「返し方」
二日後の夜、電話が来た。
「決めた」ソウは言った。「明日、出頭する」
ハルトは、受話器を、持ち直した。
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「弁護士は、立てた」ソウは言った。「話す中身も、整理した」
「はい」
「それで、二つ、頼みがある」
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「一つ。リアに、先に、直接詫びたい」
「出頭したら、当分、その機会がない」
「場を、作ってくれ」
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「わかりました」ハルトは言った。「二つ目は」
「ロシアの線の資料だ」ソウは言った。「写しを、お前に預ける」
「IMPOに、正式な回路で届けろ。俺の同意書も、つける」
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「はい」ハルトは言った。
「以上だ」ソウは言った。「明日、庁舎に寄る」
電話が、切れた。
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翌朝、リアに、すべてを話した。
リアは、最後まで、口を挟まなかった。
聞き終えてから、一度だけ、目を閉じた。
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「会議室を、押さえます」リアは言った。
それだけだった。
声は、いつも通りだった。
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昼前、ソウが庁舎に来た。
スーツだった。
会議室に、三人で入った。
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ソウは、座らなかった。
立ったまま、リアに向き合った。
「リア」ソウは言った。「照会情報を流したのは、俺だ」
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「乗り込みの件も、裏で手を引いた」
「お前の職場を、危険にさらした」
「すまなかった」
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ソウは、頭を下げた。
深く、下げた。
リアは、しばらく、黙っていた。
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「神宮寺主任」リアは言った。
昔の呼び方だった。
「あなたは、昔から、順番を間違える人でした」
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「謝る前に、やめる。やめる前に、壊す」
「今回も、そうです。詫びの前に、話すことがあったはずです」
「でも」リアは言った。
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リアは、窓の方を向いた。
振り向かずに、言った。
「最後の順番だけは、合っています。出頭の前に、来たことは」
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ソウは、頭を上げた。
「達者でな、リア」ソウは言った。
「行ってらっしゃい」リアは言った。
振り向かなかった。
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午後、ハルトは、ソウと警察署へ歩いた。
ソウの弁護士が、先に着いていた。
玄関の前で、ソウは、足を止めた。
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「神崎」ソウは言った。「資料は、預けたな」
「はい」ハルトは言った。「同意書と一緒に、今日、IMPOへ送ります」
「頼んだ」
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ソウは、警察署の建物を、見上げた。
「中で、全部話す」ソウは言った。「何年かかるかは、向こうが決める」
「はい」
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「その間に、考えることも、決めてある」
「返し方だ」ソウは言った。
ハルトは、ソウを見た。
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「お前に協力するだけじゃ、返したことにならない」ソウは言った。
「それは、入口だ。わかってきた」
「区分を守るために使った力と、頭と、伝手がある」
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「今度は、逆向きに使う」
「魔法を、線のこっち側だけのものにしない。誰にでも、届くものにする」
「やり方は、中で考える。時間だけは、たっぷりある」
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ハルトは、少し、間を置いた。
「その活動は、記録に残ります」ハルトは言った。
「残るだろうな」
「では、私が審査する日が、来るかもしれません」
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ソウは、笑った。
今度は、淋しくない笑い方だった。
「そのときは、手加減するなよ」ソウは言った。
「しません」ハルトは言った。「記録は、公平なので」
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「行ってくる」ソウは言った。
背中を向けて、玄関を入っていった。
振り返らなかった。
ハルトは、その背中が見えなくなるまで、立っていた。
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庁舎に戻って、資料の発送手続きをした。
ソウの同意書。経路。名前。金の流れ。
リアの決裁を取り、正式な回路で、IMPOへ送った。
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夕方、デイヴィッドから、確認の連絡が来た。
「受け取った」デイヴィッドは言った。「今、ざっと見た」
声が、少し、硬かった。
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「ハルト。これは、大きい」
「教授の件を追っている線に、直接つながる」
「初めての、実名の入った糸口だ」
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「使ってください」ハルトは言った。「そのために、あの人は、渡しました」
「わかった」デイヴィッドは言った。「しかるべき所に、今夜のうちに上げる」
電話が、切れた。
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家に帰った。
夕食を作った。
時計を見た。八時を過ぎていた。
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サクに電話した。
つながらなかった。
同じ案内が、流れた。
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ハルトは、ノートを開いた。
新しいページに、日付を書いた。
その下に書いた。
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「神宮寺さんが、出頭した。弁護士を立てて、全部話すと」
「その前に、リアに詫びた。リアは『最後の順番だけは、合っています』と」
「ロシア線の資料を、同意書つきでIMPOへ送った。デイヴィッドは『大きい』と」
「『返し方は決めてある。力を、逆向きに使う』と。魔法を、誰にでも届くものにする、と」
「『そのときは、手加減するなよ』。しません、と答えた」
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五行、書いた。
ペンを置いた。
四行目を、もう一度、読んだ。
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今日のことを頭の中に入れた。
深く下がった頭。
リアの、振り向かなかった背中。「行ってらっしゃい」という言葉。
警察署の玄関。「逆向きに使う」という言葉。
デイヴィッドの硬い声。
全部、残った。
借りを返す方法は、借りた相手に返すことだけではなかった。
もっと大勢に、別の形で返すことも、返し方だった。
あの人は、それを選んだ。
窓の外に、七月の夜があった。
遠くで、電車の音がした。
寝た。
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第百六十四話 了




