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魔法特許庁ーーその魔法、違法ですーー  作者: にけ


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114/132

「ホワイトハウス」

土曜日の朝だった。


サンフランシスコに着いたのは、前日の深夜だった。


サクが空港に来ていた。


久しぶりに会った。


言葉は少なかった。


ただ、隣に並んで歩いた。


それで、十分だった。


---


朝、三人で朝食を取った。


カーター教授と、サクと、ハルトだった。


カーター教授が言った。


「今日、何が起きるかは、正直わかりません。ただ、一点だけ確認しておきたい」


「はい」


「今日の会談で、何を言われても、研究の主導権はこちらが持ち続ける。それだけは、三人で共有しておきたい」


「はい」サクは言った。


「はい」ハルトは言った。


「神崎さん、今日、あなたがいてくれてよかった」カーター教授は言った。「記録を持っている人間が、そこにいるということが、意味を持つと思っています」


「はい。持っています」


---


午後、ワシントンに着いた。


ホワイトハウスの前に立った。


白かった。


大きかった。


サクが少し立ち止まった。


「来てしまいましたね」サクは言った。


「はい。来ました」


「緊張しています」


「はい。私もしています」


「ハルトくんも緊張するんですね」


「はい。ただ、記録は持っています」


「そっか」サクは言った。「じゃあ、大丈夫ですね」


---


入館の手続きをした。


スマートフォンを預けた。


録音機器の持ち込みが禁止されていた。


案内された。


廊下を歩いた。


静かだった。


---


会議室に通された。


少し待った。


扉が開いた。


コールが入ってきた。


落ち着いたスーツだった。


背が高かった。


側近が二人、後ろについていた。


---


「佐久間サク博士」コールは言った。


「はい」


「カーター教授」


「はい」


コールがハルトを見た。


「神崎ハルトさん」


「はい」


「MPBの主任審査員ですね」コールは言った。「非適合者として、装置を通じて術式を発動した記録がある」


「はい」


「その記録は、私も確認しました」コールは言った。「事前に、三人全員のことを調べました。それだけは最初に言っておきます。隠すことではないので」


---


コールが座った。


三人も座った。


「単刀直入に話します」コールは言った。「私は、この研究を評価しています。データが正確で、結論が明快だ。非適合者が魔法を使えるようになれば、社会全体の効率が上がる。全員が最も輝ける場所で力を発揮できる。私が目指している社会に、最も近い研究です」


「はい」サクは言った。


「ただ、この研究が今、世界に出ると、危険なことが起きます」


---


「どういう意味ですか」サクは言った。


「この研究は、魔法技術の優位性を持つ国々にとって、脅威になります」コールは言った。「今まで魔法使いの数が多いことが軍事的な優位性に繋がっていた。この研究が普及すれば、その優位性が崩れる。各国が、研究を止めようとするか、研究者を取り込もうとするか、どちらかの動きに出ます」


「はい」


「あなたたちは、狙われる可能性があります」コールは言った。「今も、各国の情報機関がこの研究を注視しています。公開すれば、その注視が行動に変わります」


---


部屋が静かになった。


「だから、公表を控えてほしい」コールは言った。「その代わり、アメリカとして全面的な支援を約束します。研究の継続に必要な予算、施設、スタッフ。全部、提供します。安全も保証します」


「公表のタイミングは」サクは言った。


「私が判断します」コールは言った。あっさりした言い方だった。「国際情勢が整ったとき、アメリカとして公表を後押しします。その方が、研究が正しく世に出られる」


---


サクは少し間を置いた。


「ハルトくん」サクは言った。


ハルトを見た。


「はい」


「一点、聞いてもいいですか」


「はい」


「今日の話、どう記録していますか」


---


コールが少し眉を動かした。


ハルトは少し間を置いた。


「はい。整理します」ハルトは言った。「コール大統領は、研究を評価している。支持している。ただ、公表のタイミングを自分が判断したいと言っている。その代わりに、資金と安全を提供すると言っている」


「はい」


「コール大統領がおっしゃっていないことが、一点あります」


コールが、ハルトを見た。


「公表を控えることで、誰が最も利益を得るかです」ハルトは言った。「各国から狙われる危険を避けられるのは、サクさんと教授です。ただ、公表のタイミングをコール大統領が管理できることで、最も利益を得るのは、アメリカです」


