↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法特許庁ーーその魔法、違法ですーー  作者: にけ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
162/199

「照合」

朝、警察から連絡が来た。


会議室で、捜査官と会った。


事情聴取のときと、同じ二人だった。


---


「三人、逮捕しました」捜査官は言った。


ハルトは、静かに、息を吐いた。


「あなたの供述が、決め手でした」捜査官は言った。「術式の系統。構え。声。全部、一致しました」


---


「そうですか」ハルトは言った。


「それで、一つ、お伝えしておきます」捜査官は言った。「背後の話です」


---


「三人は、単独ではありません」


「十数年前に解散したはずの、強硬派の集まりがあります。協会の周辺にいた連中です」


「その流れをくむ集まりが、また動いています。資金と指示系統を、調べています」


---


ハルトは、頷いた。


「もう一つ」捜査官は言った。「神宮寺ソウさんのことです」


ハルトは、捜査官を見た。


---


「なぜ、あの夜、現場の近くにいたのか」捜査官は言った。「本人は『近くにいた』としか言いません」


「あなたには、何か、心当たりは」


---


ハルトは、少し、間を置いた。


「事件の前に、警告を受けました」ハルトは言った。「『協会の周りがきな臭い。お前の名前が出ている』と」


「それだけですか」


「事実としては、それだけです」ハルトは言った。


---


推測は、言わなかった。


供述に、推測は入れない。


それは、変わらなかった。


---


捜査官は、頷いて、帰っていった。


でも、質問は、部屋に残った。


なぜ、あの人は、あんなに詳しいのか。


---


昼、協会が短い声明を出した。


「逮捕された者らと、当会は無関係である」


それだけだった。


---


午後、窓口に立った。


問い合わせが、一件あった。


百三十五件になった。


手は、いつも通りに動いた。


頭の隅では、別の作業が、続いていた。


---


夕方、フロアに人が減ってから。


ハルトは、頭の中の記録を、並べ始めた。


日付の順に、置いていった。


---


第一。ソウは、協会内部の空気を知っていた。


「協会が、区分の崩壊を本気で恐れている」


退職した人間が知る範囲を、超えていた。


---


第二。役員会で反対する役員二名の情報。


名前だけではなかった。一人は筋の人、一人は商売の人。


中にいた人間の、精度だった。


---


第三。あの夜の警告。


「いつもの噂とは質が違う」


質の違いが、わかる場所にいたということだった。


---


第四。「昔の知り合いに近い連中だ」


近い、という言い方。


知り合いだ、とは言わなかった。でも、否定でもなかった。


---


第五。「俺はまだ、お前に返しきれてないものがある」


返す、という言葉は、借りがある人の言葉だった。


何を、借りたのか。


---


第六。十数年前に解散した、強硬派の集まり。


ソウが魔法庁にいたのは、いつからか。


年数を、数えた。重なっていた。


---


ハルトは、並べ終えた。


六つの記録は、一つの方向を、指していた。


神宮寺ソウは、あの流れの中に、いた。


---


確かめたわけではない。


でも、他の説明が、残らなかった。


記録を並べれば、答えは出る。


出てほしくない答えでも、出る。


---


ハルトは、しばらく、動かなかった。


ソウは、命の恩人だった。


小委員会の情報も、ソウ経由だった。


---


知らないまま、借り続けることは、できなかった。


それは、ソウに対しても、正しくなかった。


記録に対しても、正しくなかった。


---


家に帰った。


夕食を作った。


食べ終えてから、スマートフォンを、長く見た。


---


電話をかけた。


三回目の呼び出しで、つながった。


「神崎か」ソウは言った。「どうした」


---


「神宮寺さん」ハルトは言った。「聞きたいことがあります」


「何をだ」


「『昔の知り合いに近い連中』の、話です」


---


沈黙が、来た。


長かった。


電話の向こうで、車の音だけが、流れていった。


---


「……三人、挙がったらしいな」ソウは言った。


「はい。背後も、調べられています」


「そうか」


---


また、沈黙があった。


それから、ソウは言った。


「電話では、話せん」


---


「はい」


「会って話す」ソウは言った。「場所は、追って送る。二、三日くれ」


「わかりました」


---


「神崎」ソウは言った。


「はい」


「……よく、並べたな」ソウは言った。「お前は、そういう奴だった」


電話が、切れた。


---


ハルトは、スマートフォンを置いた。


怒りは、なかった。


あるのは、重さだけだった。


---


ソウが何をした人でも、あの夜、助けられたことは、消えない。


助けられたことがあっても、その前に何があったかも、消えない。


記録は、両方、残す。


どちらかを消して、楽になることは、しない。


---


ハルトは、ノートを開いた。


新しいページに、日付を書いた。


その下に書いた。


---


「襲撃の三人が逮捕された。供述が決め手だと言われた」


「背後に、十数年前の強硬派の流れ。再結成の動きがあるらしい」


「頭の中の記録を、六つ並べた。神宮寺さんは、あの流れの中にいた。他の説明が残らない」


「電話した。長い沈黙のあと、『会って話す』と」


「借りたものの出どころを知ることも、返し方のうちだと思う」


---


五行、書いた。


ペンを置いた。


三行目を、長く見ていた。


---


今日のことを頭の中に入れた。


捜査官の「背後の話です」という言葉。

協会の短い声明。並べた六つの記録。

電話の長い沈黙。「よく、並べたな」という声。


全部、残った。


記録は、事実を並べる。


並べれば、答えが出る。


出た答えと、どう向き合うか。


それは、記録の外の仕事だった。


窓の外に、六月の夜があった。


蒸し暑い夜だった。


寝た。


---


第百六十二話 了

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。