「宣言」
三月の第二週だった。
論文公開から、一週間が経っていた。
世界の反応は、止まっていなかった。
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朝、出勤すると、岸本が来た。
「神崎主任、今朝のニュース見ましたか」
「はい。確認しています」
「コールが、何か発表するらしいですね。今日の夕方に」
「はい。ホワイトハウスから、声明を発表するとのことです」
「サクさんの論文に関係しますか」
「可能性があります」
「そうですか」岸本は言った。少し間を置いた。「いい方向ですか、悪い方向ですか」
「確認してみないとわかりません」
「神崎主任がそう言うと、確かにそうですね」岸本は言った。「待ちます」
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昼、デイヴィッドから連絡が来た。
「神崎さん、今日の夕方、コールが声明を出します。IMPOとして、内容を事前に把握しています。共有しておきたいことがあります」
「はい。聞きます」
「コールは、佐久間さんの研究への支援を公式に表明する予定です」デイヴィッドは言った。「アメリカとして、研究の継続を支援する。資金、施設、体制。全面的に提供するという内容です」
「はい」
「それから、もう一点」デイヴィッドは言った。「軍事転用については、コール自身が管理すると明言する予定です。この技術を戦争に使わせない。それをコール自身が保証するという内容も含まれています」
「はい」
「神崎さん、コールがここまで踏み込んだ声明を出すとは、正直、予想していませんでした」デイヴィッドは言った。「ホワイトハウスでの会談で、何かがあったのかもしれません」
「はい。そう思います」
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日本時間の夕方、コールの声明が発表された。
フロアのスタッフが、それぞれのデスクで画面を見ていた。
ハルトも確認した。
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コールが演台に立った。
「今週、世界を動かす研究が発表されました」コールは言った。「非適合者が魔法を使える可能性を示した研究です。私は、この研究が本物であることを、直接確認しました」
記者室がざわついた。
「アメリカとして、この研究を全面的に支援します。佐久間サク博士とカーター教授の研究を続けるための資金、施設、体制を提供します。この技術が、全ての人間にとって意味のあるものになるよう、アメリカが動きます」
「軍事転用については、私が直接管理します」コールは言った。即答に近かった。「この技術が戦争に使われることは、私が許可しない。それが条件です」
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声明が終わった。
フロアが少しざわついた。
岸本が来た。
「神崎主任、聞きましたか」
「はい」
「コールが支援すると言いました」岸本は言った。「あの人、サクさんの研究に反対しているんじゃなかったんですか」
「反対と支持は、別の話です」ハルトは言った。「コールは効率的な社会を目指している。サクさんの研究は、その方向に合致すると判断した可能性があります」
「なるほど」岸本は言った。少し間を置いた。「怖い人ですね、コールって」
「はい。怖い部分があります」
「なんで怖いんですか。支援してくれるんでしょう」
「支持するかどうかを、自分が判断できる人間だからです」ハルトは言った。「支持すると決めた人間は、反対すると決めることもできます」
「そっか」岸本は言った。「それが怖いんですね。わかりました」
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夜、サクに電話した。
「コールの声明、確認しましたか」
「はい。見ました」サクは言った。「驚きました。あそこまで言うとは思っていなかった」
「はい。踏み込んだ内容でした」
「ハルトくん、どう思いますか」
「一点、持っておいた方がいいことがあります」ハルトは言った。
「はい」
「コールが今日言ったことは、全部、条件付きです。軍事転用はコールが管理するという条件。支援はコールが提供するという条件。コールが動いている間は、この条件が機能します。ただ、コールが変わったとき、条件も変わります」
「コールを信頼しきらない方がいい、ということですね」
「はい。記録として持ちながら、研究の主導権は手放さない。それが必要です」
「わかりました」サクは言った。「研究の主導権は、私たちが持つ。それだけは、絶対に譲らない」
「はい」
「ありがとう、ハルトくん。こういうとき、整理してくれて」
「はい。整理できてよかったです」
「それから」サクは言った。少し間を置いた。「教授が、少し疲れた顔をしていました。今日、色々ありすぎて」
「はい。教授にも、負荷がかかっています」
「うん」サクは言った。「明日、教授と話します。エマも、心配しているみたいで」
「はい。エマさんにも、気をつけてもらってください」
「うん。気をつけます」
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今日のことを頭の中に入れた。
デイヴィッドからの事前情報。コールの声明。「全面的に支援する」という言葉。「軍事転用はコールが管理する」という言葉。岸本の「怖い人ですね」という言葉。サクの「研究の主導権は絶対に譲らない」という言葉。
全部、残った。
コールが動いた。
世界が、また一段階、動いた。
ただ、記録は手元にあった。
研究の主導権は、サクが持っていた。
それが、今日の最も大事な事実だった。
窓の外に、三月の夜があった。
寝た。
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第百十六話 了




