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魔法特許庁ーーその魔法、違法ですーー  作者: にけ


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115/130

「公開」

三月になった。


論文が公開された日だった。


---


朝、出勤した。


デスクに座った。


スマートフォンを確認した。


サクからメッセージが来ていた。


「公開されました。今朝、ジャーナルのページに出ました」


「はい。確認します」


---


ジャーナルのページを開いた。


あった。


佐久間サク、カーター・ジェームズ。


「非適合者への魔力変換技術の実証研究」


受理日、掲載日、著者情報。


全部、記録として残っていた。


---


「確認しました」ハルトは送った。


「どうですか」


「あります。記録として、残っています」


「ありがとう」サクは言った。「ハルトくんに確認してもらうと、本当に残ったと思えます」


「はい。消えません」


---


午前中は、通常の業務をこなした。


ただ、フロアの空気が、少し違った。


岸本が来た。


「神崎主任、佐久間さんの論文、今日公開されましたよね」


「はい」


「ニュースになっていました。魔法系の専門メディアで、朝から取り上げられています」


「はい。把握しています」


「すごいですね」岸本は言った。あっさりした言い方だった。「神崎主任が最初に確認した申請が、世界に出た」


「はい。出ました」


「感慨深くないですか」


「はい。感慨深いです」


「珍しい」岸本は言った。笑った。「神崎主任がそう言うのは、珍しい」


---


昼、リアから呼ばれた。


部長室に入った。


「佐久間さんの論文、公開されましたね」


「はい。今朝、確認しました」


「MPBとして、対応が必要になる動きが出てくると思います」リアは言った。「業界団体からの照会が来る可能性があります。申請の内容についての問い合わせも来るかもしれません。準備しておいてください」


「はい。準備しています」


「それから」リアは言った。少し間を置いた。「おめでとうございます、神崎さん」


「はい。ありがとうございます」


「最初の補記の連絡から、ずっと関わってきた研究ですね」


「はい。全部、記録として残っています」


「そうですね」リアは言った。「今日から、また動きが始まります。準備して進みましょう」


「はい」


---


午後から、動きが出始めた。


魔法系の専門メディアが、次々と記事を出した。


研究の概要。実験のデータ。変換効率の数値。非適合者への影響の考察。


各国の研究者からのコメントも出始めた。


支持する声。懐疑的な声。詳細なデータを求める声。


様々だった。


---


夕方、デイヴィッドから連絡が来た。


「神崎さん、論文公開、確認しました。IMPOとして、各国からの反応を注視しています」


「はい」


「今日の段階で、いくつかの国の魔法関連機関から、IMPOに問い合わせが来ています。論文の内容の確認と、技術の詳細についての質問が中心です」


「はい。想定していた動きです」


「神崎さん、一点だけ」デイヴィッドは言った。「今日の公開を受けて、各国が動き始めています。その動きの中には、研究を支持する方向だけでなく、様々な方向があります。佐久間さんには、伝えましたか」


「はい。今朝、連絡を取りました。今夜も話す予定です」


「わかりました。引き続き、情報を共有します」


---


夜、サクに電話した。


「今日一日、どうでしたか」


「すごかったです」サクは言った。「朝から、メールが止まらなくて。研究者からのコメント、メディアからの取材依頼、大学からの連絡。全部を確認しきれなかった」


「はい。世界が動き始めました」


「怖い部分もあります」サクは言った。「ただ、出してよかったと思っています。記録として、世界に残った。それは、変わりません」


「はい。変わりません」


「ハルトくん、今日、ありがとう」サクは言った。「朝に確認してくれて、ありがとう。あの一言が、一番安心できました」


「はい。確認してよかったです」


「続けます」サクは言った。「公開した後も、続けます。変換効率の改善も、小型化も、全部続けます」


「はい。続けてください」


---


今日のことを頭の中に入れた。


朝のジャーナルのページ。「あります。記録として、残っています」という自分の言葉。岸本の「感慨深くないですか」という言葉。リアの「おめでとうございます」という言葉。デイヴィッドの「様々な方向の動きがある」という言葉。サクの「出してよかったと思っています」という言葉。


全部、残った。


今日、サクの記録が世界に出た。


最初の補記の連絡から、全部が繋がった。


ただ、今日は始まりだった。


ここから、また動き始める。


それが、今日の現実だった。


窓の外に、三月の夜があった。


寝た。


---


第百十五話 了

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