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魔法特許庁ーーその魔法、違法ですーー  作者: にけ


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116/128

「宣言」

三月の第二週だった。


論文公開から、一週間が経っていた。


世界の反応は、止まっていなかった。


---


朝、出勤すると、岸本が来た。


「神崎主任、今朝のニュース見ましたか」


「はい。確認しています」


「コールが、何か発表するらしいですね。今日の夕方に」


「はい。ホワイトハウスから、声明を発表するとのことです」


「サクさんの論文に関係しますか」


「可能性があります」


「そうですか」岸本は言った。少し間を置いた。「いい方向ですか、悪い方向ですか」


「確認してみないとわかりません」


「神崎主任がそう言うと、確かにそうですね」岸本は言った。「待ちます」


---


昼、デイヴィッドから連絡が来た。


「神崎さん、今日の夕方、コールが声明を出します。IMPOとして、内容を事前に把握しています。共有しておきたいことがあります」


「はい。聞きます」


「コールは、佐久間さんの研究への支援を公式に表明する予定です」デイヴィッドは言った。「アメリカとして、研究の継続を支援する。資金、施設、体制。全面的に提供するという内容です」


「はい」


「それから、もう一点」デイヴィッドは言った。「軍事転用については、コール自身が管理すると明言する予定です。この技術を戦争に使わせない。それをコール自身が保証するという内容も含まれています」


「はい」


「神崎さん、コールがここまで踏み込んだ声明を出すとは、正直、予想していませんでした」デイヴィッドは言った。「ホワイトハウスでの会談で、何かがあったのかもしれません」


「はい。そう思います」


---


日本時間の夕方、コールの声明が発表された。


フロアのスタッフが、それぞれのデスクで画面を見ていた。


ハルトも確認した。


---


コールが演台に立った。


「今週、世界を動かす研究が発表されました」コールは言った。「非適合者が魔法を使える可能性を示した研究です。私は、この研究が本物であることを、直接確認しました」


記者室がざわついた。


「アメリカとして、この研究を全面的に支援します。佐久間サク博士とカーター教授の研究を続けるための資金、施設、体制を提供します。この技術が、全ての人間にとって意味のあるものになるよう、アメリカが動きます」


「軍事転用については、私が直接管理します」コールは言った。即答に近かった。「この技術が戦争に使われることは、私が許可しない。それが条件です」


---


声明が終わった。


フロアが少しざわついた。


岸本が来た。


「神崎主任、聞きましたか」


「はい」


「コールが支援すると言いました」岸本は言った。「あの人、サクさんの研究に反対しているんじゃなかったんですか」


「反対と支持は、別の話です」ハルトは言った。「コールは効率的な社会を目指している。サクさんの研究は、その方向に合致すると判断した可能性があります」


「なるほど」岸本は言った。少し間を置いた。「怖い人ですね、コールって」


「はい。怖い部分があります」


「なんで怖いんですか。支援してくれるんでしょう」


「支持するかどうかを、自分が判断できる人間だからです」ハルトは言った。「支持すると決めた人間は、反対すると決めることもできます」


「そっか」岸本は言った。「それが怖いんですね。わかりました」


---


夜、サクに電話した。


「コールの声明、確認しましたか」


「はい。見ました」サクは言った。「驚きました。あそこまで言うとは思っていなかった」


「はい。踏み込んだ内容でした」


「ハルトくん、どう思いますか」


「一点、持っておいた方がいいことがあります」ハルトは言った。


「はい」


「コールが今日言ったことは、全部、条件付きです。軍事転用はコールが管理するという条件。支援はコールが提供するという条件。コールが動いている間は、この条件が機能します。ただ、コールが変わったとき、条件も変わります」


「コールを信頼しきらない方がいい、ということですね」


「はい。記録として持ちながら、研究の主導権は手放さない。それが必要です」


「わかりました」サクは言った。「研究の主導権は、私たちが持つ。それだけは、絶対に譲らない」


「はい」


「ありがとう、ハルトくん。こういうとき、整理してくれて」


「はい。整理できてよかったです」


「それから」サクは言った。少し間を置いた。「教授が、少し疲れた顔をしていました。今日、色々ありすぎて」


「はい。教授にも、負荷がかかっています」


「うん」サクは言った。「明日、教授と話します。エマも、心配しているみたいで」


「はい。エマさんにも、気をつけてもらってください」


「うん。気をつけます」


---


今日のことを頭の中に入れた。


デイヴィッドからの事前情報。コールの声明。「全面的に支援する」という言葉。「軍事転用はコールが管理する」という言葉。岸本の「怖い人ですね」という言葉。サクの「研究の主導権は絶対に譲らない」という言葉。


全部、残った。


コールが動いた。


世界が、また一段階、動いた。


ただ、記録は手元にあった。


研究の主導権は、サクが持っていた。


それが、今日の最も大事な事実だった。


窓の外に、三月の夜があった。


寝た。


---


第百十六話 了

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