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魔法特許庁ーーその魔法、違法ですーー  作者: にけ


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24/31

「狭い四階」

修繕業者が入ったのは、事件の翌朝からだった。


三階の損傷は想定より大きかった。焦げた壁、凍りついた床、割れた窓。スプリンクラーが作動したぶん、水による二次被害も出ていた。担当業者の見立てでは、完全復旧に四日から五日かかるとのことだった。


その間、魔法庁の職員は四階のMPBに間借りすることになった。


月曜日の朝、ハルトが出勤すると、四階がすでに騒がしかった。


---


デスクに着いた。


いつもと違った。


フロア全体の人口密度が、倍近くになっていた。魔法庁の職員が、MPBの空きスペースに机を並べていた。窓口近くの列スペース、審査室の前の廊下、会議室の隅。あらゆる場所に椅子と仮設デスクが置かれていた。


電話が鳴っていた。複数同時に。


プリンターが動いていた。止まらなかった。


空調が追いついていなかった。人が多いせいか、少し暑かった。


「狭いな」


ハルトの隣に、神宮寺ソウが立っていた。腕を組んで、フロアを見渡していた。


「神宮寺さん」


「仮設デスクがどこも埋まってる。俺の席がない」


「こちらのフロアに来るんですか」


「三階が使えないから仕方ない」ソウは言った。「総務に聞いたら、審査室の前の廊下に机を置いていいって言われた。廊下だぞ、廊下」


「修繕が終わるまでの辛抱です」


「四日から五日、廊下で仕事か」ソウは首を振った。「まあ、俺に言わせれば、三階を壊した連中のせいだけどな」


「はい」


「神崎、お前のデスクの隣、空いてるか」


ハルトは隣を確認した。村田さんが去ってから、空きデスクになっていた。


「空いています」


「使っていいか」


「私が決めることではないので、白銀主任に確認してください」


「リアに聞けってか」ソウは少し顔をしかめた。「面倒だな」


「隣に座りたいなら、確認した方がいいと思います」


ソウはリアのデスクを見た。リアはすでに書類を読んでいた。


「……聞いてくる」


---


ソウがリアのデスクに向かった。


ハルトは横目で見ていた。


「リア」


「白銀主任です」


「空きデスク、借りていいか」


「どこですか」


「神崎の隣」


リアはハルトを見た。ハルトは書類に目を落とした。


「構いません。ただし審査業務の妨げにならないように」


「わかった」ソウは言った。「ありがとう」


「仕事なので」


ソウがハルトの隣に荷物を置いた。椅子を引いた。座った。


「よろしく」


「よろしくお願いします」


「堅いな」


「仕事中なので」


「お前もリアみたいなこと言うな」


---


午前中は混乱が続いた。


電話が混線した。魔法庁への電話がMPBの番号にかかってくることが二件あった。受付が対応に追われた。


プリンターの順番待ちが廊下まで続いた。魔法庁の職員がMPBの職員に使い方を聞いていた。MPBの職員が困った顔で説明していた。


昼前に、魔法庁の職員の一人がハルトのデスクに来た。二十代の女性職員だった。


「すみません、特許の照合って、このシステムで検索できますか」


「MPBの審査システムなので、特許データの検索はできます。ただし魔法庁の登録データとは別系統です」


「どっちを使えばいいかわからなくて」


「どんな情報を確認したいですか」


「登録された魔法の術式が、既存の特許と重複していないかどうかで」


「それならMPBのシステムで確認できます」ハルトは立ち上がった。「案内します」


隣でソウが見ていた。


「神崎、面倒見がいいな」


「困っているので」


「俺には冷たいのに」


「神宮寺さんは困っていないので」


ソウは少し笑った。


---


昼休み、フロアが少し落ち着いた。


ハルトはデスクでサンドイッチを食べた。ソウも隣で弁当を広げていた。


「こんな形で同じフロアになるとはな」ソウは言った。


「はい」


「まあ、悪くはない。MPBのやり方がよくわかる」


「どうでしたか」


「思ったより地味な仕事だな。ひたすら書類を読んで、記録して、確認して」


「そうです」


