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魔法特許庁ーーその魔法、違法ですーー  作者: にけ


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134/162

「重なる記録」

朝、フロアのテレビは消えていた。


岸本が、デスクで資料を見ていた。


「主任、おはようございます」岸本は言った。


「おはようございます」


---


「今日は、テレビ、つけてないんですね」ハルトは言った。


「もう、落ち着いてきたみたいです」岸本は言った。「向こうの報道、見ました? デモの規模、小さくなってるって」


「そうですか」


「日本のほうも、本部前、もう誰もいないみたいですよ」岸本は言った。


---


リアが、フロアに来た。


「神崎さん」リアは言った。「三島さんのことで、少し」


「はい」


「田中さんと木村さんに、三島さんの方法を教えてもらいたいんです」リアは言った。「研修の参考事例として」


---


「三島さんは、何か言っていましたか」ハルトは言った。


「快諾してくれました」リアは言った。「ただ、本人は『うまく説明できるか、わからない』と言っています」


「サポートします」


「お願いします」リアは言った。


---


午前中、三島が、田中と木村に説明していた。


楽譜を、机に広げていた。


「ここが、発動点です」三島は言った。「ここが、収束点です」


「楽譜の、フレーズの終わりってことですよね」田中が言った。


「はい」三島は言った。


---


木村が、紙を見ていた。


「自分にも、こういう、わかりやすい目印があれば」木村は言った。


「探してみるといいと思います」三島は言った。「楽譜じゃなくても、何でも」


ハルトは、少し離れた場所で、見ていた。


---


「神崎主任」三島が、ハルトに気づいた。「これで、合ってますか」


「合っています」ハルトは言った。「三島さんの言葉で、説明できています」


三島は、少し笑った。


「ありがとうございます」


---


昼、岸本と食堂に行った。


「三島さん、もう、教える側になったんですね」岸本は言った。


「はい」


「早いですね」岸本は言った。「主任が、新人研修担当になってから、まだ二か月くらいですよね」


「そうですね」


---


午後、窓口業務をした。


申請者が来た。


普通の申請だった。


質問も、普通の内容だった。


---


別の申請者が来た。


「最近、ニュースで、いろいろ見ますけど」申請者は言った。「ここの審査、変わったりしないんですか」


「特に変更はありません」ハルトは言った。「これまでと同じ基準で、審査しています」


「そうですか。よかったです」


---


夕方、リアの部屋に行った。


「デイヴィッドから、何か連絡はありましたか」ハルトは言った。


リアは、少し間を置いた。


「ありません」リアは言った。「神崎さんから聞かれたら、伝えると言われています」


「わかりました」


---


「デモのことは」ハルトは言った。


「世界的に、規模は小さくなっているようです」リアは言った。「ただ、なくなったわけではありません」


「サクさんのことは」


「変わりはないはずです」リアは言った。「変わりがあれば、デイヴィッドから連絡があります」


---


「神崎さん」リアは言った。


「はい」


「何か、気になっていることがありますか」リアは言った。


ハルトは、少し間を置いた。


「特にありません」ハルトは言った。


---


リアは、ハルトを見た。


何も、言わなかった。


「今日は、お疲れさまでした」リアは言った。


「お疲れさまでした」


---


岸本と一緒に、庁舎を出た。


「主任」岸本は言った。「最近、ノート、よく見てますよね」


「そうでしょうか」


「気のせいならいいんですけど」岸本は言った。


---


家に帰った。


夕食を作った。


時計を見た。


八時を過ぎていた。


---


サクに電話した。


呼び出し音は、鳴らなかった。


「おかけになった電話番号は、現在使われておりません」


同じ案内だった。


---


ハルトは、ノートを開いた。


新しいページではなく、少し前のページを、見た。


同じ言葉が、並んでいた。


---


「電話、まだ繋がらない」


そのページにも。


その前のページにも。


その前のページにも。


---


ハルトは、ページを数えた。


同じ言葉が、何回あるか。


数えるのを、やめた。


---


新しいページを開いた。


日付を書いた。


その下に、書いた。


---


「三島さんが、田中さんと木村さんに、自分の方法を教えた」


「窓口で、審査基準は変わらないと答えた」


「デモの規模は、小さくなっている」


「デイヴィッドからの連絡は、まだない」


「電話、まだ繋がらない」


---


五行、書いた。


ペンを置いた。


ノートを閉じなかった。


---


ハルトは、閉じたノートの表紙を、見た。


繋がらない、という記録が、増えていく。


それだけが、増えていく。


---


ノートを閉じた。


今日のことを頭の中に入れた。


岸本の「最近、ノート、よく見てますよね」という言葉。三島が教える側に立っていたこと。リアの「何か、気になっていることがありますか」という言葉。窓口で「審査基準は変わらない」と答えたこと。そして、今日も、同じ案内が流れたこと。


全部、残った。


毎日、何かが、少しずつ進んでいた。


三島は、教える側になった。


デモは、小さくなっていた。


それでも、変わらないことが、一つあった。


サクと、連絡が取れないこと。


窓の外に、六月の初めの夜があった。


雨が、降っていた。


寝た。


---


第百三十四話 了

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