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魔法特許庁ーーその魔法、違法ですーー  作者: にけ


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131/154

「選択」

ホワイトハウスの執務室だった。


机の上に、声明の草稿があった。


補佐官が、向かいに立っていた。


「この表現で、よろしいですか」補佐官は言った。


---


コールは、草稿を読んだ。


二度、読んだ。


「『深い悲しみ』の部分」コールは言った。「削ってくれ」


「削る、ですか」


「事実だけでいい」コールは言った。「悲しみは、言葉にした時点で、対外的なメッセージになる。今回は、それを避けたい」


---


補佐官は、その場で修正した。


修正版を、コールに見せた。


コールは、読んだ。


「これでいい」コールは言った。


---


「もう一つ、確認したい」コールは言った。「『関与した者には相応の対応を取る』の部分だ」


「はい」


「この一文で、十分伝わるか」コールは言った。「強すぎず、弱すぎず」


補佐官は、少し間を置いた。


「外交筋には、十分な強さで伝わると思います」補佐官は言った。「名指しをしない分、複数の国に向けたメッセージになります」


「それでいい」コールは言った。「名指しすれば、証拠の話になる。今は、その段階じゃない」


---


「研究支援の継続については」補佐官は言った。


「変えない」コールは言った。「むしろ、強調する」


「強調する、というのは」


「カーター教授が亡くなったことで、研究が止まる、と考える者が出るかもしれない」コールは言った。「その考えを、最初に否定しておく必要がある」


---


「『アメリカは、この研究への支援を継続する。研究者の安全についても、これまで以上の体制を取る』」コールは、草稿の一文を読んだ。「この部分は、そのままでいい」


「はい」


「以上だ」コールは言った。「準備してくれ」


補佐官は、一礼して、部屋を出た。


---


一人になった。


コールは、窓の外を見た。


ワシントンの空は、晴れていた。


---


声明の発表は、午後に行われた。


コールは、壇上に立った。


カメラが、並んでいた。


---


「本日、声明を発表します」コールは言った。「昨日、研究者であるカーター教授が、何者かによる襲撃を受け、亡くなりました」


会場が、静かになった。


---


「教授は、長年にわたり、人類にとって重要な研究に取り組んできました」コールは言った。「その功績は、今後も正当に評価されるべきものです」


「現在、捜査当局が、事件の全容解明にあたっています。関与した者については、相応の対応を取ります」


---


「もう一点、明確にしておきます」コールは言った。「アメリカは、この研究への支援を継続します。研究者の安全についても、これまで以上の体制を取ります」


「研究を止めることで利益を得る者がいるとすれば、その判断は誤りです」コールは言った。「この研究は、止まりません」


---


「質問は、以上で終わります」コールは言った。


壇を下りた。


記者たちの声が、後ろで続いていた。


---


控室に戻った。


補佐官が、待っていた。


「反応は」コールは言った。


「いくつかの国の大使館から、すでに反応があります」補佐官は言った。「公式な抗議ではありません。ただ、声明の内容を、確認したいという連絡です」


「確認したい、というのは」


「『関与した者には相応の対応を取る』の部分が、どこまでの意味を持つのか、という確認です」補佐官は言った。


コールは、少し笑った。


「気にしている、ということだ」コールは言った。「それでいい」


---


「もう一点、報告があります」補佐官は言った。「佐久間さんのご両親について、日本側との情報共有のラインが確認できました」


「内容は」


「日本側で、警備を強化しています。ご両親には、状況の概要が伝えられています」補佐官は言った。「現時点で、特別な動きは確認されていません」


「わかった」コールは言った。「継続して、確認してくれ」


「はい」


---


「佐久間さんは、今どこにいる」コールは言った。


「この建物内です」補佐官は言った。「面談の準備ができています」


「呼んでくれ」


---


別室に移動した。


しばらくして、サクが入ってきた。


デイヴィッドが、付き添っていた。


「佐久間さん」コールは言った。「座ってくれ」


サクは、座った。


---


「先に、伝えておく」コールは言った。「教授のことは、残念だ」


サクは、頷いた。


何も、言わなかった。


---


少し間があった。


「声明は、見たか」コールは言った。


「はい」サクは言った。


「内容について、何か感じたことはあるか」


サクは、少し間を置いた。


「研究は止まらない、という部分」サクは言った。「ありがとうございます」


「礼はいい」コールは言った。「事実を言ったまでだ」


---


「佐久間さん」コールは言った。「今後のことを、話したい」


「はい」


「君は、新しい施設に移ることになる」コールは言った。「これまでより、警備の厳しい場所だ。研究は、そこで継続できる」


「はい」


---


「ただ」コールは言った。「その前に、一つ聞きたい」


サクは、コールを見た。


「君は、どうしたいのか」コールは言った。


---


サクは、何も言わなかった。


しばらく、黙っていた。


コールは、待った。


---


「すみません」サクは言った。「すぐには、答えが出ません」


「いい」コールは言った。「すぐに答える必要はない」


「ただ」サクは言った。「一つだけ、確認させてください」


「聞こう」


---


「研究を続けるかどうかは、私が決めることですか」サクは言った。


「そうだ」コールは言った。「前にも言った。この研究の主導権は、君にある」


「場所も、ですか」


「場所については、安全上の制約がある」コールは言った。「ただ、その制約の中で、できる限り君の希望を反映する」


---


サクは、少し間を置いた。


「考える時間を、いただけますか」サクは言った。


「もちろんだ」コールは言った。「期限は設けない」


「ありがとうございます」


---


「もう一点」コールは言った。「日本にいる、君の両親のことだ」


サクは、少し顔を上げた。


「現在、日本側で警備を強化している」コールは言った。「状況に変化があれば、すぐに伝える」


「ありがとうございます」サクは言った。少し間を置いた。「両親には、まだ詳しいことを話せていません」


「それは、君が決めることだ」コールは言った。「ただ、必要なら、伝える手段は用意する」


---


「今日は、以上だ」コールは言った。「考える時間を、十分に取ってくれ」


「はい」


サクは、立ち上がった。


一礼して、部屋を出た。


デイヴィッドが、後について出た。


---


一人になった。


コールは、椅子に座った。


しばらく、何もしなかった。


---


ノートを取り出した。


公式の記録ではなかった。


自分用のメモだった。


---


「声明、強調点は支援継続。脅しは名指しせず」


「サク家族、日本側ラインは確認済み。継続監視」


「サク、『どうしたいか』に即答せず。考える時間を要求」


「教授のこと、サクは多くを語らなかった」


---


四行、書いた。


ペンを止めた。


もう一行、書いた。


---


「彼女が決めるまで、待つ」


---


ノートを閉じた。


窓の外を見た。


ワシントンの空は、まだ晴れていた。


コールは、目を閉じた。


---


第百三十一話 了

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