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魔法特許庁ーーその魔法、違法ですーー  作者: にけ


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136/166

「残らない記録」

朝、リアの部屋に呼ばれた。


「神崎さん」リアは言った。「デイヴィッドさんが、来ています」


「来ている、というのは」


「日本に、です」リアは言った。「今、この庁舎にいます」


---


ハルトは、少し間を置いた。


「直接、ですか」


「はい」リアは言った。「予定にはありませんでした。今朝、連絡があって、すぐに来庁されました」


---


別室に入った。


デイヴィッドが、立っていた。


いつもの画面越しより、顔が、疲れていた。


---


「神崎さん」デイヴィッドは言った。「急に、すみません」


「いえ」


「座ってください」デイヴィッドは言った。


三人で、座った。


---


「まず、一つ」デイヴィッドは言った。


封筒を、机に置いた。


「サクさんからの伝言です」


---


ハルトは、封筒を開けた。


紙が、一枚、入っていた。


サクの字だった。


---


「ハルトくんへ。元気にしています。研究は続けます。また、必ず連絡します。サク」


---


ハルトは、その紙を、しばらく見ていた。


「内容は、確認済みです」デイヴィッドは言った。「これは、神崎さんが持っていて構いません」


「ありがとうございます」


---


デイヴィッドは、少し間を置いた。


「リアさん」デイヴィッドは言った。「もう一つ、伝えたいことがあります。これは、神崎さん個人宛てのものです」


リアは、デイヴィッドを見た。


---


「個人宛て、というのは」リアは言った。


「内容は、お伝えできません」デイヴィッドは言った。「申し訳ありません」


リアは、少し間を置いた。


「わかりました」リアは言った。「席を外します」


---


リアが、部屋を出た。


ドアが、閉まった。


二人になった。


---


「神崎さん」デイヴィッドは言った。「これから話すことは、紙に書けません。録音も、できません」


「はい」


「コール大統領から、口頭で、神崎さんに伝えるように言われました」デイヴィッドは言った。「一言一句、そのまま伝えます」


---


デイヴィッドは、少し間を置いた。


「メモは取らないでください」デイヴィッドは言った。「それも、指示です」


「わかりました」


---


デイヴィッドは、目を閉じた。


少し、息を吸った。


話し始めた。


---


「現状についての伝言です」


「この研究は、危険だ」


「今の世の中を見れば、わかるだろう」


---


「私は、この事態を予測していた」


「だからあの時、公表を止めた」


---


ハルトの頭の中で、記録が動いた。


ホワイトハウスでの出来事。


「公表を控えてほしい」


サクが、答えた。


「公表します。予定通り、来月、公表します」


コールは、言った。


「わかった。その答えは、予想していた」


---


デイヴィッドは、続けた。


「この結果を選んだのは、佐久間博士であり、君だ」


---


ハルトは、何も言わなかった。


デイヴィッドは、続けた。


---


「佐久間博士の安全は、保証する」


「君は、ただの一般人だ」


「佐久間博士は、自身のやるべきことを選んだ」


「君は、どうする」


---


デイヴィッドは、目を開けた。


「以上です」デイヴィッドは言った。「これで、全文です」


---


部屋が、静かだった。


ハルトは、もう一度、頭の中で、今聞いた言葉を、並べた。


一語も、抜けていなかった。


---


「デイヴィッドさん」ハルトは言った。「一つ、確認したいです」


「はい」


「これは、本当にコール大統領の言葉ですか」


---


デイヴィッドは、少し間を置いた。


「私は、そう聞いて、そのまま伝えました」デイヴィッドは言った。「それ以上は、確認できません」


「わかりました」


---


「神崎さん」デイヴィッドは言った。「一つだけ、私自身の言葉を、伝えてもいいですか」


「はい」


「これは、公式な立場ではありません」デイヴィッドは言った。「デイヴィッドとして、です」


---


「佐久間さんは、無事です」デイヴィッドは言った。「それは、誰の言葉でもなく、私が、確認していることです」


「ありがとうございます」


---


デイヴィッドは、立ち上がった。


「すぐに、戻ります」デイヴィッドは言った。「今日、来たことも、含めて、扱いは、リアさんと相談してください」


「はい」


---


デイヴィッドが、部屋を出た。


リアが、入ってきた。


「神崎さん」リアは言った。「大丈夫ですか」


「はい」


「内容は、聞きません」リアは言った。「ただ、何か、必要なことがあれば、言ってください」


「ありがとうございます」


---


午後、いつも通り、窓口業務をした。


頭の中に、二つの紙があった。


一つは、本物の紙だった。


もう一つは、紙にならない言葉だった。


---


サクの字。


「また、必ず連絡します」


---


口頭の言葉。


「君は、どうする」


---


夕方、家に帰った。


夕食を作った。


時計を見た。


八時を過ぎていた。


---


サクに電話した。


呼び出し音は、鳴らなかった。


同じ案内だった。


---


ハルトは、ノートを開いた。


新しいページに、日付を書いた。


ペンを、紙の上で、止めた。


---


サクの伝言のことは、書けた。


「サクさんから伝言が届いた。デイヴィッドさんが、日本に直接来た。『元気にしています。研究は続けます。また、必ず連絡します』」


---


もう一つのことは、書けなかった。


書かないように、と言われていた。


書かなくても、頭の中にあった。


---


ハルトは、ペンを置いた。


ノートを、見た。


書かれていないページに、もう一つの記録があった。


---


「君は、どうする」


その問いだけが、紙の外に、残っていた。


---


ノートを閉じた。


今日のことを頭の中に入れた。


サクの字。「また、必ず連絡します」という言葉。デイヴィッドが、直接日本に来たこと。「佐久間さんは、無事です。私が、確認していることです」という言葉。


そして、紙には残せない、もう一つの言葉。


「この結果を選んだのは、佐久間博士であり、君だ」


「君は、ただの一般人だ」


「君は、どうする」


---


全部、残った。


紙に書いたものも。


紙に書かなかったものも。


どちらも、消えなかった。


---


窓の外に、六月の夜があった。


雨は、止んでいた。


寝た。


---


第百三十六話 了

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