「報告」
リアの部屋に入った。
リアは、デスクの前に立っていた。
スマートフォンを持っていた。
「神崎さん」リアは言った。「デイヴィッドと、繋ぎます」
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画面に、デイヴィッドが映った。
いつもより、顔色が悪かった。
「神崎さん」デイヴィッドは言った。「ニュース、見ましたか」
「はい」
「先に、確認します」デイヴィッドは言った。「サクさんは、無事です」
ハルトは、少し息を吐いた。
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「事件は、現地時間の昨日の午前中に起きました」デイヴィッドは言った。「カーター教授が、施設内で何者かに襲撃され、その場で亡くなりました」
「サクさんは、現場にいましたか」
「同じ建物にいました」デイヴィッドは言った。「サクさん自身は、別室に避難していて、無事です」
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「サクさんは、今どこにいますか」
「ワシントンに移送されました」デイヴィッドは言った。「ホワイトハウスで、状況の説明を受けています」
「連絡が取れません」ハルトは言った。「電話が、使われていない、という案内が流れます」
デイヴィッドは、少し間を置いた。
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「情報管理上の措置です」デイヴィッドは言った。「事件の詳細が外部に伝わることを防ぐため、関係者全員の外部連絡を一時的に制限しています。サクさんも、その対象です」
「いつまでですか」
「現時点では、お伝えできません」デイヴィッドは言った。「ただ、サクさんから、必ず連絡できる方法を考えると、伝えられています」
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「もう一点」デイヴィッドは言った。「サクさんは、今後、別の施設に移ることになります。これまでより、警備の厳しい場所です」
「理由は」
「今回の事件が、サクさんの研究に関係する人物を狙ったものである可能性が、排除できないためです」デイヴィッドは言った。「サクさんの安全を、より確実にするための措置です」
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リアが、口を開いた。
「犯人は、特定されていますか」
「現時点では、特定されていません」デイヴィッドは言った。「海外の関係者である可能性が高いと見られていますが、断定はされていません」
「報道では、どこまで出ていますか」
「事件の発生と、教授が亡くなったことのみです」デイヴィッドは言った。「サクさんの存在は、報道に出ていません」
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「MPBとして、何か対応が必要ですか」リアは言った。
「現時点では、ありません」デイヴィッドは言った。「ただ、サクさんの研究に関する問い合わせが、各国から増える可能性があります。窓口対応は、これまでと変わらない形でお願いします」
「わかりました」
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「神崎さん」デイヴィッドは言った。「一つ、伝えておきたいことがあります」
「はい」
「サクさんは、移送される前、ノートに何か書いていました」デイヴィッドは言った。「内容は見ていません。ただ、書いていたことは、確認しています」
ハルトは、少し間を置いた。
「はい」
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「サクさんは、大丈夫だと思います」デイヴィッドは言った。「記録を取る、という習慣は、変わっていませんでした」
「ありがとうございます」
「また、連絡します」デイヴィッドは言った。
通話が切れた。
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リアが、椅子に座った。
「神崎さん」リアは言った。「今日は、いつも通り、業務をお願いします」
「はい」
「サクさんのことは、わかったことがあれば、随時伝えます」リアは言った。「今、神崎さんにできることは、ありません」
「はい」
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少し間があった。
「神崎さん」リアは言った。
「はい」
「サクさんが、無事だったことは、確認できています」リアは言った。「それは、記録として、確かなことです」
「はい」
ハルトは、頷いた。
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フロアに戻った。
岸本が、来た。
「主任、ニュース見ましたか」岸本は言った。「サクさんの先生の話ですよね、これ」
「はい」
「サクさん、大丈夫なんですか」
「無事だと、確認が取れています」ハルトは言った。「詳細は、まだわかりません」
岸本は、少し間を置いた。
「そうですか」岸本は言った。「何かあったら、言ってください」
「はい」
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鶴田と三島も、近くにいた。
三島が、少し心配そうな顔をしていた。
「サクさんの先生の事件、ニュースで見ました」三島は言った。「神崎主任のお知り合いの方、ですか」
「はい」
「大丈夫なんでしょうか」
「無事だと、確認できています」ハルトは言った。
三島は、頷いた。
それ以上、聞かなかった。
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昼、窓口業務をした。
午後も、窓口業務をした。
普段と、変わらない一日だった。
ただ、机の上のスマートフォンを、何度も見た。
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夕方、岸本と一緒に庁舎を出た。
「主任」岸本は言った。「今日、いつもより、口数少ないですね」
「そうでしょうか」
「無理しないでくださいね」岸本は言った。
「はい。ありがとうございます」
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家に帰った。
夕食を作った。
時計を見た。
八時を過ぎていた。
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サクに電話した。
呼び出し音は、鳴らなかった。
「おかけになった電話番号は、現在使われておりません」
同じ案内だった。
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ハルトは、ノートを開いた。
普段使っている、業務記録用のノートだった。
新しいページに、日付を書いた。
その下に、書いた。
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「カーター教授、何者かに襲撃され死亡」
「サクさん、無事。ワシントンに移送」
「連絡は情報管理のため一時制限。期間は未定」
「サクさん、今後別の施設へ移動予定」
「サクさん、移送前にノートに記録を取っていた」
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五行、書いた。
ペンを置いた。
ノートを閉じた。
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今日のことを頭の中に入れた。
デイヴィッドの「サクさんは、無事です」という言葉。「連絡できる方法を考える、と伝えられています」という言葉。リアの「無事だったことは、記録として、確かなことです」という言葉。岸本の「無理しないでくださいね」という言葉。三島の心配そうな顔。
サクに電話したこと。同じ案内が流れたこと。
全部、残った。
サクは、無事だった。
それだけは、確かな記録だった。
ただ、その先のことは、まだ何も書けなかった。
窓の外に、五月の終わりの夜があった。
少し風があった。
寝た。
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第百三十話 了




