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魔法特許庁ーーその魔法、違法ですーー  作者: にけ


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132/158

「ノートを開く」

ホワイトハウス内の、客室だった。


ベッドと、机と、椅子があった。


窓に、カーテンがかかっていた。


サクは、椅子に座っていた。


---


机の上に、バッグがあった。


中に、教授から預かったフォルダが入っていた。


サクは、しばらく、バッグを見ていた。


---


コールの声が、頭の中に残っていた。


「君は、どうしたいのか」


答えは、出なかった。


ただ、その問いだけが、はっきりと残っていた。


---


サクは、バッグから、フォルダを取り出した。


机の上に置いた。


開かなかった。


少し、間を置いた。


---


開いた。


紙の束だった。


一枚目は、数式だった。


教授の字だった。


知っている数式だった。


エマの未発表データと、同じ系列の式だった。


---


二枚目も、数式だった。


三枚目に、注釈があった。


「この先は、サクの方が詳しい」


教授の字で、そう書かれていた。


---


サクは、ページをめくった。


四枚目から、文章だった。


数式ではなく、文字だけのページだった。


---


「最近、いくつかの団体から接触があった」


「研究データを共有してほしい、共同研究にしないか、という申し出だった」


「全部断った」


「理由は、サクに話した通りだ」


---


サクは、その一文を読んだ。


教授の声が、聞こえる気がした。


電話で「お断りします」と言っていた、あの声だった。


---


次のページに、続きがあった。


「正直に書く」


「この申し出を断り続けることが、自分にとって、どういう意味を持つか、わかっている」


「ただ、断る以外の選択肢は、私にはなかった」


「サクの研究は、サクのものだ」


「私が、誰かに渡す権利はない」


---


サクは、しばらく、その文章を見ていた。


何も、考えられなかった。


ただ、文字だけが、そこにあった。


---


次のページに、別の話題があった。


「エマのデータについて」


「サクが公開を控えている理由は、理解している」


「ただ、いつか、サクが公開を決めたとき、このノートのデータが、補強になると思う」


「エマの研究と、サクの研究は、繋がっている部分がある」


「それを、一番わかっているのは、サク自身だ」


---


最後のページに、短い文章があった。


「この研究の、次の段階について」


「いつか、サクに聞かれたことがある」


「装置がなくても、魔法が使えるようになるのか、と」


「あのとき、私は、わからないと答えた」


「今も、わからない」


「ただ、わからないことを、わからないまま記録しておくことにも、意味があると思う」


「サクなら、その記録の続きを、書けると思う」


---


ノートは、そこで終わっていた。


サクは、最後のページを、もう一度見た。


「サクなら、その記録の続きを、書けると思う」


その一文を、見ていた。


---


しばらく、動かなかった。


部屋の中は、静かだった。


時計の音だけが、聞こえた。


---


サクは、ノートを、机の上に置いた。


両手を、膝の上に置いた。


息を、一度吐いた。


---


コールの問いを、もう一度思い出した。


「君は、どうしたいのか」


教授のノートの、最後の一文を、思い出した。


「サクなら、その記録の続きを、書けると思う」


---


答えは、まだ、はっきりした形にならなかった。


ただ、輪郭のようなものが、見えた気がした。


研究を、続ける。


どこで続けるかは、まだわからない。


ただ、続ける、ということだけは、決まった気がした。


---


サクは、自分のノートを取り出した。


新しいページを開いた。


日付を書いた。


その下に、書いた。


---


「教授のノートを読んだ」


「研究データと、エマのデータの関係についての記録があった」


「教授は、複数の申し出を全部断っていた。理由は、研究がサク自身のものだから」


「最後のページに、『次の段階』についての記録があった。装置なしで魔法が使えるかどうかという問い」


「研究は、続ける。場所は、まだ決まっていない」


---


五行、書いた。


ペンを置いた。


ノートを閉じなかった。


もう一行、書きたかった。


---


サクは、少し考えた。


ペンを持ち直した。


最後に、書いた。


---


「ハルトくんに、伝えたい」


---


ノートを閉じた。


スマートフォンを見た。


電波は、まだなかった。


---


ドアをノックする音がした。


「佐久間さん」デイヴィッドの声だった。「お時間、よろしいですか」


「はい」


ドアが開いた。


デイヴィッドが、入ってきた。


---


「明日のことを、相談したいんですが」デイヴィッドは言った。「先に、一つ伝えたいことがあります」


「はい」


「ご両親への連絡について」デイヴィッドは言った。「もし、何かメッセージがあれば、こちらで確認の上、伝える手段を用意できます」


---


サクは、少し間を置いた。


「考えてみます」サクは言った。


「はい。急がなくて大丈夫です」


「ありがとうございます」


---


デイヴィッドは、明日の予定を、いくつか説明した。


サクは、聞いていた。


メモは取らなかった。


頭の中に、入れた。


---


デイヴィッドが、部屋を出た。


ドアが閉まった。


サクは、もう一度、教授のノートを見た。


---


窓の外を見た。


ワシントンの夜景が、見えた。


日本は、もう朝だった。


ハルトくんは、もう仕事に出ているだろうか。


---


サクは、自分のノートを、引き出しにしまった。


教授のノートは、バッグに戻した。


明かりを消した。


ベッドに入った。


---


第百三十二話 了

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