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魔法特許庁ーーその魔法、違法ですーー  作者: にけ


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113/152

「呼び出し」

二月の半ばだった。


論文の公開まで、二週間を切っていた。


---


水曜日の夕方、サクから電話が来た。


いつもより、少し早い時間だった。


「ハルトくん、今話せますか」


「はい」


「驚いたことがあって」サクは言った。「今日、ホワイトハウスの担当者から連絡が来ました」


ハルトは少し間を置いた。


「ホワイトハウスから、ですか」


「はい。コール大統領が、直接会って話したいとのことで。今週末、ワシントンに来てほしいと言われました」


「教授にも、同様の連絡が来ましたか」


「はい。同じ連絡が来ました」サクは言った。「それから、もう一点」


「はい」


「ハルトくんにも、来てほしいと言われました」


---


ハルトは少し間を置いた。


「私に、ですか」


「はい。神崎ハルトさんも同席してほしいと。名前を指定されました」


「理由は伝えられましたか」


「非適合者として術式を発動した記録がある人物として、直接話を聞きたいとのことでした」サクは言った。「ハルトくんのことを、知っていた」


「はい」


「どう思いますか」


「事前に調べているということです」ハルトは言った。「コールは、会う前に相手の記録を全部把握する人間だと思います。サクさんのことも、教授のことも、私のことも」


「怖い?」


「はい。少し怖いです」ハルトは言った。「ただ、行きます」


「行ってくれますか」


「はい。有給を取ります」


「ありがとう」サクは言った。「一人では、行けない気がしていた」


「はい。一緒に行きます」


---


翌朝、リアに報告した。


部長室に入った。


「白銀部長、相談があります」


「はい。座ってください」


向かい合って座った。


「今週末、有給を取得したいと思っています」


「はい。どういう用件ですか」


「アメリカに行きます」ハルトは言った。「コール大統領から、直接会って話したいという連絡が来ました。佐久間さんとカーター教授、それと私の三人が呼ばれています」


リアは少し間を置いた。


「コール大統領から、直接ですか」


「はい。ホワイトハウスでの会談です」


「神崎さんが呼ばれた理由は」


「非適合者として術式を発動した記録がある人物として、名前を指定されました」


「事前に調べていたということですね」


「はい。そう見ています」


---


リアは少し間を置いた。


「有給の申請は通します」リアは言った。「ただ、一点だけ確認させてください」


「はい」


「今回の会談の内容は、MPBとして把握しておく必要がありますか」


「帰国後に報告します」ハルトは言った。「会談の内容次第では、MPBとして対応が必要になる可能性があります」


「わかりました」リアは言った。「帰国後に聞かせてください」


「はい」


「神崎さん」リアは言った。


「はい」


「コールは、準備して来る人間だと思います。神崎さんも、準備してください」


「はい。何を準備すればいいですか」


「神崎さんが持っている記録を、全部整理してください」リアは言った。「実験のデータ、申請の記録、審査の実績。全部です。何を聞かれても、記録で返せるように」


「はい。やります」


「気をつけて行ってきてください」


---


デスクに戻った。


岸本が来た。


「神崎主任、今週末、有給ですか。珍しいですね」


「はい。アメリカに行きます」


「アメリカ」岸本は言った。少し間を置いた。「サクさんのところですか」


「はい。少し、用事があります」


「そうですか」岸本は言った。あっさりした言い方だった。「気をつけていってらっしゃい。戻ってきたら、また一緒に帰りましょう」


「はい。戻ってきます」


---


鶴田も来た。


「神崎主任、週末、アメリカに行くんですか」


「はい」


「研修は、来週の分をやっておきますか」


「はい。今週中にやりましょう」


「わかりました」鶴田は言った。少し間を置いた。「神崎主任、大丈夫ですか」


「はい。問題ありません」


「なんか、少し緊張した顔をしているように見えて」鶴田は言った。


「そうですか」


「見間違いですか」


「いいえ」ハルトは言った。「少し、緊張しています」


「そうですか」鶴田は言った。「神崎主任が緊張するって、珍しいですね」


「珍しいことが起きるので」


「そうですか」鶴田は言った。「帰ってきたら、教えてください。話せる範囲で」


「はい。話せる範囲で話します」


---


木曜日の夜、渡航の準備をした。


スーツを出した。


鞄を用意した。


頭の中を確認した。


実験のデータ。申請の記録。MPBでの審査実績。この三年間で積み上げてきた記録。


全部、頭の中にあった。


消えていなかった。


---


サクに連絡した。


「準備できました」


「私も」サクは言った。「ハルトくん、明日の夜に着きますよね」


「はい。夜の便で着きます」


「空港に迎えに行きます」


「はい。ありがとうございます」


「ハルトくん、一つだけ聞いていいですか」


「はい」


「コールが何を言ってきても、私は公表します。それは変わらない。ただ、ハルトくんはどう思いますか。どんな話になると思いますか」


ハルトは少し考えた。


「コールは、研究の内容を評価していると思います」ハルトは言った。「就任演説で言っていた効率的な社会という考え方と、サクさんの研究は方向が合致しています。ただ、評価しているからこそ、コントロールしたいとも思っている可能性があります」


「コントロール、ですか」


「はい。価値があると判断した物を、自分の管理下に置こうとする人間がいます。コールがそういう人間かどうかは、会ってみないとわかりません」


「会ってみてから、判断するということですね」


「はい。記録を積み上げてから、判断します」


「わかった」サクは言った。「じゃあ、明日、会いましょう」


「はい。明日、会います」


---


金曜日、有給を取った。


午後の便でアメリカに向かった。


飛行機の窓から、東京の街が小さくなっていった。


雲の上に出た。


頭の中を確認した。


記録は全部、あった。


コールが何を知っているかは、まだわからなかった。


ただ、こちらも記録を持っていた。


それで、進める。


それだけだった。


雲の上の空が、続いていた。


---


第百十三話 了

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