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魔法特許庁ーーその魔法、違法ですーー  作者: にけ


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20/35

「風と、氷と」

指導室のドアが開いた瞬間、廊下に風が走った。


ソウだった。


ドアから飛び出すと同時に、右腕を振った。風の刃が廊下を横切った。


入口側の風系の男が後ろに吹き飛んだ。壁に叩きつけられた。


「久しぶりだな、お前ら」


ソウは廊下の中央に立った。スーツが乱れていた。腕輪が強く光っていた。


五人が一斉にソウを見た。


リーダーの炎が大きくなった。


「神宮寺ソウ」リーダーが言った。「魔法庁の主任か。ちょうどいい」


「カガリか」ソウは言った。「お前らの名前は把握してるぞ。無登録同盟、だったか。まあ、俺に言わせれば、センスのない名前だけどな」


「笑えるうちに笑っておけ」


カガリが右手を上げた。


炎が廊下を埋めた。


---


ハルトは踊り場から見ていた。


ソウが後ろに跳んだ。炎が壁を舐めた。廊下の壁紙が燃えた。


スプリンクラーが作動した。水が降り始めた。


ソウが舌打ちした。


「水系の二人が動きやすくなった」


ハルトはすぐにメッセージを送った。


「スプリンクラー作動。窓口側の水系二人、術式強化の可能性があります。現在位置、窓口カウンター後方。距離は神宮寺さんから約八メートル」


ソウがスマートフォンを一瞬見た。


水系の一人が動いた。水流を腕に纏わせて、ソウの右側から回り込もうとした。


そこに、氷が来た。


---


階段を降りてきたリアが、右手を前に出していた。


廊下の床が一瞬で凍った。水系の男の足が止まった。

もう一人が術式を展開しようとして、床が滑って体勢を崩した。


「遅い」とリアは言った。静かな声だった。


「リア」ソウが言った。「氷属性だったな、お前」


「そうです」


「懐かしいな」


「懐かしんでいる場合ではありません」


ソウは笑った。


カガリが二人を見た。炎の出力が上がった。廊下の温度が上がった。スプリンクラーの水が蒸発し始めた。


「二人来たところで変わらない」カガリは言った。「俺の炎は、お前たちの氷も風も焼き切る」


「試してみるか」とソウは言った。


---


ハルトはメッセージを送り続けた。


「術式未展開の一人、入口付近から移動しています。現在、階段方向に向かっています。四階を狙っている可能性があります」


リアからすぐに返信が来た。


「わかりました。神崎さんは奥の部屋に移動してください」


ハルトは踊り場から離れた。四階の審査室に入った。ドアを閉めた。


廊下に足音が近づいてきた。


一人分だった。


ドアノブが動いた。


---


ドアが開いた。


二十代の男だった。細身、黒いジャケット、腕輪が薄く光っていた。出力は高くなかった。ただ、目が据わっていた。


「動くな」男は言った。手のひらに電撃が走った。「そこを動いたら、撃つ」


ハルトは動かなかった。


男が部屋に入ってきた。ハルトを見た。腕輪を見た。


「非適合者か」男は言った。「魔法も使えないのに、こんな場所で何をやってる」


「仕事です」


「仕事」男は鼻で笑った。「特許庁の人間か。俺たちの申請を弾いた側の人間か」


「あなたの申請を弾いたんですか」


男は少し黙った。


「俺じゃない。仲間がだ。三年前、丹精込めて作った術式を申請したら、既存の特許と類似しているとかいう理由で弾かれた。大企業の特許と、ほんの少し似ているだけで」


「術式の名前を教えてもらえますか」


男が眉を上げた。


「なんで」


「確認できます。記憶しているので」


「記憶している?」男は怪訝な顔をした。「何を」


「MPBに登録されている全ての特許を」


室内が静かになった。電撃が、少し弱くなった。


「……嘘だろ」


「嘘ではありません。術式の名前か、申請者の名前か、申請番号がわかれば確認できます」


男はハルトをしばらく見た。


「なんのために確認するんだ」


「拒絶が正しかったかどうか、確認できます」


「今さら確認して、何になる」


「正しかったなら、正しかったとわかります。間違っていたなら、間違っていたとわかります」


男は何も言わなかった。


「どちらにしても、ここで暴れることとは別の話です」とハルトは言った。「ただ、知りたいなら、確認はできます」


電撃が、また少し弱くなった。


---


三階の廊下から、大きな音がした。


爆発に近い音だった。壁が揺れた。


男が反射的に廊下を見た。


その瞬間、ハルトはスマートフォンでメッセージを送った。


「四階審査室。一人、電撃系。現在、動きが止まっています」


十秒後、ドアが開いた。


ソウだった。


男が振り返った。術式を展開しようとした。


ソウの風が、先だった。


一瞬だった。男が壁に押しつけられた。電撃が散った。ソウが男の腕を取った。


「確保」ソウは言った。荒い息だった。「他は片付いた」


「片付いた、というのは」


「カガリ以外の三人は制圧した。リアがカガリを抑えている」


「白銀主任が一人でですか」


「氷属性をなめるなよ」ソウは言った。「あいつの氷は、炎でも溶けない」


---


三階に降りた。


廊下は惨状だった。壁は焦げ、床は凍り、スプリンクラーの水が薄く張っていた。


廊下の奥で、リアが立っていた。


その前に、カガリが座っていた。両腕が氷で固められていた。炎は消えていた。カガリの顔が、呆然としていた。


「終わりました」とリアは言った。振り返った。スーツの肩が少し濡れていた。それだけだった。


ソウが確保した男を連れて降りてきた。


「全員揃ったな」ソウは廊下を見渡した。「しかし、リア、お前は相変わらず容赦ないな」


「必要な制圧です」


「炎を氷で封じるとか、普通やらないぞ」


「できるので、やりました」


ソウは苦笑いした。


ハルトはカガリを見た。カガリもハルトを見た。


「お前が情報を流していたのか」カガリは言った。「非適合者が」


「はい」


「魔法も使えないくせに」


「使えなくても、できることはあります」


カガリは何も言わなかった。ただ、ハルトを見続けた。怒りではなかった。どこか、虚ろな目だった。


「特許制度が、俺たちから奪った」カガリは言った。「わかるか、そういうことが」


「わかりません」とハルトは言った。「ただ、奪われたと思っているなら、取り戻す方法があります。暴力以外の」


「きれいごとだ」


「きれいごとかもしれません」


ハルトは少し間を置いた。


「ただ、四階に来た人間が、仲間の術式が不当に弾かれたと言っていました。それが本当かどうか、確認はできます」


カガリは黙った。


---


警察と魔法庁の応援が来たのは、それから二十分後だった。


五人全員が連行された。カガリは最後まで無言だった。


廊下に三人が残った。


ソウが壁にもたれた。


「疲れた」


「お疲れ様でした」とハルトは言った。


「神崎、お前、四階で何をやってたんだ」


「話をしていました」


「話?」


「電撃系の男と。動きが止まったのは、話していたからです」


ソウはハルトを見た。


「魔法も使えないのに、どうやって動きを止めた」


「術式の申請内容を確認すると言いました」


「それだけで?」


「それだけです」


ソウは少し黙った。それから笑った。


「まあ、俺に言わせれば、変な奴だな、お前は」


「よく言われます」


リアが二人を見た。


「報告書の作成があります。今日中に」


「今日中か」ソウは天井を見た。「相変わらず容赦ないな」


「仕事なので」


---


第二十話 了

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