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魔法特許庁ーーその魔法、違法ですーー  作者: にけ


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11/31

「なんとなく、付き合って」

サクからメッセージが来たのは、土曜日の朝だった。


「今日、暇?」


「暇です」とハルトは返した。


「買い物付き合って。研究の材料」


「どこですか」


「秋葉原。電子部品とか」


「わかりました」


「十二時、駅前」


それだけだった。


---


十二時ちょうどに駅前に着くと、サクはすでにいた。黒いパーカー、ジーンズ、肩にトートバッグ。腕輪はない。スマートフォンで何かを調べていた。


「時間通りだね」


「十二時です」


「毎回同じこと言うね」サクはスマートフォンをポケットに入れた。「行こう」


---


最初の店は、電子部品の専門店だった。


地下一階から三階まで、細かい部品が棚にびっしりと並んでいた。

抵抗、コンデンサ、基板、配線材。魔法が普及した今でも、電子部品の需要は変わらなかった。

むしろ魔法と電気を組み合わせた機器が増えたぶん、部品の種類は増えていた。


サクはリストを見ながら棚を確認した。ハルトはその後ろをついていった。


「これ」サクが棚を指差した。「コンデンサ、五十個」


「何に使うんですか」


「魔力変換の実験回路。電気を一時的に溜めて、変換効率を測る」


「ライターの火を出すのに一日分の電力が必要な、あの実験ですか」


「そう。まだ全然ダメだけど」サクは棚からコンデンサを取った。「でも最近、変換タイミングを変えたら少し効率が上がって」


「どのくらい上がりましたか」


「ほんの少し。一日分が、二十三時間五十分になった」


「十分の改善ですね」


「十分だよ」サクは言った。「全然ダメ」


ただ、声のトーンは悪くなかった。


---


次の棚に移った。サクがリストを確認した。


「銅線、細いやつ。〇・一ミリ径」


「これですか」ハルトは隣の棚を指差した。


サクが確認した。「そう、それ。なんで場所わかるの」


「さっきここを通ったとき、棚の配置を確認していました」


「なんとなく?」


「なんとなくではないです。覚えている方が便利なので」


サクは少し笑った。「ハルトくんっぽい」


「そうですか」


「褒めてる」


---


三階の測定機器のコーナーに来たとき、サクが足を止めた。


棚の前に、魔法で動く測定器が並んでいた。魔力の流れを可視化できる機器だった。腕輪に触れながら操作するタイプで、魔力保有者以上でないと使えない。


サクはその機器を手に取った。裏面の仕様を読んだ。


「これ、使えると実験が楽になるんだけど」


「魔力保有者向けの機種ですね」


「うん。私はS級だから問題なく使えるけど」サクは機器を棚に戻した。「問題は値段。四万する」


「予算オーバーですか」


「今月はね」サクはリストに目を戻した。「まあいい。なくても実験はできる」


ハルトは棚に戻された測定器を見た。


「電気式の測定器では代用できませんか」


「完全な代用にはならないけど」サクは少し考えた。「あ、でも変換前の電気の波形を測るだけなら、普通のオシロスコープで十分か」


「一階にありましたよ。中古品コーナーに、状態の良いものが七千円で出ていました」


サクはハルトを見た。


「なんで知ってんの」


「通ったので」


「……行ってみよう」


---


一階の中古コーナーに戻った。


ハルトが棚を指差すと、サクが確認した。動作確認済みのシールが貼ってあった。


「これ、十分使える」サクは言った。「ていうか、今の実験段階ではこっちの方が適してる」


「そうですか」


「四万の魔法式より、七千円のこっちの方が、今は合ってる」サクはオシロスコープを持った。「ハルトくん、気づくの早いね」


「電気と魔法を組み合わせる実験なら、電気側の測定を先に安定させる方が効率的だと思っただけです」


「それが気づくの早いってこと」


サクはオシロスコープをかごに入れた。


---


会計を済ませて店を出た。


サクはトートバッグに部品を詰めながら歩いた。ハルトは隣を歩いた。


「昼、食べてないね」とサクは言った。


「そういえば」


「どこか入ろう。奢る」


「なぜですか」


「オシロスコープのこと、教えてくれたから。三万三千円分、助かった」


「それは大げさです」


「大げさじゃない」サクは言った。「今月の実験予算、ほぼそれだったから」


---


近くのカフェに入った。


二人でサンドイッチとコーヒーを頼んだ。サクはトートバッグから部品のリストを取り出して、今日買ったものにチェックを入れ始めた。


「全部揃いましたか」


「ほぼ。あと一個だけ足りなくて」


「何ですか」


「特殊な抵抗器。あの店には在庫がなかった。ネットで頼む」


「なんという品番ですか」


「えっ」サクが顔を上げた。「なんで品番聞くの」


「別の店で見かけた気がして」


「どこで」


「さっきの店の二階、棚の一番上に在庫があった気がします。確認しますか」


サクはしばらくハルトを見た。


「……もう会計したのに」


「店員さんに聞けばまだ買えると思います」


「あのね」サクは言った。「ハルトといると、自分の記憶力のなさが際立つんだけど」


「そんなことはないです」


「ある」


サクはコーヒーを一口飲んだ。


「食べ終わったら、もう一回寄ろう」


「はい」


「付き合わせてごめんね」


「面白かったので」


サクは少し笑った。窓の外を見た。冬の午後の街が、のんびりと流れていた。


「ハルトくんって、なんにでも面白いって言うね」


「面白いと思ったときだけ言います」


「今日は面白かった?」


ハルトは少し考えた。


「コンデンサが五十個必要な実験回路がどんなものか、少し想像しました。変換タイミングを変えたら十分改善したという話も。面白かったです」


サクはコーヒーカップを両手で持った。


「そういうとこだよ」とサクは言った。小さい声だった。


「何ですか」


「なんでもない」


---


食べ終わって、もう一度店に寄った。


二階の棚の一番上に、件の抵抗器があった。


「あった」とサクは言った。


「あると思いました」


「なんで一番上の棚まで覚えてんの」


「通ったので」


サクは抵抗器を手に取った。品番を確認した。「これ、正しい」


会計をした。今度こそ全部揃った。


店を出ると、サクが言った。


「今日、ありがとう」


「荷物持っただけです」


「それだけじゃないでしょ」サクはトートバッグを肩にかけた。「また付き合って」


「はい」


「なんとなく、また来週あたり」


「連絡ください」


「する」


サクは改札に向かって歩き始めた。少し歩いて、振り返った。


「魔道具の測定器、いつか絶対使えるようにする」


「はい」


「そのときはハルトに最初に見せる」


「楽しみにしています」


サクは前を向いた。また歩き始めた。今度は振り返らなかった。


ハルトは駅の入口を抜けるサクの後ろ姿を、少しの間見ていた。


コンデンサ五十個、銅線、オシロスコープ、抵抗器一個。


今日の買い物の内容が、きれいに頭に残っていた。


冬の空が、きれいに晴れていた。


---


第十一話 了

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