---


部屋が静かになった。


側近の一人が、少し動いた。


コールは動かなかった。


少し間を置いた。


「正確な記録ですね」コールは言った。静かな声だった。


「はい。記録として、持っておく必要があると思いました」


「神崎さん」コールは言った。


「はい」


「あなたが、なぜここに呼ばれたか、わかりますか」


「はい。非適合者として術式を発動した記録がある人物として、ということでした」


「それもあります」コールは言った。「ただ、もう一点あります」


「はい」


「佐久間さんの論文の申請に、最初から関わってきた人物だからです。この研究の記録を、誰より持っている人間だからです」コールは言った。「あなたがどう記録しているかを、確認したかった」


「はい。確認していただきました」


「そうですね」コールは言った。少し笑った。「気に入りました。その話し方」


---


コールがサクを見た。


「佐久間さん、選んでください」コールは言った。「強制するつもりはありません。ただ、選ぶ前に、一点だけ確認してほしいことがある」


「はい」


「この研究が公開された後、あなたを守れる保証が、今の私にはあります。ただ、公開後に状況が変われば、その保証が続くかどうかはわからない。それを理解した上で、選んでください」


---


サクは少し間を置いた。


カーター教授を見た。


教授が頷いた。


ハルトを見た。


ハルトは何も言わなかった。


ただ、頷いた。


サクが前を向いた。


---


「公表します」サクは言った。「予定通り、来月、公表します」


コールは少し間を置いた。


「わかった」コールは言った。あっさりした言い方だった。「その答えは、予想していた」


「はい」


「一点だけ言っておく」コールは言った。「公表後、何かあれば、連絡してください。約束は変わりません。公表を選んだ後でも、できる範囲で動きます」


「はい。ありがとうございます」


---


「神崎さん」コールは言った。


「はい」


「最後に一点だけ聞かせてください」


「はい」


「非適合者として、術式を発動したとき、何を感じましたか」


ハルトは少し間を置いた。


「記録が、動いた、と思いました」


「記録が動いた、ですか」


「はい。頭の中に持っていた術式の記録が、実際の感覚と繋がりました。平面だったものが、立体になった感覚です」


「それは、魔法使いが感じることと同じですか」


「わかりません。ただ、記録として持っていたから、繋がりました。記録がなければ、繋がらなかったと思います」


コールは少し間を置いた。


「記録が、か」コールは言った。静かな声だった。「面白い言い方だ」


---


会談が終わった。


三人で廊下を歩いた。


スマートフォンを返された。


建物を出た。


外の空気だった。


二月のワシントンだった。


冷たかった。


---


三人で少し、立っていた。


誰も、すぐには話さなかった。


サクが言った。


「終わりました」


「はい」


「やった」サクは言った。「言えました」


「はい。言えました」


「ハルトくん、記録の話をしてくれてよかった」サクは言った。「あの場で、ハルトくんが話してくれたから、私も落ち着けた」


「はい。記録として、持っておく必要があると思いました」


「コールが、気に入ったって言っていましたね」サクは言った。少し笑った。「ハルトくんらしい場面でした」


「はい」


---


カーター教授が言った。


「今日のことを、記録として残します。会談の内容、コールの言葉、三人の答え。全部、残します」


「はい」ハルトは言った。


「神崎さん、今日はありがとうございました」カーター教授は言った。「あなたがいてくれてよかった。記録を持っている人間がいることで、会談の質が変わりました」


「はい。来てよかったです」


---


夜、サンフランシスコに戻った。


二人で夕食を取った。


向かい合って座った。


いつものカフェだった。


「ハルトくん、明日帰るんですね」サクは言った。


「はい。明日の便です」


「また離れる」


「はい」


「ただ、今日、一緒にいられてよかった」サクは言った。「今日は、ハルトくんが隣にいてくれないと、駄目でした」


「はい。隣にいられてよかったです」


「来月、論文が出ます」サクは言った。「また、色々と動きが出ると思います。怖い部分もあります。ただ、今日、ここまで来られた。それが、今日の全部です」


「はい。今日、ここまで来ました」


「続けます」サクは言った。「公表して、続けます」


「はい。続けてください」


「ハルトくんも、続けてくれますか」


「はい。続けます」


「約束ね」


「はい。約束します」


---


今日のことを頭の中に入れた。


ホワイトハウスの白い壁。コールの落ち着いたスーツ。「事前に三人全員を調べました」という言葉。「この研究を評価している」という言葉。「公表を控えてほしい」という要求。「公表のタイミングは私が判断する」という言葉。「誰が最も利益を得るか」という自分の言葉。コールの「正確な記録ですね」という返し。「記録が動いた」という自分の答え。サクの「公表します」という言葉。コールの「わかった」というあっさりした返し。


全部、残った。


来月、世界に出る。


今日、その準備が終わった。


記録は、次の段階に進んだ。


窓の外に、サンフランシスコの夜があった。


明日、帰る。


寝た。


---


第百十四話 了

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