表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法特許庁ーーその魔法、違法ですーー  作者: にけ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
22/195

「ニュースと、電話と」

事件がニュースになったのは、翌日だった。


朝のニュース番組が取り上げた。「魔法庁に武装集団が侵入」という見出しだった。映像は庁舎の外観と、修繕中の三階の窓が映っていた。

負傷者なし、五人全員確保、という内容だった。


ハルトはデスクでその映像を横目に見た。コーヒーを飲んだ。


昼前に、スマートフォンが鳴った。


サクだった。


---


「大丈夫?」


開口一番だった。


「はい」


「ニュース見た。魔法庁に集団が入ったって」


「はい」


「怪我は」


「していません」


電話口で、サクが少し息をついた。


「よかった」


短い言葉だった。ただ、少し間があってから出てきた言葉だった。


「心配してくれていたんですか」とハルトは聞いた。


「当たり前でしょ」サクは言った。「同じビルに勤めてるんだから。ていうか、ニュース見て最初に思ったのがハルトくんのことだったし」


「そうですか」


「そうですかって、もう少し反応してよ」


「ありがとうございます」


「棒読みっぽい」


「棒読みではありません」


サクは少し笑った気配がした。


---


「実際どうだったの。ニュースだと詳しくわからなくて」


「詳しい話は言えませんが」とハルトは言った。「私は四階にいました。直接の戦闘はありませんでした」


「魔法庁の人が戦ったの?」


「はい。神宮寺さんと、白銀主任が」


「二人で?」


「はい」


「すごいね」サクは言った。「神宮寺さんって、前に話してた人?」


「はい。白銀主任の同期の方です」


「ああ、うざ絡みしてくるって言ってた」


「そういう表現はしていません」


「してたよ」


ハルトは少し考えた。


「まあ、そういう面もあります」


「でも頼りになる人なんだね、いざとなると」


「はい。頼りになります」


---


「ハルトくんは何してたの、そのとき」とサクは聞いた。


「観察と情報伝達をしていました」


「観察?」


「踊り場から三階の様子を見て、敵の位置や属性を把握して、神宮寺さんに伝えていました」


電話口で少し間があった。


「それ、地味にすごくない?」


「特別なことではありません。魔法が使えないので、できることをしただけです」


「でも、位置を把握して伝えるって、戦況が変わるじゃないですか。目の役割だよ、それ」


「白銀主任にも同じことを言われました」


「白銀主任も言ってたの?」


「あなたの目が今日一番の武器です、と」


サクはしばらく黙った。


「……白銀主任、いいこと言うね」


「そうですね」


「ハルトくんはどう思った?」


「嬉しかったです。少し」


「少し、か」サクは笑った。「正直だね」


「嘘をついても仕方ないので」


---


「ねえ、今日仕事終わったらどうしてる?」とサクは言った。


「特に予定はありません」


「ご飯行かない? お疲れ様ってことで」


「私が疲れているというより、白銀主任と神宮寺さんが疲れたと思いますが」


「ハルトくんもお疲れでしょ。それに、心配してたこっちの気持ちも落ち着けてよ」


ハルトは少し考えた。


「わかりました」


「じゃあ七時に駅前で。いつもの改札」


「はい」


「あ、でも仕事が長引いたりする? 昨日は遅かったんでしょ」


「昨日は報告書の作成があったので遅くなりました。今日は通常の業務なので、七時には上がれます」


「わかった。じゃあ七時」


電話が切れた。


---


ハルトはスマートフォンを置いた。


デスクの上のコーヒーがすっかり冷めていた。一口飲んだ。


リアが書類から顔を上げた。


「電話、長かったですね」


「知り合いから連絡が来ました。ニュースを見て心配してくれたようで」


「そうですか」リアは視線を書類に戻した。「よかったですね」


「はい」


---


七時ちょうどに駅前に着くと、サクはすでにいた。


今日は仕事帰りだった。スーツ姿だった。トートバッグを肩にかけていた。スマートフォンを見ていた。


ハルトが近づくと、顔を上げた。


「時間通り」


「七時です」


