら話せたって」


「そうですか」


「あんた、もう少し自分から話しなさい。待ってても何も言わないんだから」


「気をつけます」


「気をつけます、じゃないの」母は笑った。「まあ、昔からそうだけど。元気そうでよかった」


新幹線が来た。


「ありがとう」とハルトは言った。


「何が」


「来てよかったです」


母は少し驚いた顔をした。それから、笑った。


「そういうこと、もっと言いなさい」


---


新幹線の中で、ハルトはスマートフォンを取り出した。


サクにメッセージを送った。


「明けましておめでとうございます。今、帰りの新幹線の中です」


すぐに返信が来た。


「明けましておめでとう! 帰省どうだった?」


「よかったです」


「よかった、か」しばらく間があって、また返信が来た。「ハルトくんが『よかった』って言うのって、本当によかったときだよね」


「はい」


「じゃあ本当によかったんだ。よかった」


ハルトはメッセージを見た。


窓の外に富士山が見えた。行きと同じ場所だった。ただ、見え方が少し違う気がした。


---


第二十七話 了

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