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魔法特許庁ーーその魔法、違法ですーー  作者: にけ


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133/160

「分断」

朝、フロアのテレビがついていた。


岸本が、つけていた。


「主任、見てください」岸本は言った。


---


画面に、海外の映像が流れていた。


大勢の人が、通りを歩いていた。


横断幕が、いくつも見えた。


文字は、英語だった。


---


「研究は神への冒涜だ」


「カーター教授の研究を、即刻中止せよ」


アナウンサーの声が、それを訳していた。


---


映像が切り替わった。


別の場所だった。


別の集団が、別の横断幕を持っていた。


---


「真実を明らかにせよ」


「研究を止めるな」


二つの集団が、近い場所にいた。


警察官が、間に立っていた。


---


「これ、同じ国ですか」岸本は言った。


「同じ都市のようです」ハルトは言った。「画面の下に、同じ地名が出ています」


「対立してるってことですよね」


「はい」


---


アナウンサーが、まとめた。


「カーター教授の死をきっかけに、研究の継続をめぐって、世界各国で意見が対立しています。研究に反対する立場からは、危険性や倫理面への懸念が示されています。一方、研究を支持する立場からは、事件の真相解明と研究継続を求める声が上がっています」


---


画面が、日本の映像に切り替わった。


都内の、ある建物の前だった。


人が、集まっていた。


数は、多くなかった。


---


「魔法協会の本部前のようです」アナウンサーが言った。「研究に反対する立場の団体が、声明を出しています」


横断幕が見えた。


「魔力は神聖なものである。人為的に与えるべきではない」


---


別の角度の映像があった。


少し離れた場所に、別の人たちがいた。


横断幕は、なかった。


ただ、立っていた。


---


「こちらは、研究を支持する立場の方々のようです」アナウンサーが言った。「今回は、衝突は起きていません」


---


テレビが消された。


リアが、来ていた。


「神崎さん」リアは言った。「少し、話せますか」


「はい」


---


リアの部屋に入った。


「状況は、見ましたか」リアは言った。


「はい」


「MPBとしての立場を、確認しておきます」リアは言った。「今回の件について、MPBは、いずれの立場にも、公式な見解を出しません」


「はい」


---


「ただ」リアは言った。「窓口で、意見を求められることが増えると思います。対応の仕方を、確認しておきたい」


「どう対応すればいいですか」


「事実だけを答えてください」リアは言った。「MPBの立場、研究の現状、わかっていることだけを。意見は、求められても、答えなくていい」


「はい」


---


「もう一点」リアは言った。「庁舎周辺の警備を、少し強化します。今のところ、直接の動きはありませんが、念のためです」


「わかりました」


---


昼、外に出た。


庁舎の近くを、少し歩いた。


数人が、立っていた。


横断幕は、持っていなかった。


ただ、ビラを配っていた。


---


一人が、ハルトに気づいた。


ビラを、差し出した。


ハルトは、受け取った。


---


「魔法は、神から与えられたものです」その人は言った。「人為的に作るべきではありません。今回のことは、その報いだと思いませんか」


ハルトは、少し間を置いた。


「ご意見として、受け取りました」ハルトは言った。


「それだけですか」


「はい」ハルトは言った。「私の立場では、それだけです」


---


その人は、少し間を置いた。


「あなた、MPBの人ですか」


「はい」


「MPBは、この研究を支援しているんですよね」


「研究の申請を、適正に審査しています」ハルトは言った。「支援という形ではありません」


---


その人は、それ以上、何も言わなかった。


ハルトは、一礼して、その場を離れた。


ビラを、ポケットに入れた。


---


庁舎に戻った。


午後、窓口に、別の人が来た。


四十代くらいの女性だった。


「佐久間さんの研究のことで」女性は言った。「先生は、大丈夫なんですか」


---


「現時点で、お答えできる情報はありません」ハルトは言った。


「テレビで、研究をやめろっていう人たちがいましたよね」女性は言った。「でも、私は、続けてほしいんです」


「はい」


「うちの息子も、非適合者なんです」女性は言った。「あの論文が出たとき、初めて、希望が持てました」


---


ハルトは、少し間を置いた。


「お気持ちは、記録として受け取ります」ハルトは言った。


「はい」女性は言った。「お願いします」


---


夕方、デイヴィッドから連絡があった。


「神崎さん、白銀さんもいますか」


「います」リアが言った。


---


「国際的な状況を、簡単に報告します」デイヴィッドは言った。「現在、十二カ国で、研究に反対する立場のデモが確認されています。うち三カ国では、研究を支持する立場のデモも同時に起きています」


「衝突は」リアが言った。


「現時点で、大きな衝突の報告はありません」デイヴィッドは言った。「ただ、各国政府は、警戒を強めています」


---


「サクさんの安全への影響は」ハルトは言った。


「現在の警備体制で、対応できる範囲です」デイヴィッドは言った。「サクさんの所在は、引き続き非公開です」


「はい」


---


「もう一点」デイヴィッドは言った。「コール大統領の声明について、各国の反応が分かれています。支持する声と、内政干渉だという批判の両方があります」


「アメリカ国内は」リアが言った。


「国内は、概ね支持です」デイヴィッドは言った。「ただ、一部、研究への懸念を示す議員もいます」


---


「以上です」デイヴィッドは言った。「また、動きがあれば連絡します」


通話が切れた。


---


夜、家に帰った。


夕食を作った。


時計を見た。


八時を過ぎていた。


---


サクに電話した。


呼び出し音は、鳴らなかった。


同じ案内が、流れた。


---


ハルトは、ノートを開いた。


新しいページに、日付を書いた。


その下に、書いた。


---


「世界十二カ国で、研究反対のデモ。三カ国で、研究支持のデモも」


「日本でも、魔法協会本部前で反対デモ。支持の立場の人も近くにいた」


「窓口で、反対意見の人と、支持の意見の人、両方に会った」


「サクさんの安全には、影響なし」


「電話、まだ繋がらない」


---


五行、書いた。


ペンを置いた。


ノートを閉じた。


---


今日のことを頭の中に入れた。


テレビに映った、二つの横断幕。「神への冒涜」という言葉と、「研究を止めるな」という言葉。リアの「いずれの立場にも、公式な見解を出さない」という言葉。ビラを配っていた人の「報いだと思いませんか」という言葉。窓口に来た女性の「うちの息子も、非適合者なんです」という言葉。デイヴィッドの「十二カ国でデモ」という報告。


全部、残った。


世界が、二つに分かれていた。


サクの研究を、止めろという声と、止めるなという声。


どちらも、本気の声だった。


サクは、その真ん中にいた。


窓の外に、五月の終わりの夜があった。


少し暑かった。


寝た。


---


第百三十三話 了

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