「魔法庁も書類仕事は多いけど、もう少し動きがある。登録確認の実演があったり、現場に出たり」


「どちらが向いていますか」


「聞くまでもないだろ、魔法庁だ」ソウは言った。「ただ」


「ただ」


「MPBの仕事も、必要な仕事だとはわかった。地味だけど」


「地味でも構いません」


「お前は本当に向いてるな、この仕事」ソウはハルトを見た。「淡々としてる」


「面白いので」


「面白いか、これが」ソウは弁当を食べながら言った。「まあ、俺に言わせれば、面白いと思えるかどうかが大事だからな。どんな仕事でも」


---


午後、リアがソウのデスクに来た。


「神宮寺主任」


「なんだ」


「三階の窓口業務の代替対応について、確認したいことがあります。修繕中、登録申請に来た一般の方は四階で受け付けることになっていますが、手順が整理されていません」


「ああ、そのことか」ソウは言った。「一応うちの受付担当が仮で対応することになってるんだが」


「四階での受付は初めての職員が多いです。MPBの窓口フォーマットと、魔法庁の登録フォーマットが混在すると、対応が乱れます」


「それで」


「仮の手順書を作ります。神崎さんに協力してもらいます」


ソウはハルトを見た。


「聞いたか」


「はい」


「お前、手順書作れるか」


「魔法庁の登録フォーマットを確認すれば、作れます」


「確認って、どこで」


「神宮寺さんに見せてもらえれば」


ソウは少し間を置いた。


「……お前、使えるな」


「仕事なので」


「俺にそのセリフ使うな」


---


ハルトとリアとソウの三人で、仮の手順書を作った。


ソウが魔法庁側のフォーマットを説明した。リアがMPB側の受付手順を整理した。ハルトが両方を確認しながら、統合した手順書を作成した。


一時間かかった。


完成した手順書を三人で確認した。


「これでいける」とソウは言った。「シンプルでわかりやすい」


「神崎さんの整理が早かったです」とリアは言った。


「両方の手順がわかれば、整理はできます」


「両方わかるのがすごいんだよ」とソウは言った。「俺はMPBの手順、今日初めて知ったんだから」


「神宮寺さんは魔法庁の手順を教えてくれました。それで十分です」


ソウは少し黙った。


「お前、褒められるの慣れてないな」


「そうですか」


「もう少し素直に受け取れ」


「ありがとうございます」


「棒読みだ」


リアが手順書を持ち上げた。


「受付担当に配布します」


「はい」とハルトは言った。


ソウは手順書を見た。


「こういう仕事は苦手だったんだが」ソウは言った。「悪くなかった」


---


三日目の夕方、修繕業者から連絡が入った。


壁と床の修繕が予定より早く進んでいる。明日の夕方には、最低限の業務が再開できる見込みとのことだった。


四日目の夕方、三階の修繕が完了した。


ソウが荷物をまとめた。


「お世話になりました」


「いいえ」とハルトは言った。


「四日間、狭かっただろ」


「慣れました」


「嘘だろ」


「少し慣れました」


ソウは笑った。荷物を持った。


「神崎」


「はい」


「手順書、うちでも保管しておく。また何かあったときに使えるから」


「はい」


「それと」ソウは少し間を置いた。「また来るかもしれん。用があれば」


「いつでも」


「用がなくても来るかもしれん」


「それは神宮寺さんが決めることです」


ソウは苦笑いした。


リアのデスクに向いた。


「リア、世話になった」


「白銀主任です」


「わかってる」ソウは言った。「世話になった、白銀主任」


リアはソウを見た。


「お疲れ様でした、神宮寺主任」


それだけだった。ただ、いつもより少し、声のトーンが柔らかかった。


ソウはエレベーターに向かった。


---


エレベーターが閉まった。


フロアが、急に静かになった。


人口密度が半分に戻った。空調が効き始めた。プリンターが静かになった。


ハルトはデスクを見た。隣の空きデスクが、また空きデスクになっていた。


四日間、そこにソウがいた。


リアが書類を手に取った。


「次の案件に入ります」


「はい」


ハルトはマグカップを書類から十センチ離れた位置に直した。コーヒーを一口飲んだ。


---


第二十三話 了

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