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魔法特許庁ーーその魔法、違法ですーー  作者: にけ


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112/128

「受理」

二月になった。


月曜日の朝だった。


---


出勤してデスクに座ると、サクから着信が入っていた。


折り返した。


一回のコールで出た。


「ハルトくん」


声が、いつもと違った。


震えていた。


ただ、泣いているのではなかった。


「はい」


「来た」


「はい」


「査読、通った。受理されました」


---


ハルトは少し間を置いた。


「はい」


「受理されました」サクはもう一度言った。「正式に、受理されました」


「おめでとうございます」


「ありがとう」サクは言った。「ハルトくんに最初に言いたかった。教授にもエマにも、まだ言っていない。ハルトくんに先に言いたかった」


「はい。受け取りました」


---


少し間があった。


「長かったです」サクは言った。


「はい。長かったです」


「最初の申請から、三年以上経ちました。日本で補記の連絡をもらった日から。ハルトくんが来てくれた日から」


「はい。全部、記録として残っています」


「覚えていてくれているんですね」サクは言った。「最初の電話から、全部」


「はい。消えません」


「ありがとう」サクは言った。「ハルトくんがいてくれたから、来られた。本当に、ありがとう」


「はい。来られました。サクさんが続けたから、来られました」


「二人で来られた」サクは言った。「それが、一番正しい言い方だよね」


「はい。そう思います」


---


「公開はいつになりますか」ハルトは言った。


「早ければ、来月です。ジャーナルのスケジュール次第で、二月末か三月初旬になるとのことでした」


「はい」


「公開されたら、また色々と動きが出ますよね」サクは言った。


「はい。出ると思います」


「怖い部分もあります」サクは言った。「ただ、出さない理由がない。それは変わりません」


「はい。変わっていません」


「出します」サクは言った。「ちゃんと、出します」


「はい。出してください」


---


電話が切れた。


デスクの前で、少し間を置いた。


受理された。


サクの研究が、記録として認められた。


最初の申請の日から、全部が繋がった。


---


昼、リアに報告した。


部長室に入った。


「佐久間さんの論文が、受理されました。今朝、連絡がありました」


リアは少し間を置いた。


「受理、ですか」


「はい。正式に受理されました。公開は来月の予定とのことです」


「そうですか」リアは言った。「よかったです」


静かな言い方だった。


ただ、本当のことだとわかった。


「神崎さん」リアは言った。


「はい」


「おめでとうございます」


「はい」ハルトは言った。「ありがとうございます」


「神崎さんがずっと関わってきた研究です。それが、記録として残りました」リアは言った。「MPBとして、公開後の動きに備えます。業界団体の動きが強まる可能性があります。準備を進めておきます」


「はい。よろしくお願いします」


「神崎さん、今日は早く帰っていいです」リアは言った。


「はい?」


「今夜は、サクさんと話してください」リアは言った。「業務はそれで十分です」


「はい」ハルトは言った。「ありがとうございます」


---


夕方、定時で上がった。


岸本に声をかけられた。


「神崎主任、今日、なんかいい顔してますよ」


「そうですか」


「はい。珍しい顔です」岸本は言った。「サクさんから、いい連絡がありましたか」


「はい」


「よかった」岸本は言った。あっさりした言い方だった。「それだけ聞ければ十分です。おつかれさまでした」


「おつかれさまでした」


---


帰宅した。


サクに電話した。


「今夜は、ゆっくり話しましょう」


「はい」サクは言った。「そうしたかった」


---


二人で、色々な話をした。


最初の申請の話。


補記の連絡の話。


サイエンスアークが買収された話。


連行された夜の話。


川沿いのベンチの話。


アメリカへ来た話。


サンフランシスコの霧の話。


実験の最初の日の話。


毎週末の面会の話。


論文を提出した日の話。


査読の修正要求が来た日の話。


再提出した日の話。


全部を、順番に話した。


サクが笑いながら話す場面もあった。


少し詰まった場面もあった。


「ハルトくん、全部覚えているんですね」サクは言った。


「はい。全部、残っています」


「嬉しいな」サクは言った。「私の記録が、ハルトくんの中に全部ある」


「はい。消えません」


「じゃあ、安心できます」サクは言った。「どんなことが起きても、記録はハルトくんの中に残っている。それが、安心です」


「はい。残ります」


「ありがとう、ハルトくん。今夜は、本当にありがとう」


「はい。今夜、話せてよかったです」


---


電話が切れた。


今日のことを頭の中に入れた。


朝のサクの震えた声。「来た」という一言。

「二人で来られた」という言葉。

リアの「おめでとうございます」という言葉。

岸本の「なんかいい顔してますよ」という言葉。

今夜、二人で話した全部の記録。


全部、残った。


受理された。


来月、世界に出る。


今日は、それだけで十分だった。


窓の外に、二月の夜があった。


寝た。


---


第百十二話 了

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