「毎回同じこと言うね」サクは笑った。「行こう」


---


入ったのは駅の近くの定食屋だった。


カウンター席とテーブル席が数個。混んでいなかった。二人でテーブルに座った。


メニューを見た。サクが迷っていた。


「何にしますか」


「うーん、鯖定食か、唐揚げ定食か」


「どちらが好きですか」


「両方好き。ハルトくんは?」


「どちらでも」


「それは答えになってない。どっちが食べたい?」


ハルトはメニューを見た。


「唐揚げ定食です」


「じゃあ私は鯖定食にする。一個ずつにしよう」


注文した。お茶が来た。


---


「それで」とサクは言った。「本当に怪我はなかった?」


「はい。四階にいたので」


「ニュースで見たとき、びっくりして。なんか、同じビルだし、ハルトくんいるじゃないってなって」


「すぐに連絡をくれましたね」


「朝イチでニュース見たから。仕事中ずっと気になってた」


「そうですか」


サクはお茶を飲んだ。


「ハルトくんって、危ない場面でも冷静だったりする?」


「冷静かどうかはわかりません。ただ、確認することがあったので、確認していました」


「確認する方に気持ちが向くの?」


「向きます。何かあると、まず把握したくなります」


「焦ったりしなかった?」


ハルトは少し考えた。


「四階で一人になったときは、少し焦りました」


「そうだよね」サクは言った。「人間だもん」


「人間なので」


サクは笑った。


---


料理が来た。


二人で食べ始めた。


サクが鯖定食を食べながら言った。


「ハルトくんの唐揚げ、おいしそう」


「一個あげましょうか」


「いい?」


「はい」


ハルトは唐揚げを一個、サクの皿の端に置いた。サクが食べた。


「おいしい」


「そうですか」


「ハルトくんも鯖食べる?」サクは笑った。


「一口だけ」


サクが小骨を取って、皿の端に置いた。ハルトが食べた。


「おいしいです」


「でしょ」


---


食べながら、サクが言った。


「申請の補記、出したよ」


「耐久試験データですか」


「そう。試験回数を増やして、データを追加した。来週か再来週には出せると思う」


「受け取ります」


「ハルトくんが担当してくれる?」


「窓口に来てもらえれば、対応します」


「また仕事として来ます」サクは少し笑った。「そういえば、前に来たとき、ハルトくんがアルカナ・テックの先行特許を確認してくれたじゃないですか」


「はい」


「あれ、心強かった。問題ないって言ってもらえて」


「問題ありませんでした」


「うん」サクはお茶を飲んだ。「私の研究、いつかちゃんと形にしたくて。魔力がない人が魔法を使えるようになるための技術。まだ全然先だけど」


「変換効率は上がっていますか」


「少しずつ。先月、また改善した。一日分が二十三時間四十分になった」


「十分、さらに改善しましたね」


「十分だよ」サクは言った。「まだ全然ダメ」


ただ、笑っていた。


「でも、やめる気はないです」


「はい」


「いつか、ハルトくんに最初に使ってもらうって、まだ言ってるから」


「覚えています」


「覚えてるよね、何でも」サクは少し笑った。「じゃあ絶対に実現させないと」


---


食べ終わって、店を出た。


夜の空気が冷たかった。


駅に向かって歩いた。


「今日、ありがとう」とサクは言った。


「こちらこそ」


「来てくれて。心配が、少し落ち着いた」


「連絡をくれてありがとうございます」


「また何かあったら連絡して」サクは言った。「心配するから」


「何かあれば」


「何かなくても、連絡してきていいよ」


ハルトは少し考えた。


「わかりました」


「本当にわかった?」


「はい」


サクは笑った。


「じゃあ、また」


「また」


改札でサクは手を振った。ハルトも少し手を上げた。


サクが改札を抜けた。振り返らなかった。


---


ハルトは改札前に少し立っていた。


冷たい夜の空気だった。


今日確認したこと。サクが仕事中ずっと気になっていたこと。心配が落ち着いたという言葉。何かなくても連絡していいという言葉。


頭の中に、全部残っていた。


改札を抜けた。帰った。


---


第二十二話 了

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