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魔法特許庁ーーその魔法、違法ですーー  作者: にけ


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165/199

「報い」

朝、執務室に、補佐官が入ってきた。


ファイルを、一つ、持っていた。


「まとまりました」補佐官は言った。


---


日本から、IMPO経由で資料が届いて、十日が過ぎていた。


元・魔法庁の男の、供述と、記録。


経路。名前。金の流れ。


---


情報機関は、十日、走り続けた。


持っていた断片と、届いた実名を、突き合わせた。


断片は、初めて、形になった。


---


「実行組織は」コールは言った。


「強硬派の、国際的な集まりです」補佐官は言った。「十数年前に、各国で解散したはずの連中が、横でつながっていました」


「日本で審査官を襲ったのも、同じ流れです」


---


「資金は」


「ロシアの情報機関です」補佐官は言った。「三つの口座を経由しています。日本の男の供述と、金の流れが、一致しました」


---


コールは、ファイルを開いた。


一枚ずつ、読んだ。


教授の施設の、警備の穴。それを買った金。運んだ経路。


---


「証拠の質は」コールは言った。


「法廷に出せるレベルか、という意味なら」補佐官は言った。「半分は、出せます」


「残りの半分は」


「出せませんが、同盟国を、動かすには足ります」


---


コールは、頷いた。


「同盟国と、共有しろ」コールは言った。「今日中にだ」


「発表は」


「私がやる」コールは言った。


---


午後、会見場に立った。


カメラが、並んでいた。


コールは、原稿を、持たなかった。


---


「カーター・ジェームズ教授の殺害について、報告する」コールは言った。


会見場が、静かになった。


---


「実行した組織を、特定した」


「資金と指示の出どころも、特定した」


「ロシアの情報機関だ」


---


カメラのシャッター音が、走った。


コールは、待った。


音が、収まってから、続けた。


---


「私は、以前、言った」コールは言った。「関与した国は、相応の報いを受ける、と」


「今日から、それを始める」


---


「関連する個人と組織の資産を、凍結する」


「関係する外交官の、国外退去を求める」


「同盟国も、順次、同じ措置を取る」


---


「戦争をする気か、という質問が来る前に、答えておく」コールは言った。


「しない。その必要がない」


---


「報いは、感情ではない。会計だ」コールは言った。


「研究者一人を殺した代価を、払ってもらう。それだけだ」


---


質問が、飛んだ。


「ロシアは、関与を否定しています」


「否定は、想定している」コールは言った。「記録は、否定できない」


---


「証拠を、公開しますか」


「出せるものから、出す」コールは言った。「時間をかけて、全部だ」


---


「情報の出どころは、どこですか」


コールは、少しだけ、間を置いた。


「ある男の、供述だ」コールは言った。「自分の過去を、正確に話した男がいる。それが、始まりだった」


---


名前は、言わなかった。


言う必要も、なかった。


会見を、閉じた。


---


執務室に戻った。


ロシアは、二時間後に、声明を出した。


「事実無根であり、政治的な挑発である」


---


コールは、その一文を、読んだ。


想定の、範囲だった。


否定する声は、大きい。だが、金の流れは、静かに残っている。


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騒ぐのは、記録を持たない側だ。


持っている側は、静かでいい。


あの審査官と、同じだった。


---


夕方、補佐官が、報告を続けた。


「市場は、落ち着いています。制裁は、織り込み済みでした」


「デモは、ほぼ、消えました。教授の件の犯人が出たことで、反対運動は、勢いを失っています」


---


「それから、日本です」補佐官は言った。


「MPBの審議が、進んでいます。区分を資格判定の要件から外す条文が、小委員会に、かかっています」


「それと、先日、MPBが佐久間博士の研究に、記録を正式提供しました。非適合者の発動記録です。研究は、加速すると」


---


コールは、窓の方を向いた。


頭の中で、算盤を、置き直した。


---


佐久間博士の隔離は、保護のためだった。


脅威があり、出どころが見えない間は、囲いが最も安かった。


だが、出どころは、今日、名前がついた。


---


組織は、割れ始めている。


口座は、凍った。


脅威の値段が、下がっていく。


---


一方で、囲いの値段は、上がっていた。


研究は、外の記録を、必要とし始めた。


世論は、隔離を、保護と呼ばなくなり始めた。


---


囲いは、守るためのものだ。


守るはずの研究を、囲いが遅らせ始めたら。


囲いの意味を、計算し直す。


---


「大統領」補佐官が言った。「佐久間博士の警護体制は、見直しますか」


「まだだ」コールは言った。「組織の残りが、割れてからだ」


「わかりました」


---


「ただ、試算を作っておけ」コールは言った。


「試算、ですか」


「制限を、段階的に外した場合の」コールは言った。「損と、得の」


---


補佐官は、頷いて、出ていった。


コールは、一人になった。


窓の外に、夕方の街があった。


---


日本の、あの男のことを、考えた。


「君は、どうする」


問いを投げてから、ずいぶん、経つ。


---


答えの代わりに、記録が、動き続けていた。


役員会。先例。条文。提供。


そして、一人の男の、供述。


---


あの供述がなければ、今日の会見は、なかった。


あの男が、供述をさせたわけでは、ないだろう。


だが、話す相手に、選ばれた。


記録を消さない男だと、知られていたからだ。


---


答えは、まだ、届いていない。


だが、届き始めている気が、した。


---


報いは、会計だ。


そして、会計は、いつか必ず、締める日が来る。


コールは、それを、知っていた。


---


第百六十五話 了

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