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魔法特許庁ーーその魔法、違法ですーー  作者: にけ


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130/154

「報告」

リアの部屋に入った。


リアは、デスクの前に立っていた。


スマートフォンを持っていた。


「神崎さん」リアは言った。「デイヴィッドと、繋ぎます」


---


画面に、デイヴィッドが映った。


いつもより、顔色が悪かった。


「神崎さん」デイヴィッドは言った。「ニュース、見ましたか」


「はい」


「先に、確認します」デイヴィッドは言った。「サクさんは、無事です」


ハルトは、少し息を吐いた。


---


「事件は、現地時間の昨日の午前中に起きました」デイヴィッドは言った。「カーター教授が、施設内で何者かに襲撃され、その場で亡くなりました」


「サクさんは、現場にいましたか」


「同じ建物にいました」デイヴィッドは言った。「サクさん自身は、別室に避難していて、無事です」


---


「サクさんは、今どこにいますか」


「ワシントンに移送されました」デイヴィッドは言った。「ホワイトハウスで、状況の説明を受けています」


「連絡が取れません」ハルトは言った。「電話が、使われていない、という案内が流れます」


デイヴィッドは、少し間を置いた。


---


「情報管理上の措置です」デイヴィッドは言った。「事件の詳細が外部に伝わることを防ぐため、関係者全員の外部連絡を一時的に制限しています。サクさんも、その対象です」


「いつまでですか」


「現時点では、お伝えできません」デイヴィッドは言った。「ただ、サクさんから、必ず連絡できる方法を考えると、伝えられています」


---


「もう一点」デイヴィッドは言った。「サクさんは、今後、別の施設に移ることになります。これまでより、警備の厳しい場所です」


「理由は」


「今回の事件が、サクさんの研究に関係する人物を狙ったものである可能性が、排除できないためです」デイヴィッドは言った。「サクさんの安全を、より確実にするための措置です」


---


リアが、口を開いた。


「犯人は、特定されていますか」


「現時点では、特定されていません」デイヴィッドは言った。「海外の関係者である可能性が高いと見られていますが、断定はされていません」


「報道では、どこまで出ていますか」


「事件の発生と、教授が亡くなったことのみです」デイヴィッドは言った。「サクさんの存在は、報道に出ていません」


---


「MPBとして、何か対応が必要ですか」リアは言った。


「現時点では、ありません」デイヴィッドは言った。「ただ、サクさんの研究に関する問い合わせが、各国から増える可能性があります。窓口対応は、これまでと変わらない形でお願いします」


「わかりました」


---


「神崎さん」デイヴィッドは言った。「一つ、伝えておきたいことがあります」


「はい」


「サクさんは、移送される前、ノートに何か書いていました」デイヴィッドは言った。「内容は見ていません。ただ、書いていたことは、確認しています」


ハルトは、少し間を置いた。


「はい」


---


「サクさんは、大丈夫だと思います」デイヴィッドは言った。「記録を取る、という習慣は、変わっていませんでした」


「ありがとうございます」


「また、連絡します」デイヴィッドは言った。


通話が切れた。


---


リアが、椅子に座った。


「神崎さん」リアは言った。「今日は、いつも通り、業務をお願いします」


「はい」


「サクさんのことは、わかったことがあれば、随時伝えます」リアは言った。「今、神崎さんにできることは、ありません」


「はい」


---


少し間があった。


「神崎さん」リアは言った。


「はい」


「サクさんが、無事だったことは、確認できています」リアは言った。「それは、記録として、確かなことです」


「はい」


ハルトは、頷いた。


---


フロアに戻った。


岸本が、来た。


「主任、ニュース見ましたか」岸本は言った。「サクさんの先生の話ですよね、これ」


「はい」


「サクさん、大丈夫なんですか」


「無事だと、確認が取れています」ハルトは言った。「詳細は、まだわかりません」


岸本は、少し間を置いた。


「そうですか」岸本は言った。「何かあったら、言ってください」


「はい」


---


鶴田と三島も、近くにいた。


三島が、少し心配そうな顔をしていた。


「サクさんの先生の事件、ニュースで見ました」三島は言った。「神崎主任のお知り合いの方、ですか」


「はい」


「大丈夫なんでしょうか」


「無事だと、確認できています」ハルトは言った。


三島は、頷いた。


それ以上、聞かなかった。


---


昼、窓口業務をした。


午後も、窓口業務をした。


普段と、変わらない一日だった。


ただ、机の上のスマートフォンを、何度も見た。


---


夕方、岸本と一緒に庁舎を出た。


「主任」岸本は言った。「今日、いつもより、口数少ないですね」


「そうでしょうか」


「無理しないでくださいね」岸本は言った。


「はい。ありがとうございます」


---


家に帰った。


夕食を作った。


時計を見た。


八時を過ぎていた。


---


サクに電話した。


呼び出し音は、鳴らなかった。


「おかけになった電話番号は、現在使われておりません」


同じ案内だった。


---


ハルトは、ノートを開いた。


普段使っている、業務記録用のノートだった。


新しいページに、日付を書いた。


その下に、書いた。


---


「カーター教授、何者かに襲撃され死亡」


「サクさん、無事。ワシントンに移送」


「連絡は情報管理のため一時制限。期間は未定」


「サクさん、今後別の施設へ移動予定」


「サクさん、移送前にノートに記録を取っていた」


---


五行、書いた。


ペンを置いた。


ノートを閉じた。


---


今日のことを頭の中に入れた。


デイヴィッドの「サクさんは、無事です」という言葉。「連絡できる方法を考える、と伝えられています」という言葉。リアの「無事だったことは、記録として、確かなことです」という言葉。岸本の「無理しないでくださいね」という言葉。三島の心配そうな顔。


サクに電話したこと。同じ案内が流れたこと。


全部、残った。


サクは、無事だった。


それだけは、確かな記録だった。


ただ、その先のことは、まだ何も書けなかった。


窓の外に、五月の終わりの夜があった。


少し風があった。


寝た。


---


第百三十話 了

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