「報い」
朝、執務室に、補佐官が入ってきた。
ファイルを、一つ、持っていた。
「まとまりました」補佐官は言った。
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日本から、IMPO経由で資料が届いて、十日が過ぎていた。
元・魔法庁の男の、供述と、記録。
経路。名前。金の流れ。
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情報機関は、十日、走り続けた。
持っていた断片と、届いた実名を、突き合わせた。
断片は、初めて、形になった。
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「実行組織は」コールは言った。
「強硬派の、国際的な集まりです」補佐官は言った。「十数年前に、各国で解散したはずの連中が、横でつながっていました」
「日本で審査官を襲ったのも、同じ流れです」
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「資金は」
「ロシアの情報機関です」補佐官は言った。「三つの口座を経由しています。日本の男の供述と、金の流れが、一致しました」
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コールは、ファイルを開いた。
一枚ずつ、読んだ。
教授の施設の、警備の穴。それを買った金。運んだ経路。
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「証拠の質は」コールは言った。
「法廷に出せるレベルか、という意味なら」補佐官は言った。「半分は、出せます」
「残りの半分は」
「出せませんが、同盟国を、動かすには足ります」
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コールは、頷いた。
「同盟国と、共有しろ」コールは言った。「今日中にだ」
「発表は」
「私がやる」コールは言った。
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午後、会見場に立った。
カメラが、並んでいた。
コールは、原稿を、持たなかった。
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「カーター・ジェームズ教授の殺害について、報告する」コールは言った。
会見場が、静かになった。
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「実行した組織を、特定した」
「資金と指示の出どころも、特定した」
「ロシアの情報機関だ」
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カメラのシャッター音が、走った。
コールは、待った。
音が、収まってから、続けた。
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「私は、以前、言った」コールは言った。「関与した国は、相応の報いを受ける、と」
「今日から、それを始める」
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「関連する個人と組織の資産を、凍結する」
「関係する外交官の、国外退去を求める」
「同盟国も、順次、同じ措置を取る」
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「戦争をする気か、という質問が来る前に、答えておく」コールは言った。
「しない。その必要がない」
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「報いは、感情ではない。会計だ」コールは言った。
「研究者一人を殺した代価を、払ってもらう。それだけだ」
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質問が、飛んだ。
「ロシアは、関与を否定しています」
「否定は、想定している」コールは言った。「記録は、否定できない」
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「証拠を、公開しますか」
「出せるものから、出す」コールは言った。「時間をかけて、全部だ」
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「情報の出どころは、どこですか」
コールは、少しだけ、間を置いた。
「ある男の、供述だ」コールは言った。「自分の過去を、正確に話した男がいる。それが、始まりだった」
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名前は、言わなかった。
言う必要も、なかった。
会見を、閉じた。
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執務室に戻った。
ロシアは、二時間後に、声明を出した。
「事実無根であり、政治的な挑発である」
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コールは、その一文を、読んだ。
想定の、範囲だった。
否定する声は、大きい。だが、金の流れは、静かに残っている。
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騒ぐのは、記録を持たない側だ。
持っている側は、静かでいい。
あの審査官と、同じだった。
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夕方、補佐官が、報告を続けた。
「市場は、落ち着いています。制裁は、織り込み済みでした」
「デモは、ほぼ、消えました。教授の件の犯人が出たことで、反対運動は、勢いを失っています」
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「それから、日本です」補佐官は言った。
「MPBの審議が、進んでいます。区分を資格判定の要件から外す条文が、小委員会に、かかっています」
「それと、先日、MPBが佐久間博士の研究に、記録を正式提供しました。非適合者の発動記録です。研究は、加速すると」
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コールは、窓の方を向いた。
頭の中で、算盤を、置き直した。
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佐久間博士の隔離は、保護のためだった。
脅威があり、出どころが見えない間は、囲いが最も安かった。
だが、出どころは、今日、名前がついた。
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組織は、割れ始めている。
口座は、凍った。
脅威の値段が、下がっていく。
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一方で、囲いの値段は、上がっていた。
研究は、外の記録を、必要とし始めた。
世論は、隔離を、保護と呼ばなくなり始めた。
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囲いは、守るためのものだ。
守るはずの研究を、囲いが遅らせ始めたら。
囲いの意味を、計算し直す。
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「大統領」補佐官が言った。「佐久間博士の警護体制は、見直しますか」
「まだだ」コールは言った。「組織の残りが、割れてからだ」
「わかりました」
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「ただ、試算を作っておけ」コールは言った。
「試算、ですか」
「制限を、段階的に外した場合の」コールは言った。「損と、得の」
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補佐官は、頷いて、出ていった。
コールは、一人になった。
窓の外に、夕方の街があった。
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日本の、あの男のことを、考えた。
「君は、どうする」
問いを投げてから、ずいぶん、経つ。
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答えの代わりに、記録が、動き続けていた。
役員会。先例。条文。提供。
そして、一人の男の、供述。
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あの供述がなければ、今日の会見は、なかった。
あの男が、供述をさせたわけでは、ないだろう。
だが、話す相手に、選ばれた。
記録を消さない男だと、知られていたからだ。
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答えは、まだ、届いていない。
だが、届き始めている気が、した。
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報いは、会計だ。
そして、会計は、いつか必ず、締める日が来る。
コールは、それを、知っていた。
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第百六十五話 了




