メサイアコンプレックスの彼―3
男性視点3話
「…ごめんなさい。今まで、ごめんなさい」
壊れたラジオのように謝っている、その声は涙声だった。顔を上げてそちらを見る。重い瞼の隙間から見える彼女の輪郭が、千莉の姿と重なる。
ずっと、責められると思っていた。どうしてあのとき、返事をくれなかったの。お兄ちゃんのせいであたしは死んだんだ――罵倒されるのを心のどこかで待っていた。なのに、目の前にいる彼女は泣きながら、僕に謝っていた。今まで、縛り付けていて、ごめんなさい。
僕は…許されたかったんだ。榛子を救うことで許されようとした。そして今…許されたのかもしれない。体から力が抜け、彼女に寄りかかる。
「榛子のせいじゃないから…泣かないで」
榛子は戸惑っている様子だったが、やがて言った。
「横になったほうがいいわ。ソファに戻りましょ」
彼女に引っ張られるようにしながら、ソファに横たわる。ずきずきとしていた頭痛は、だいぶ軽くなった。
それから榛子は僕が汚してしまった洗面器を持って、トイレに流しに行ったようだ。しばらく水道の音がした後、戻ってきた。
気が抜けてひと眠りしようかと思ったところで、腹がぐう、と鳴った。
朝から食欲がなくて栄養ドリンクしか飲んでおらず、それもさっき吐き戻してしまったため胃が空っぽだった。
彼女は困った表情をして目を伏せた。
「あのね、私…自炊ができないの。包丁が苦手で」
包丁が苦手なのは、彼女の過去が原因だろう。
「あとで食べるから、気にしなくていい」
そう言ったが、彼女は黙って立ち上がると、キッチンのほうへ向かった。
今、もし彼女がパニックを起こしても、僕は助けられないが…




