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魔法特許庁ーーその魔法、違法ですーー  作者: にけ


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103/128

「再提出」

九月の第三週、火曜日の朝だった。


ハルトがデスクで申請書の確認をしていると、スマートフォンが鳴った。


サクからだった。


廊下に出た。


「はい」


「ハルトくん、今話せる?」


「はい。話せます」


「今日、再提出した」


ハルトは少し間を置いた。


「はい」


「さっき、受付番号が発行されました。正式に再提出の記録が残りました」


「おめでとうございます」


「ありがとう」サクは言った。「ハルトくんに最初に言いたかった」


「はい。受け取りました」


---


「今回は、一人で出しました」サクは言った。「教授と相談して、手続きは私一人でやってみようと思って」


「はい」


「緊張したけど、ちゃんとできた」サクは言った。「最初の申請を思い出した。あのとき、補記のことをハルトくんに連絡してもらって、窓口に来てくれたんだよね」


「はい。六月でした」


「あのころから、ずいぶん来たな」サクは言った。「論文を一本、書いて、修正して、再提出した。それだけのことだけど、すごく遠くまで来た気がする」


「はい。遠くまで来ました」


---


「修正の三点、全部対応できたと思う?」


「はい。先週、確認しましたが、全部対応できていました。特に二点目の先行研究との比較は、ドイツの特許との照合を入れたことで、根拠が明確になっています」


「そっか」サクは言った。「査読の結果、いつ来るかな」


「前回は提出から四ヶ月かかりました。今回は修正稿なので、少し早くなるかもしれません。二ヶ月から三ヶ月が目安だと思います」


「年内には来るかな」


「十一月から十二月になる可能性があります」


「年内に来てほしいな」サクは言った。「ハルトくんもそう思う?」


「はい。年内に来てほしいと思っています」


「ハルトくんがそう思ってくれると、なんか、年内に来る気がする」サクは言った。少し笑った。「根拠ないけど」


「根拠があります」


「何ですか」


「修正稿は、初稿より強い内容になっています。査読者が求めた修正に、全て対応できています。受理される可能性が、初稿より高い。受理の可能性が高ければ、判断も速くなる可能性があります」


「なるほど」サクは言った。「ちゃんと根拠があった」


「はい」


「じゃあ、信じます。年内に来る」


---


電話が切れた。


デスクに戻った。


---


昼休み、岸本が来た。


「神崎主任、今日、少し顔が違いますね」


「そうですか」


「なんか、少し穏やかな感じがします」岸本は言った。「いいことがありましたか」


「知人から、いい連絡がありました」


「サクさんですか」


「はい」


「論文ですか」岸本は言った。あっさりした言い方だった。


「はい。再提出できたとのことでした」


「それはよかったですね」岸本は言った。「神崎主任、嬉しいんですね」


「はい」


「嬉しいって、ちゃんと言えるんですね」岸本は言った。少し笑った。「いいことだと思います。主任が穏やかだと、フロアが落ち着くんですよ」


「そうですか」


「そうです」岸本は言った。「白銀部長もそうでした。部長が落ち着いていると、フロアが安定した。神崎主任も、同じです」


「はい」


「サクさんからいい連絡が来るたびに、フロアが安定するってことですね」岸本は言った。笑った。「サクさんに、感謝しないといけませんね」


---


夜、今日のことを頭の中に入れた。


サクの「再提出した」という言葉。受付番号が発行された記録。「遠くまで来た」という言葉。岸本の「嬉しいって、ちゃんと言えるんですね」という言葉。


全部、残った。


サクの論文が、また一つ、記録として積み上がった。


今度は、年内に査読結果が来るかもしれない。


それが来るまで、こちらも積み上げ続ける。


窓の外に、九月の夜があった。


寝た。


---


第百三話 了

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