「照合」
朝、警察から連絡が来た。
会議室で、捜査官と会った。
事情聴取のときと、同じ二人だった。
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「三人、逮捕しました」捜査官は言った。
ハルトは、静かに、息を吐いた。
「あなたの供述が、決め手でした」捜査官は言った。「術式の系統。構え。声。全部、一致しました」
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「そうですか」ハルトは言った。
「それで、一つ、お伝えしておきます」捜査官は言った。「背後の話です」
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「三人は、単独ではありません」
「十数年前に解散したはずの、強硬派の集まりがあります。協会の周辺にいた連中です」
「その流れをくむ集まりが、また動いています。資金と指示系統を、調べています」
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ハルトは、頷いた。
「もう一つ」捜査官は言った。「神宮寺ソウさんのことです」
ハルトは、捜査官を見た。
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「なぜ、あの夜、現場の近くにいたのか」捜査官は言った。「本人は『近くにいた』としか言いません」
「あなたには、何か、心当たりは」
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ハルトは、少し、間を置いた。
「事件の前に、警告を受けました」ハルトは言った。「『協会の周りがきな臭い。お前の名前が出ている』と」
「それだけですか」
「事実としては、それだけです」ハルトは言った。
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推測は、言わなかった。
供述に、推測は入れない。
それは、変わらなかった。
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捜査官は、頷いて、帰っていった。
でも、質問は、部屋に残った。
なぜ、あの人は、あんなに詳しいのか。
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昼、協会が短い声明を出した。
「逮捕された者らと、当会は無関係である」
それだけだった。
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午後、窓口に立った。
問い合わせが、一件あった。
百三十五件になった。
手は、いつも通りに動いた。
頭の隅では、別の作業が、続いていた。
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夕方、フロアに人が減ってから。
ハルトは、頭の中の記録を、並べ始めた。
日付の順に、置いていった。
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第一。ソウは、協会内部の空気を知っていた。
「協会が、区分の崩壊を本気で恐れている」
退職した人間が知る範囲を、超えていた。
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第二。役員会で反対する役員二名の情報。
名前だけではなかった。一人は筋の人、一人は商売の人。
中にいた人間の、精度だった。
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第三。あの夜の警告。
「いつもの噂とは質が違う」
質の違いが、わかる場所にいたということだった。
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第四。「昔の知り合いに近い連中だ」
近い、という言い方。
知り合いだ、とは言わなかった。でも、否定でもなかった。
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第五。「俺はまだ、お前に返しきれてないものがある」
返す、という言葉は、借りがある人の言葉だった。
何を、借りたのか。
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第六。十数年前に解散した、強硬派の集まり。
ソウが魔法庁にいたのは、いつからか。
年数を、数えた。重なっていた。
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ハルトは、並べ終えた。
六つの記録は、一つの方向を、指していた。
神宮寺ソウは、あの流れの中に、いた。
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確かめたわけではない。
でも、他の説明が、残らなかった。
記録を並べれば、答えは出る。
出てほしくない答えでも、出る。
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ハルトは、しばらく、動かなかった。
ソウは、命の恩人だった。
小委員会の情報も、ソウ経由だった。
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知らないまま、借り続けることは、できなかった。
それは、ソウに対しても、正しくなかった。
記録に対しても、正しくなかった。
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家に帰った。
夕食を作った。
食べ終えてから、スマートフォンを、長く見た。
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電話をかけた。
三回目の呼び出しで、つながった。
「神崎か」ソウは言った。「どうした」
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「神宮寺さん」ハルトは言った。「聞きたいことがあります」
「何をだ」
「『昔の知り合いに近い連中』の、話です」
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沈黙が、来た。
長かった。
電話の向こうで、車の音だけが、流れていった。
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「……三人、挙がったらしいな」ソウは言った。
「はい。背後も、調べられています」
「そうか」
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また、沈黙があった。
それから、ソウは言った。
「電話では、話せん」
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「はい」
「会って話す」ソウは言った。「場所は、追って送る。二、三日くれ」
「わかりました」
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「神崎」ソウは言った。
「はい」
「……よく、並べたな」ソウは言った。「お前は、そういう奴だった」
電話が、切れた。
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ハルトは、スマートフォンを置いた。
怒りは、なかった。
あるのは、重さだけだった。
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ソウが何をした人でも、あの夜、助けられたことは、消えない。
助けられたことがあっても、その前に何があったかも、消えない。
記録は、両方、残す。
どちらかを消して、楽になることは、しない。
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ハルトは、ノートを開いた。
新しいページに、日付を書いた。
その下に書いた。
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「襲撃の三人が逮捕された。供述が決め手だと言われた」
「背後に、十数年前の強硬派の流れ。再結成の動きがあるらしい」
「頭の中の記録を、六つ並べた。神宮寺さんは、あの流れの中にいた。他の説明が残らない」
「電話した。長い沈黙のあと、『会って話す』と」
「借りたものの出どころを知ることも、返し方のうちだと思う」
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五行、書いた。
ペンを置いた。
三行目を、長く見ていた。
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今日のことを頭の中に入れた。
捜査官の「背後の話です」という言葉。
協会の短い声明。並べた六つの記録。
電話の長い沈黙。「よく、並べたな」という声。
全部、残った。
記録は、事実を並べる。
並べれば、答えが出る。
出た答えと、どう向き合うか。
それは、記録の外の仕事だった。
窓の外に、六月の夜があった。
蒸し暑い夜だった。
寝た。
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第百六十二話 了




