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魔法特許庁ーーその魔法、違法ですーー  作者: にけ


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117/128

「拉致」

三月の第三週だった。


コールの支援宣言から、一週間が経っていた。


世界の動きは、止まっていなかった。


---


木曜日の夜だった。


帰宅してから、少し経った頃だった。


サクから電話が来た。


番号を見た。


いつもの番号だった。


出た。


「はい」


「ハルトくん」


声が、違った。


震えていた。


「はい。どうしましたか」


「エマが、いなくなりました」


---


ハルトは少し間を置いた。


「いなくなった、というのは」


「今日の夕方、エマが大学から帰る途中で連絡が途絶えました。教授がずっと連絡しているんですが、出なくて。大学にも、自宅にも、いない」


「警察には」


「教授が連絡しました。ただ、まだ捜索が始まったばかりで」サクは言った。声が揺れていた。「ハルトくん、これって、どういうことだと思いますか」


「はい。整理します」ハルトは言った。「コールの支援宣言から一週間です。研究が世界に知られた後、その実証者であるエマさんが姿を消した。関係がある可能性があります」


「やっぱり、そう思いますか」


「はい。ただ、確認できていないことがあります。一人で判断しないでください。今夜、教授のそばにいてください」


「はい。教授のところにいます」


「デイヴィッドさんに連絡します。IMPOとして、情報が入っている可能性があります」


「お願いします」サクは言った。「ハルトくん、怖い」


「はい。怖くていいです。ただ、今夜は一人でいないでください」


「はい。教授のそばにいます」


---


電話が切れた。


すぐにデイヴィッドに連絡した。


「デイヴィッドさん、今話せますか。エマさんのことで」


「知っています」デイヴィッドは言った。即答だった。「IMPOにも、一時間前に情報が入りました」


「何が起きていますか」


「確認できていることだけ話します」デイヴィッドは言った。「エマさんは、特定の国の工作員に接触されたと見られています。強制連行の可能性が高い」


「どの国ですか」


「今の段階では言えません。ただ、コールの支援宣言の直後から、複数の国がこの研究への介入を検討していたという情報は、IMPOとして把握していました」


「はい」


「神崎さん、一点確認させてください」デイヴィッドは言った。「ホワイトハウスの会談の際、エマさんの存在は話に出ましたか」


「いいえ。会談の場では、エマさんの名前は出ませんでした」


「そうですか」デイヴィッドは言った。「ただ、コール側はエマさんの存在を把握していた。事前に全員を調べていたはずです」


「はい。そう思います」


「今夜、アメリカの当局が動き始めています。佐久間さんと教授のそばに、警護をつける手続きも始まっています」


「はい。サクさんと教授は、今一緒にいます」


「それは良かったです」デイヴィッドは言った。「神崎さん、今夜は情報が入り次第、連絡します」


「はい。お願いします」


---


それから、眠れない夜が続いた。


デイヴィッドから、散発的に情報が来た。


警察が捜索を始めた。


アメリカの当局が、独自に動き始めた。


深夜二時を過ぎた頃、サクから短いメッセージが来た。


「教授と、まだ起きています。連絡ありがとう」


「はい。何かあればすぐに連絡してください」


---


翌朝、デイヴィッドから連絡が来た。


「神崎さん、エマさんが救出されました」


---


「救出、ですか」


「はい。アメリカの諜報機関が動きました。エマさんは今朝早く、安全な場所に保護されています。けがはありません」


「はい。よかったです」


「教授と佐久間さんには、すでに連絡が入っているはずです」


「はい。確認します」


「神崎さん、一点だけ」デイヴィッドは言った。「今回の件で、アメリカが直接動いたという事実が残りました。コールが、この研究とその関係者を守る意志を持っているということが、行動として示されました」


「はい。記録として、持っておきます」


「そうしてください」デイヴィッドは言った。「ただ、これで終わりではないと思います。続きが来ます」


---


サクに電話した。


「エマさんの救出、確認しましたか」


「はい。さっき、教授に連絡が来ました」サクは言った。声が、昨夜より落ち着いていた。「よかった。本当によかった」


「はい。よかったです」


「ハルトくん、昨夜はありがとう。デイヴィッドさんに連絡してくれて、情報を送ってくれて」


「はい。できることをしました」


「エマが無事で、よかった」サクは言った。少し間を置いた。「ただ、ハルトくん」


「はい」


「これって、終わりじゃないですよね」


「はい。終わりではないと思います」


「次が来る」


「はい。来ると思います」


「そっか」サクは言った。「わかりました。次に備えます」


「はい。備えてください」


---


今日のことを頭の中に入れた。


エマの連絡途絶。デイヴィッドからの情報。眠れない夜。救出の連絡。「アメリカが直接動いた」という事実。デイヴィッドの「これで終わりではない」という言葉。サクの「次が来る、わかりました、備えます」という言葉。


全部、残った。


エマが無事だった。


ただ、世界は動き続けていた。


次が来る。


記録として、持っておく。


それだけだった。


窓の外に、三月の朝があった。


まだ、眠れていなかった。


---


第百十七話 了

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