「革命」
朝、サミットの会場に着いた。
コールは、車を降りた。
各国の首脳が、すでに集まっていた。
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握手を交わした。
笑顔を作った。
頭の中は、冷えていた。
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今日の議題に、あの研究が入っている。
佐久間博士の論文。
非適合者でも、魔法が使える技術。
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コールは、各国の出方を、事前に調べていた。
賛成が、いくつか。
懸念が、いくつか。
半々だった。
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誰が、何を言うかも、おおよそ、わかっていた。
首脳の数だけ、資料を読んでいた。
誰が、どの企業とつながっているか。
誰が、魔法使いの票で、当選したか。
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会議は、始まる前に、半分、終わっている。
コールにとって、いつも、そういうものだった。
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午前の会議が始まった。
経済。安全保障。
議題が、順に進んだ。
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技術革新の項に入った。
議長国の首相が、口を開いた。
「佐久間博士の研究について、議論したい」
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ヨーロッパの一国の首脳が、最初に話した。
「魔法の均衡が、崩れます」首脳は言った。「安全保障上の、懸念がある」
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別の首脳が、続いた。
「懸念は、わかる」首脳は言った。「だが、需要がある。止められない流れだ」
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魔法使いの多い国の首脳が、首を振った。
「拙速に進めるべきでは、ない」首脳は言った。「秩序の問題です」
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新興国の首脳が、身を乗り出した。
「秩序、と言うが」首脳は言った。「その秩序から、外されてきた国もある」
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室内が、少し、ざわついた。
「魔法を持つ国と、持たない国」首脳は言った。「その差は、三十年、開く一方だった」
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「この技術は、それを埋める」首脳は言った。「我が国は、歓迎する」
魔法使いの多い国の首脳が、反論した。
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「均衡が崩れれば、戦争のリスクが上がる」首脳は言った。
「すでに、戦争は起きている」新興国の首脳は言った。
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コールは、その応酬を、聞いていた。
どちらも、自国の利益で話している。
当然だった。
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意見は、割れた。
賛成と、懸念。
ちょうど、事前の調べの通りだった。
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コールは、しばらく、黙って聞いていた。
それから、手を挙げた。
視線が、集まった。
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「アメリカは、この研究を支持する」コールは言った。
室内が、少し、動いた。
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「理由は、単純だ」コールは言った。「全員が魔法を使える社会は、最も効率的だ」
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「効率の問題ですか」誰かが言った。
「ああ」コールは言った。「感情の話では、ない」
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「魔法が、世に根付いて、三十年あまりだ」コールは言った。
首脳たちが、聞いていた。
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「あのとき、世界は変わった」コールは言った。「使える者と、使えない者に、分かれた」
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「今、また、変わろうとしている」コールは言った。「その線が、消えようとしている」
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「これは、革命だ」コールは言った。「人類を、また一歩、前に進める」
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室内が、静かになった。
賛成派が、頷いた。
懸念派は、黙っていた。
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コールは、声のトーンを、変えた。
「ただし、一つ、言っておく」
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「先日、研究者が一人、殺された」コールは言った。「カーター・ジェームズ教授だ」
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「研究を、力で止めようとした者が、いる」コールは言った。
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「どの国の手か」コールは言った。「今は、まだ、特定していない」
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コールは、一人ずつ、首脳の顔を見た。
ゆっくりと。
最後まで。
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「だが、必ず、特定する」コールは言った。「関与した国は、相応の報いを受ける」
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室内が、固まった。
誰も、口を開かなかった。
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「証拠は、あるのか」一人が言った。
「今は、ない」コールは言った。「だが、時間の問題だ」
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「これは、脅しか」別の一人が言った。
「忠告だ」コールは言った。「念のため、言っておいた」
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魔法使いの多い国の首脳が、口を開いた。
「アメリカは、ずいぶん、この研究に肩入れする」首脳は言った。「裏に、何かあるのか」
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「裏はない」コールは言った。「表に、利益があるだけだ」
「利益」
「この技術を、最初に量産できる国が、次の三十年を取る」コールは言った。
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室内が、また、静かになった。
その一言で、半分の首脳が、計算を始めた顔になった。
コールは、それを、見ていた。
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懸念を、並べても、止まらない。
利益が、見えれば、人は動く。
国も、同じだった。
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コールは、それ以上、言わなかった。
言葉は、足りていた。
牽制は、届いた。
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この場に、手を下した国があるかは、わからない。
だが、いてもいなくても、関係なかった。
全員に、聞かせることに、意味があった。
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会議は、午後まで続いた。
技術の議論は、結論を出さなかった。
それで、よかった。
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結論など、いらない。
流れは、もう、できている。
会議が、止められるものでは、なかった。
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夕方、コールは、会場の窓辺に立った。
外に、街が広がっていた。
灯りが、ついていた。
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三十年あまり前。
魔法が、世界を変えた。
人々は、それを、受け入れた。
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最初は、恐れた。
危険だ、神への冒涜だ、と。
今、研究に反対する声と、同じだった。
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だが、三十年で、魔法は当たり前になった。
学校で習い、仕事で使い、戦争でも使われた。
反対した者たちは、忘れられた。
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次も、同じだ。
今、騒いでいる国も、団体も。
流れが決まれば、乗るか、取り残されるかだ。
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今度は、誰でも魔法が使える時代が来る。
止められない。
なら、先頭に立つ。
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それが、アメリカの、取るべき位置だった。
感情ではない。
計算だった。
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コールは、補佐官を、呼んだ。
「佐久間博士の警護は」コールは言った。
「変わりなく、続けています」補佐官は言った。
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「研究の進み具合は」
「順調と、報告が来ています」補佐官は言った。
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コールは、頷いた。
研究の主導権は、佐久間博士が持っている。
それは、変えるつもりは、なかった。
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ふと、一人の男のことを、思い出した。
日本の、非適合者。
神崎ハルト。
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ホワイトハウスで、装置を使い、術式を発動した男。
「記録が動いた」と言った男。
コールは、その答えを、気に入っていた。
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あの男に、問いを投げた。
「君は、どうする」
まだ、答えは、返ってきていない。
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ただの一般人だ。
何が、できるわけでもない。
そう、思っていた。
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だが、と、コールは考えた。
革命を起こすのは、いつも、最初は、ただの一人だ。
あの男が、どう動くか。
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コールは、少し、待つことにした。
佐久間博士の答えも。
あの男の答えも。
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窓の外で、街の灯りが、揺れた。
革命の前夜は、いつも、静かだ。
コールは、そう、知っていた。
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第百四十六話 了




