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魔法特許庁ーーその魔法、違法ですーー  作者: にけ


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19/31

「三階が落ちた日」

それは火曜日の午後に始まった。


ハルトは四階の窓口当番だった。申請書類の確認をしていた。外は曇っていた。


最初の異変は音だった。


三階から、何かが弾けるような音がした。一度。二度。


ハルトはペンを止めた。


廊下が騒がしくなった。三階から人が上がってきた。制服姿の魔法庁職員だった。顔が青かった。


「三階が、三階が——」


言いかけて、その職員は廊下に座り込んだ。肩から煙が出ていた。


---


リアが立ち上がった。


「何がありましたか」


「複数人が、突然——魔法で、入口を——」職員は息を切らした。「神宮寺主任が残っています。他の職員は逃げろと」


リアはハルトを見た。一秒だった。


「神崎さん、この職員を安全な場所に。私は状況確認します」


「待ってください」とハルトは言った。


「何ですか」


「一人で行かないでください」


リアは少し間を置いた。


「わかりました。あなたも来てください」


---


四階の階段口から、三階の様子を確認した。


降りることはしなかった。階段の踊り場から、三階の廊下を覗いた。


廊下の奥に、人影が見えた。四人、いや五人。全員が腕輪をつけていた。黒いジャケット姿で統一されていた。


廊下の壁に焦げ跡があった。窓ガラスが一枚割れていた。


登録窓口の方向から、声が聞こえた。


「全員そこを動くな。騒いだら次は人間を焼く」


男の声だった。低く、落ち着いていた。


ハルトは廊下の奥を見た。


五人のうち一人が、他より前に立っていた。三十代、短髪、体格がいい。右手に炎が灯っていた。消えなかった。維持したままだった。


四階に戻った。


「五人います」とハルトは言った。「うち一人がリーダーと思われます。炎属性、高出力。廊下の焦げ跡と壁の損傷から、出力の範囲は半径三メートル以上と推定できます」


「残り四人は」


「確認した限り、風系が一人、水系が二人、もう一人は術式を展開していないので不明です。全員、腕輪の光が強い。S級か、それに近い魔力保有者と思われます」


リアは廊下を見た。


「神宮寺主任は」


「三階の奥の指導室方向にいると思います。逃げろと言ったということは、まだ動ける状態のはずです」


「連絡を取れますか」


「試みます」


---


ハルトはスマートフォンを取り出した。神宮寺ソウの番号に発信した。


三回のコール。出た。


「神崎か」ソウの声は低かった。抑えた声だった。


「はい。今どこにいますか」


「指導室の中。扉を封鎖してる。三人閉じ込めた、一般の人間を」


「状況を教えてください」


「五人組が入口から突入した。最初の一撃で受付の結界を突破された。俺は奥にいたから間に合わなかった」ソウは短く息をついた。「廊下に出られない。出たら即戦闘になる」


「廊下の状況を伝えます」ハルトは言った。「リーダーと思われる炎属性が正面。残り四人が二手に分かれて窓口と入口を押さえています。窓口側の二人が水系、入口側が風系です。術式未展開の一人が動いています。現在位置は入口から十二メートルほど奥、審査室の前です」


電話口の向こうで、少し間があった。


「お前、どこから見てた」


「四階の踊り場からです」


「……細かいな」


「役に立ちますか」


「立つ」ソウは言った。「風系が一人なら、俺の風で相殺できる。問題は炎だ。あの出力は俺一人じゃきつい」


「白銀主任がいます」


「リアが?」


「四階にいます。今から降ります」


ソウが少し黙った。


「……リアと組むのは久しぶりだな」


「得意なコンビネーションはありますか」


「あるよ。リアに聞け。俺が言うと素直に動かないから」


電話が切れた。


---


ハルトはリアに向いた。


「神宮寺主任は指導室にいます。一般の人を三人保護しています。廊下に出られない状態です」


「動ける状態ですか」


「はい。風系との相殺は可能と言っていました。ただ炎のリーダーに対して一人では厳しいと」


「私と組む、ということですか」


「そうなります」


リアは廊下を見た。


「神宮寺主任と組むコンビネーション、何か言っていましたか」


「白銀主任に聞けと言っていました」


リアは少し目を細めた。


「……そうですか」


それだけ言った。何かを思い出しているような間だった。


「神崎さん」


「はい」


「あなたは四階から動かないでください」


「わかりました」


「ただ」リアは言った。「見ていてください。何か変化があれば、すぐに神宮寺主任か私に伝えてください」


「はい」


「あなたの目が、今日一番の武器です」


リアは階段に向かった。足音が静かだった。


---


ハルトは踊り場に戻った。


三階の廊下を見た。


五人の位置を確認した。動きを追った。


術式未展開の一人が、また動いた。今度は窓口側から入口方向に移動していた。


ポジションが変わっている。


ハルトは神宮寺主任にメッセージを送った。


「未展開の一人が入口側に移動。現在、入口から五メートル。風系の後方です」


十秒後、返信が来た。


「わかった」


廊下の奥から、音がした。


指導室のドアが開いた。


---


第十九話 了

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