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魔法特許庁ーーその魔法、違法ですーー  作者: にけ


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155/199

「灯り」

エマが来て、数日が過ぎた。


二人の研究は、回り始めていた。


朝から、実験を進めた。


---


エマが、実験台の前に立った。


手のひらを、上に向けた。


目を閉じて、構造を、先に思い描いた。


---


手のひらに、光が灯った。


装置は、どこにもなかった。


サクは、時間を計った。


---


一分。二分。


光は、消えなかった。


三分を、超えた。


---


「安定しています」サクは言った。


「はい」エマは言った。「前より、楽です」


構造を先に持つと、術式が、崩れなかった。


---


サクは、全部を記録した。


発動の立ち上がり。光の強さ。持続の時間。


一秒残らず、書き取った。


---


昼、二人で、休憩した。


エマは、椅子に、深く座った。


少し、疲れた顔をしていた。


---


「無理は、しないでください」サクは言った。


「大丈夫です」エマは言った。「これは、いい疲れです」


エマは、窓の外の山を、見ていた。


---


「父は」エマは言った。「これを、私に遺したんです」


「はい」


「装置なしで、魔法が使えるか」エマは言った。「その問いを」


---


サクは、教授のノートを、見た。


手書きの字が、そこにあった。


「わからない。サクなら、その記録の続きを書けると思う」


---


「父は、急いでいました」エマは言った。「最後の頃」


「はい」


「今なら、わかります」エマは言った。「時間がないと、感じていたんだと思います」


---


エマの声は、静かだった。


サクは、何も言わずに、聞いていた。


山の稜線に、雲が、かかっていた。


---


「私、こわかったんです」エマは言った。「連れ去られたとき」


「はい」


「もう、研究には戻れないと、思いました」エマは言った。


---


「でも」エマは言った。「戻りたかった」


「どうして」サクは言った。


「父の続きを、書けるのは、私だと思ったから」エマは言った。


---


サクは、頷いた。


その気持ちは、わかった。


置いていかれたものを、拾える人は、限られている。


---


「佐久間さんは」エマは言った。「平気ですか」


「何がですか」


「ずっと、ここに、閉じ込められて」エマは言った。「一人で」


---


サクは、少し、間を置いた。


「平気では、ないです」サクは言った。


正直に、言った。


---


「でも、研究があります」サクは言った。「それと」


「それと?」


サクは、少し迷った。それから話した。


---


「私には、大事な人がいます」サクは言った。「神崎ハルトくん」


エマは、顔を上げた。


「神崎さん」エマは言った。「あの、四人の実験の」


---


「はい」サクは言った。


「よく覚えています」エマは言った。「私の発動を、いつも記録してくれました」


---


「交際しています」サクは言った。


エマは、目を少し見開いた。


「知りませんでした」エマは言った。「そうだったんですね」


---


「連絡は、取れません」サクは言った。「電話も、メールも」


「じゃあ」


「でも、つながっています」サクは言った。「記録で」


---


エマは、首を、かしげた。


サクは、説明した。


申請の追補に、符号を埋めたこと。


---


ハルトくんだけが、気づく形で。


そして、ハルトくんが、返してきたこと。


審査担当の欄に、名前を、残して。


---


エマは、少し笑った。


「神崎さんらしいです」エマは言った。「あの人、全部、覚えているから」


「二人とも、記録の人だから」サクは言った。


---


「素敵です」エマは言った。「言葉が、なくても、伝わるんですね」


サクは、下を向いた。


頬が、少し、熱くなった。


---


「話しすぎました」サクは言った。


「いえ」エマは言った。「聞けて、よかったです」


エマは、久しぶりに、明るい顔をしていた。


---


午後、また、研究に戻った。


今度は、エマが掴んだ感覚を、図に落とす作業だった。


構造を、記録に、変える。


---


エマが、言葉で、感覚を説明する。


サクが、それを、図式にする。


二人で、一つずつ、確かめた。


---


「これが、できれば」サクは言った。「誰でも、辿れます」


「誰でも」


「魔力保有者なら」サクは言った。「記録があれば、発動できる」


---


エマは、その図を、見た。


「才能じゃ、なくなりますね」エマは言った。


「はい」サクは言った。「センスは、記録で渡せます」


---


線が、また一つ、薄くなる。


発動できる人と、できない人。


その境目が、記録の中で、溶けていく。


---


「不思議ですね」エマが言った。


「何がですか」


「才能だと思われていたものが」エマは言った。「ただの、手順だったなんて」


---


「手順ではなく、構造です」サクは言った。


「同じことですか」


「少し違います」サクは言った。「順番じゃなくて、全体の形を、先に持つんです」


---


エマは、図を、じっと見た。


「父が、これを、見たかったと思います」エマは言った。


サクは、頷いた。


---


「見せましょう」サクは言った。「完成させて」


「はい」エマは言った。


その声には、力が、戻っていた。


---


夕方、エマが、自分の部屋に戻った。


「おやすみなさい」エマは言った。


「おやすみなさい」サクは言った。


---


研究室に、一人になった。


でも、昼間の声が、まだ残っていた。


静けさの、質が、変わっていた。


---


サクは、自分のノートを、開いた。


新しいページに、日付を書いた。


その下に書いた。


---


「エマの発動が、三分を超えて安定した。構造を先に持つと崩れない」


「エマが、父のことを話した。急いでいた理由が、今ならわかると」


「エマに、ハルトくんのことを話した。記録でつながっている、と」


「掴んだ感覚を、図に落とし始めた。できれば、誰でも辿れる」


「センスは、記録で渡せる。線が、また一つ薄くなる」


---


五行、書いた。


ペンを置いた。


三行目を、もう一度、読んだ。


---


ハルトくんのことを、人に話したのは、久しぶりだった。


話すと、少し、近くに感じた。


会えないのに、不思議だった。


---


窓の外を、見た。


山の上に、星が出ていた。


日本は、もう夜だろう。


---


ハルトくんは、今ごろ、何をしているだろう。


エマのことを、話したかった。


「もう一人、増えたよ」と。


---


サクは、しばらく、その想像をした。


それから、明かりを消した。


ベッドに入った。


---


第百五十五話 了

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