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魔法特許庁ーーその魔法、違法ですーー  作者: にけ


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128/152

「途絶」

朝、施設に着いた。


警備の車が、また増えていた。


昨日より、二台多かった。


サクは、警備員に聞いた。


「何かあったんですか」


「特には」警備員は言った。「念のための増員です」


---


研究棟に入った。


カーター教授は、すでにいた。


電話で話していた。


「お断りします」教授は言った。「これで、何度目ですか」


サクは、入り口で立ち止まった。


---


教授は、サクに気づいた。


「すまない」教授は言った。電話を切った。「入ってくれ」


「お電話、大丈夫でしたか」


「ああ」教授は言った。「最近、こういう連絡が増えていてね」


「どんな連絡ですか」


教授は、少し間を置いた。


---


「研究の協力という名目で、声をかけてくる団体がある」教授は言った。「国も、いくつか」


「協力、ですか」


「データを共有してほしい、共同研究にしないか、いろいろな言い方をしてくる」教授は言った。「全部、断っている」


「なぜですか」


「サクの研究だ」教授は言った。「サクが決めることだ。私が、勝手に渡すものじゃない」


サクは、教授を見た。


教授は、いつも通りの顔をしていた。


---


午前中、いつも通り作業をした。


データの整理だった。


教授は、隣の机で、別の資料を見ていた。


ときどき、電話が鳴った。


教授は、出なかった。


---


昼前だった。


廊下で、大きな音がした。


サクは、顔を上げた。


教授も、顔を上げた。


---


ドアが開いた。


警備員が、三人、入ってきた。


「教授」一人が言った。「少し、こちらへ」


「何だ」教授は言った。


「確認したいことがあります。すぐに済みます」


---


教授は、立ち上がった。


サクを見た。


「すぐ戻る」教授は言った。


サクは、頷いた。


---


教授が、警備員と一緒に部屋を出た。


ドアが閉まった。


サクは、一人になった。


データの画面を、見ていた。


---


外で、声がした。


何か、強い声だった。


言葉は、聞き取れなかった。


サクは、立ち上がった。


ドアに近づいた。


---


ドアが、外から開いた。


別の警備員が、立っていた。


「佐久間さん」警備員は言った。「こちらへ来てください」


「何があったんですか」


「説明します。まず、移動してください」


---


連れて行かれたのは、地下の部屋だった。


窓のない、小さな部屋だった。


椅子が、いくつかあった。


「ここで、待っていてください」警備員は言った。


ドアが閉まった。


---


サクは、座った。


スマートフォンを見た。


電波が、なかった。


時計だけが、動いていた。


---


一時間が経った。


二時間が経った。


ドアが開いた。


スーツを着た男性が、入ってきた。


施設の責任者だった。


---


「佐久間さん」責任者は言った。「お伝えしなければならないことがあります」


サクは、責任者を見た。


「カーター教授が、亡くなりました」責任者は言った。


---


サクは、何も言えなかった。


責任者の言葉が、頭の中で、繰り返された。


亡くなりました。


その三文字が、形を持たないまま、そこにあった。


---


「今朝、施設内で、何者かによる襲撃がありました」責任者は言った。「教授は、その場で亡くなりました。詳細は、現在調査中です」


「何者かというのは」


「特定できていません」責任者は言った。「ただ、海外の関係者である可能性が高いと見ています」


---


サクは、教授の机を思い出した。


電話で「お断りします」と言っていた声を思い出した。


「協力という名目で、声をかけてくる団体がある」という言葉を思い出した。


全部、断っている、と言っていた。


---


「佐久間さん」責任者は言った。「申し訳ありませんが、今後しばらく、外部との連絡を控えていただきます」


「連絡というのは」


「電話、メール、すべてです」責任者は言った。「情報管理上の措置です。事件の詳細が外部に伝わることを、防ぐ必要があります」


「いつまでですか」


「現時点では、お伝えできません」


---


「日本にいる人に、連絡できませんか」サクは言った。「一言だけでも」


責任者は、少し間を置いた。


「申し訳ありません」責任者は言った。「現段階では、認められません」


サクは、それ以上、言わなかった。


スマートフォンを、握ったままだった。


---


「これから、移動していただきます」責任者は言った。「ワシントンです」


「ワシントン」


「ホワイトハウスで、状況の説明と、今後についての協議があります」責任者は言った。「準備ができ次第、出発します」


---


サクは、立ち上がった。


部屋を見た。


教授の机があった部屋には、戻れなかった。


私物は、後で届けると言われた。


---


ただ、肩にかけたバッグの中に、あの紙の束が入っていた。


教授から、昨日預かったものだった。


サクは、バッグを、強く持った。


---


ヘリコプターに乗った。


窓の外に、施設が小さくなっていくのが見えた。


サクは、何も言わなかった。


隣に座った警備員も、何も言わなかった。


---


ホワイトハウスに着いた。


会議室に通された。


しばらくして、デイヴィッドが入ってきた。


「サクさん」デイヴィッドは言った。「無事で、よかったです」


サクは、デイヴィッドを見た。


「教授のこと、聞きました」サクは言った。


「はい」


---


「今日中に、コール大統領から、状況の説明があります」デイヴィッドは言った。「その前に、一点だけ伝えておきます」


「はい」


「今後、サクさんの滞在先を変更することになります」デイヴィッドは言った。「これまでの施設ではなく、新しい場所に移っていただきます」


「新しい場所、というのは」


「詳細は、まだ言えません」デイヴィッドは言った。「ただ、警備のレベルが、これまでとは違う場所になります」


---


「ハルトくんに、連絡したいです」サクは言った。


デイヴィッドは、少し間を置いた。


「現時点では、難しいです」デイヴィッドは言った。「事件の情報が、まだ確定していません。確定する前に外部に伝わると、調査に影響します」


「いつ、連絡できますか」


「わかりません」デイヴィッドは言った。「ただ、必ず、連絡できる方法を考えます。約束します」


---


サクは、頷いた。


頷くことしか、できなかった。


---


一人になった。


会議室の隅に、椅子があった。


サクは、座った。


バッグから、ノートを取り出した。


教授から預かった紙の束ではなく、自分のノートだった。


---


ペンを持った。


手が、少し震えていた。


サクは、ページを開いた。


日付を書いた。


その下に、書いた。


---


「教授が、亡くなった」


「協力の申し出を、すべて断っていたと聞いた」


「ハルトくんに、連絡できない」


「これから、新しい場所に移る」


---


四行、書いた。


それ以上、書けなかった。


ノートを閉じた。


---


スマートフォンを、見た。


電波は、まだなかった。


ハルトくんからのメッセージは、届いていなかった。


サクからも、送れなかった。


---


窓の外を見た。


ワシントンの空が見えた。


曇っていた。


サクは、ノートを、両手で持った。


それ以外、何もできなかった。


---


第百二十八話 了

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