「伝言」
朝、サクは、目が覚めた。
カーテンの隙間から、光が入っていた。
しばらく、ベッドの中で、じっとしていた。
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研究は、続ける。
その答えは、もう、輪郭ではなかった。
サクは、起き上がった。
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朝食のあと、ドアをノックする音がした。
「佐久間さん」デイヴィッドの声だった。
「はい」
ドアが開いた。
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「おはようございます」デイヴィッドは言った。「お加減は、どうですか」
「大丈夫です」サクは言った。「お話、いいですか」
「はい」
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「決めました」サクは言った。「研究は、続けます」
デイヴィッドは、サクを見た。
少し、間を置いた。
「わかりました」デイヴィッドは言った。「コール大統領に、伝えます」
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「もう一つ、お願いがあります」サクは言った。
「はい」
「日本の、神崎ハルトと、連絡を取りたいです」サクは言った。
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デイヴィッドは、少し間を置いた。
「現時点では、難しいです」デイヴィッドは言った。「情報管理の措置が、まだ続いています」
「いつまでですか」
「捜査の状況によります」デイヴィッドは言った。「ただ、できることがあるか、確認します」
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午後、別室に移動した。
コールが、待っていた。
「佐久間さん」コールは言った。「決めてくれたんだな」
「はい」サクは言った。「研究は、続けます」
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「わかった」コールは言った。「場所については、これから説明する」
サクは、頷いた。
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「新しい施設は、国内の、別の場所になる」コールは言った。「これまでより、警備の体制が厳しい」
「研究は、できますか」
「できる」コールは言った。「必要な設備は、すでに準備されている」
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「移動は、いつですか」サクは言った。
「今日中だ」コールは言った。「準備ができたら、案内する」
「わかりました」
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少し、間があった。
「佐久間さん」コールは言った。「他に、何かあるか」
サクは、デイヴィッドを見た。
デイヴィッドが、頷いた。
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「ハルトくんと、連絡を取りたいです」サクは言った。「デイヴィッドさんには、伝えました」
「聞いている」コールは言った。「現時点では、難しい」
「理由は、わかっています」サクは言った。
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サクは、少し間を置いた。
「直接の連絡が、難しいのは、わかっています」サクは言った。「でも」
コールは、待った。
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「せめて、伝言だけでも、お願いできませんか」サクは言った。「内容は、確認してもらって構いません」
コールは、デイヴィッドを見た。
デイヴィッドは、少し考えた。
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「短いものであれば」デイヴィッドは言った。「内容を確認した上で、MPB経由で伝えることは、できると思います」
「事件や、施設に関することは、書けません」コールは言った。「それ以外であれば」
「はい」サクは言った。「ありがとうございます」
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「紙を、用意します」デイヴィッドは言った。
デイヴィッドが、部屋を出た。
しばらくして、紙とペンを持って、戻ってきた。
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サクは、紙を見た。
ペンを持った。
何を書くか、すぐには決まらなかった。
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書きたいことは、たくさんあった。
教授のこと。
ノートのこと。
研究を続けると決めたこと。
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どれも、書けなかった。
事件に関することは、書けない。
施設に関することも、書けない。
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サクは、ペンを、紙に置いた。
短く、書いた。
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「ハルトくんへ。元気にしています。研究は続けます。また、必ず連絡します。サク」
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書き終えて、もう一度、読んだ。
短い文章だった。
それでも、書きたかったことは、入っていると思った。
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「これで、お願いします」サクは言った。
デイヴィッドは、紙を受け取った。
内容を、確認した。
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「問題ありません」デイヴィッドは言った。「MPBに、確認の上で届けます」
「いつ、届きますか」
「すぐに、手配します」デイヴィッドは言った。
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「ありがとうございます」サクは言った。
一礼した。
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夕方、移動の準備が始まった。
荷物は、少なかった。
教授のノートと、自分のノートを、バッグに入れた。
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車に乗った。
窓の外を、見た。
ワシントンの街が、流れていった。
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空港に着いた。
小さな飛行機だった。
デイヴィッドが、一緒だった。
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飛行機が、飛んだ。
サクは、窓の外を見た。
雲が、見えた。
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しばらくして、デイヴィッドが言った。
「もう少しで、着きます」
「どんな場所ですか」サクは言った。
「山に近い場所です」デイヴィッドは言った。「静かなところです」
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飛行機が、降りた。
車に乗り換えた。
しばらく、山道を走った。
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施設が、見えた。
これまでより、建物が大きかった。
周りに、木が多かった。
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中に入った。
部屋に案内された。
これまでより、広い部屋だった。
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窓があった。
カーテンを開けると、山が見えた。
研究設備のある部屋も、別にあると説明された。
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一人になった。
サクは、椅子に座った。
バッグから、自分のノートを取り出した。
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新しいページを開いた。
日付を書いた。
その下に、書いた。
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「研究を続けると、正式に伝えた」
「新しい施設に移った。山に近い場所」
「ハルトくんへの連絡は、まだ難しい」
「ただ、伝言は許可された」
「『元気にしています。研究は続けます。また、必ず連絡します』と書いた」
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五行、書いた。
ペンを置いた。
ノートを閉じた。
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窓の外を見た。
山の稜線が、暗くなっていった。
日本は、もう夜中だろう。
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伝言が、届くのは、いつだろう。
ハルトくんは、どんな顔をするだろう。
サクは、しばらく、その想像をしていた。
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明かりを消した。
ベッドに入った。
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第百三十五話 了




