「食事」
十月になった。
ソウから連絡が来た。
「久しぶりだな。飯でも食わないか」
ハルトは少し間を置いた。
「はい。いつですか」
「今週末はどうだ」
「はい。問題ありません」
「じゃあ、土曜日の夜。場所はこっちで決める。後で連絡する」
「はい」
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土曜日の夜だった。
ソウが指定した店は、新宿の落ち着いた割烹だった。
ソウはすでに来ていた。
向かい合って座った。
「久しぶりだな」ソウは言った。
「はい。夏の終わりに、魔法庁の廊下で会って以来です」
「覚えているな」ソウは言った。少し笑った。「お前は何でも覚えているか」
「はい」
「便利な頭だな」ソウは言った。「羨ましくはないが、便利だと思う」
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料理が来た。
二人で食べた。
しばらく、仕事の話をした。
「MPBは、どうだ」ソウは言った。
「主任として、安定してきました」
「業界団体から照会が来ただろう」
「はい。先月、回答を出しました」
「どんな回答を出した」
「記録と数値と事実だけで構成した文書を出しました」
「感情的な反論は入れなかったか」
「入れていません」
「そうか」ソウは言った。「それが正しい」
ハルトは少し間を置いた。
「神宮寺さんは、あの団体に関わっていますか」
ソウは少し間を置いた。
「なぜそう思う」
「業界団体の動きと、神宮寺さんがMPBを離れたタイミングが重なっています。記録として、そう見えます」
「記録として、か」ソウは言った。静かな声だった。「俺が何も言わなくても、お前は繋げるんだな」
「はい」
「答えは言わない」ソウは言った。「ただ、一点だけ言っておく」
「はい」
「お前が出した回答は、正しかった。記録で返したことは、正しい対応だ」
「はい」
「それだけだ」
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話が続いた。
魔法庁の近況を、ソウが話した。
表向きは穏やかな話だった。
ただ、ハルトは聞きながら、頭の中で照合していた。
ソウが話す内容と、自分が持っている記録。
一つ一つ、確認した。
矛盾はなかった。
ただ、言っていないことがあると思った。
それも、記録として持っておいた。
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「佐久間さんの研究、どうなっている」ソウは言った。
「再提出が終わりました。査読結果待ちです」
「年内に結果が出るか」
「可能性はあります」
「出たら、また動きがある」ソウは言った。「そのつもりでいろ」
「どういう意味ですか」
「言葉通りの意味だ」ソウは言った。「お前は記録を持っている。どう使うかは、お前が判断することだ」
「はい。判断します」
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食事が終わった。
店を出た。
夜の新宿だった。
「神崎」ソウは言った。
「はい」
「主任になったな」
「はい」
「リアが部長になった。お前が主任になった。三年半で、そこまで来た」
「はい」
「お前が入ってきたとき、こういう形になるとは思っていなかった」ソウは言った。「ただ、今のこの形は、悪くない」
「はい」
「記録を持ち続けろ」ソウは言った。「それだけが、お前の武器だ。その武器を、正しく使え」
「はい。使います」
ソウは少し間を置いた。
「気をつけろよ」ソウは言った。「色々な意味で」
「はい」
ソウは手を上げた。
背を向けた。
人混みに消えていった。
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ハルトは少し間、その場に立っていた。
今夜のことを頭の中に入れた。
ソウの言葉。「お前が出した回答は、正しかった」という言葉。「出たら、また動きがある。そのつもりでいろ」という言葉。「記録を持ち続けろ。それだけが、お前の武器だ」という言葉。「気をつけろよ」という言葉。
全部、残った。
ソウが何かを知っていて、全部は言わなかった。
それも、残った。
何が来るかは、わからなかった。
ただ、記録は持っていた。
それが、今できる全部だった。
歩き始めた。
帰った。
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第百四話 了




