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魔法特許庁ーーその魔法、違法ですーー  作者: にけ


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17/33

「記憶の中にあったもの」

翌朝、早瀬トモが来庁した。


木下から連絡が入ったのは昨日の夕方だった。早瀬さんが直接話したいと言っている、と。リアが了承して、今日の午前に設定した。


面談室に入ってきた早瀬は、四十代の女性だった。地味なジャケット、眼鏡、手提げバッグ。腕輪はなかった。木下が隣に座った。


「早瀬トモと申します」早瀬は言った。声が少し固かった。「よろしくお願いします」


「白銀です。こちらは補助係の神崎です」


早瀬はハルトを見た。


「神崎さんが、核心部分の一致を確認してくださったと聞きました」


「はい」


「ありがとうございます」早瀬は言った。「三ヶ月間、自分でもはっきりしなくて」


---


早瀬が話し始めた。


四年前、MPBに申請する前、早瀬は照明魔道具の展示会に出展していた。

試作品を持参して、複数の企業に技術を売り込んでいた。


「ライトスフィアの担当者も来ました」早瀬は言った。「試作品を見て、興味を持ってくれて。詳しい説明をしてほしいと言われました」


「説明したんですか」とリアは聞いた。


「しました。その時点では特許申請の前でした。まだ交渉中だと思っていたので」


「具体的にどのくらい説明しましたか」


「素子の配列と、術式の入力タイミングについて、詳しく話しました。担当者が熱心に質問してくれたので、つい話しすぎてしまって」早瀬は手元を見た。「その後、ライトスフィアからは連絡が来なかったんです。採用しないということだと思っていました」


「MPBへの申請はその後ですか」


「はい。展示会から二ヶ月後に申請しました。登録されたとき、これで守られると思って」


早瀬は少し間を置いた。


「三ヶ月前にカタログを見るまで、まさかこんなことになっているとは思っていませんでした」


---


リアがハルトを見た。


「神崎さん、展示会の時期を確認できますか」


「早瀬さんにお聞きします。展示会はいつ頃でしたか」


「四年と少し前です。十一月だったと思います」


ハルトは頭の中で確認した。


展示会、十一月。早瀬トモのMPB申請、翌年一月。登録、同年四月。


ライトスフィアのルーメン・ハンドル発売、三年後の秋。


展示会から発売まで、三年以上が経っていた。


「木下さん」とハルトは言った。


「はい」


「ライトスフィアがルーメン・ハンドルの開発を始めた時期について、何か情報はありますか」


「製品発表のプレスリリースに、開発期間一年半と記載があります。つまり発売の一年半前、今から二年半ほど前に開発を開始したことになります」


「展示会から約二年後に開発を開始した、ということですか」


「そうなります」


ハルトは頭の中で並べた。


展示会でライトスフィアの担当者が詳細を聞いた。

二年後に開発を開始した。特許申請はしなかった。


展示会から開発開始までの二年間、何があったのか。


「少し確認させてください」とハルトは言った。


---


全員が待った。


ハルトは記憶の中を探った。


ライトスフィア名義の申請、過去五年で九件。照明系のものを順番に開いた。


一件目、発光素子の配列に関する申請。四年半前。展示会より前だった。内容を確認した。早瀬の特許とは無関係だった。


二件目、光の拡散制御に関する申請。四年前。展示会の直後だった。


ハルトは二件目を開いた。


読んだ。


申請内容の中に、光の拡散制御の基礎理論が記述されていた。術式との接続方式の記述もあった。


早瀬の特許と並べた。


基礎理論の部分が、似ていた。ただ、完成度が低かった。実用レベルには達していなかった。


この申請は、展示会の三ヶ月後に提出されていた。


「木下さん」とハルトは言った。「ライトスフィアの照明系の申請で、四年前のものを確認してください。光の拡散制御に関する申請です」


木下が手元の資料を確認した。


「持っています。ただ、これは登録されなかった申請です。審査で拒絶されています」


「拒絶理由は」


「先行特許との類似。早瀬さんの特許が先に登録されていたためです」


室内が静かになった。


「つまり」とハルトは言った。「ライトスフィアは展示会の後、自分たちで申請しようとした。ただし早瀬さんの特許が先に登録されていたため、拒絶された」


「はい」


「申請が拒絶されてから約二年後、今度は申請せずに製品化した」


木下が前のめりになった。


「それが証明できれば、悪意の立証になります。知っていたのに侵害した、という」


---


早瀬が口を開いた。


「知っていたんですね、最初から」


静かな声だった。怒りではなかった。ただ、確認するような声だった。


「展示会で私から聞いて、自分たちで申請しようとして、できなかったから、形を変えて製品にした」


「現時点では状況証拠です」とリアは言った。「断定はできません。ただ、時系列として、そう読むことができます」


「時系列」早瀬は繰り返した。「ちゃんと、あったんですね」


「はい」


早瀬は眼鏡を外した。レンズを拭いた。またかけた。


「三ヶ月間、気のせいかもしれないと思っていたんです。似ているだけかもしれないと。でも、なんか、おかしいとずっと思っていて」


「おかしかったんです」とハルトは言った。


早瀬がハルトを見た。


「おかしかった、ということで、いいんですか」


「技術的には、そうなります。法的な判断は木下さんがされますが、特許の記録として見れば、ライトスフィアは早瀬さんの技術を知っていて、申請が通らないとわかった上で、製品化しています」


早瀬は少し間を置いた。


「三ヶ月間、すっきりしなかったのが、すっきりしました」と言った。「ありがとうございます」


---


木下と早瀬が退室した後、応接室に二人が残った。


リアは手元の書類を見ていた。


「神崎さん」


「はい」


「ライトスフィアの拒絶申請、どのくらい前から気づいていましたか」


「昨日の夜、記憶の中を確認していたときです。展示会の時期と、申請の時期が近いことが引っかかりました。今朝、早瀬さんの話を聞いて、つながりました」


「昨日の夜に」


「帰宅してから確認していました」


リアは少し間を置いた。


「家でも、記憶を確認しているんですか」


「特別なことはしていません。頭の中にあるので。気になると、つい」


リアはハルトを見た。何か言いかけた。止まった。


「……お疲れさまです」


「いいえ」


「今日確認できたことをまとめてください。木下さんへの技術的確認書の作成に入ります」


「わかりました」


---


デスクに戻った。


書類をまとめ始めた。


展示会、申請、拒絶、製品化。四つの出来事の時系列が、頭の中できれいに並んでいた。


早瀬さんは三ヶ月間、確信が持てないまま抱えていた。おかしい、という感覚だけを手がかりに。


誰かの「おかしい」が、記録の中に残っていた。


それを取り出せたことが、今日の仕事だった。


---


第十七話 了

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