「分断」
朝、フロアのテレビがついていた。
岸本が、つけていた。
「主任、見てください」岸本は言った。
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画面に、海外の映像が流れていた。
大勢の人が、通りを歩いていた。
横断幕が、いくつも見えた。
文字は、英語だった。
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「研究は神への冒涜だ」
「カーター教授の研究を、即刻中止せよ」
アナウンサーの声が、それを訳していた。
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映像が切り替わった。
別の場所だった。
別の集団が、別の横断幕を持っていた。
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「真実を明らかにせよ」
「研究を止めるな」
二つの集団が、近い場所にいた。
警察官が、間に立っていた。
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「これ、同じ国ですか」岸本は言った。
「同じ都市のようです」ハルトは言った。「画面の下に、同じ地名が出ています」
「対立してるってことですよね」
「はい」
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アナウンサーが、まとめた。
「カーター教授の死をきっかけに、研究の継続をめぐって、世界各国で意見が対立しています。研究に反対する立場からは、危険性や倫理面への懸念が示されています。一方、研究を支持する立場からは、事件の真相解明と研究継続を求める声が上がっています」
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画面が、日本の映像に切り替わった。
都内の、ある建物の前だった。
人が、集まっていた。
数は、多くなかった。
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「魔法協会の本部前のようです」アナウンサーが言った。「研究に反対する立場の団体が、声明を出しています」
横断幕が見えた。
「魔力は神聖なものである。人為的に与えるべきではない」
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別の角度の映像があった。
少し離れた場所に、別の人たちがいた。
横断幕は、なかった。
ただ、立っていた。
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「こちらは、研究を支持する立場の方々のようです」アナウンサーが言った。「今回は、衝突は起きていません」
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テレビが消された。
リアが、来ていた。
「神崎さん」リアは言った。「少し、話せますか」
「はい」
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リアの部屋に入った。
「状況は、見ましたか」リアは言った。
「はい」
「MPBとしての立場を、確認しておきます」リアは言った。「今回の件について、MPBは、いずれの立場にも、公式な見解を出しません」
「はい」
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「ただ」リアは言った。「窓口で、意見を求められることが増えると思います。対応の仕方を、確認しておきたい」
「どう対応すればいいですか」
「事実だけを答えてください」リアは言った。「MPBの立場、研究の現状、わかっていることだけを。意見は、求められても、答えなくていい」
「はい」
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「もう一点」リアは言った。「庁舎周辺の警備を、少し強化します。今のところ、直接の動きはありませんが、念のためです」
「わかりました」
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昼、外に出た。
庁舎の近くを、少し歩いた。
数人が、立っていた。
横断幕は、持っていなかった。
ただ、ビラを配っていた。
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一人が、ハルトに気づいた。
ビラを、差し出した。
ハルトは、受け取った。
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「魔法は、神から与えられたものです」その人は言った。「人為的に作るべきではありません。今回のことは、その報いだと思いませんか」
ハルトは、少し間を置いた。
「ご意見として、受け取りました」ハルトは言った。
「それだけですか」
「はい」ハルトは言った。「私の立場では、それだけです」
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その人は、少し間を置いた。
「あなた、MPBの人ですか」
「はい」
「MPBは、この研究を支援しているんですよね」
「研究の申請を、適正に審査しています」ハルトは言った。「支援という形ではありません」
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その人は、それ以上、何も言わなかった。
ハルトは、一礼して、その場を離れた。
ビラを、ポケットに入れた。
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庁舎に戻った。
午後、窓口に、別の人が来た。
四十代くらいの女性だった。
「佐久間さんの研究のことで」女性は言った。「先生は、大丈夫なんですか」
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「現時点で、お答えできる情報はありません」ハルトは言った。
「テレビで、研究をやめろっていう人たちがいましたよね」女性は言った。「でも、私は、続けてほしいんです」
「はい」
「うちの息子も、非適合者なんです」女性は言った。「あの論文が出たとき、初めて、希望が持てました」
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ハルトは、少し間を置いた。
「お気持ちは、記録として受け取ります」ハルトは言った。
「はい」女性は言った。「お願いします」
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夕方、デイヴィッドから連絡があった。
「神崎さん、白銀さんもいますか」
「います」リアが言った。
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「国際的な状況を、簡単に報告します」デイヴィッドは言った。「現在、十二カ国で、研究に反対する立場のデモが確認されています。うち三カ国では、研究を支持する立場のデモも同時に起きています」
「衝突は」リアが言った。
「現時点で、大きな衝突の報告はありません」デイヴィッドは言った。「ただ、各国政府は、警戒を強めています」
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「サクさんの安全への影響は」ハルトは言った。
「現在の警備体制で、対応できる範囲です」デイヴィッドは言った。「サクさんの所在は、引き続き非公開です」
「はい」
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「もう一点」デイヴィッドは言った。「コール大統領の声明について、各国の反応が分かれています。支持する声と、内政干渉だという批判の両方があります」
「アメリカ国内は」リアが言った。
「国内は、概ね支持です」デイヴィッドは言った。「ただ、一部、研究への懸念を示す議員もいます」
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「以上です」デイヴィッドは言った。「また、動きがあれば連絡します」
通話が切れた。
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夜、家に帰った。
夕食を作った。
時計を見た。
八時を過ぎていた。
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サクに電話した。
呼び出し音は、鳴らなかった。
同じ案内が、流れた。
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ハルトは、ノートを開いた。
新しいページに、日付を書いた。
その下に、書いた。
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「世界十二カ国で、研究反対のデモ。三カ国で、研究支持のデモも」
「日本でも、魔法協会本部前で反対デモ。支持の立場の人も近くにいた」
「窓口で、反対意見の人と、支持の意見の人、両方に会った」
「サクさんの安全には、影響なし」
「電話、まだ繋がらない」
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五行、書いた。
ペンを置いた。
ノートを閉じた。
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今日のことを頭の中に入れた。
テレビに映った、二つの横断幕。「神への冒涜」という言葉と、「研究を止めるな」という言葉。リアの「いずれの立場にも、公式な見解を出さない」という言葉。ビラを配っていた人の「報いだと思いませんか」という言葉。窓口に来た女性の「うちの息子も、非適合者なんです」という言葉。デイヴィッドの「十二カ国でデモ」という報告。
全部、残った。
世界が、二つに分かれていた。
サクの研究を、止めろという声と、止めるなという声。
どちらも、本気の声だった。
サクは、その真ん中にいた。
窓の外に、五月の終わりの夜があった。
少し暑かった。
寝た。
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第百三十三話 了




