表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

32/50

第32話 最前線の地獄

 聖痕学園の校庭は、もはや「教育の場」ではなかった。

 空から降り注いだ獣魔の群れによって、かつての芝生は真っ黒な血と肉片に覆われ、防衛拠点として急造されたバリケードの裏では、若き騎士候補生たちが、恐怖でガチガチと歯を鳴らしていた。

「救援は!? 教官はどこだ!!」

「……あ、あああああッ!!」

 悲鳴が上がる。

 学園の守護結界を力任せに食い破り、全長五メートルを超える大型の獣魔が、防衛線のただ中へと躍り出た。

 選民意識を剥き出しにしていたエリート生徒たちも、本物の絶望を前にしては、ただの「柔らかい餌」に過ぎない。

 その時だった。

 

 鉛色の空から、一筋の「黒い雷」が校庭の中心へと叩きつけられた。

 

 着弾の衝撃で、大型獣魔の頭部が爆散する。

 土煙が舞う中、そこに立っていたのは、学園の制服を着崩し、右腕から真っ黒な「泥」を滴らせている駆だった。

「……黎明? 貴様、なぜここに……」

 血まみれで膝をついていた生徒の一人が、掠れた声で呟く。

 だが、駆は答えない。

 彼の背後には、いつの間にか陽葵が、戦場にそぐわない無垢な姿で佇んでいた。

「お兄ちゃん、あっち。……あの子たちが、お兄ちゃんを呼んでるよ」

 陽葵が指差した先には、校舎の影から次々と這い出してくる獣魔の増援。

 

 駆は、無感情に一歩踏み出した。

 無理やり戦線へ引きずり出されたのではない。彼は自ら、この血の臭いの中に居場所を見出していた。

 

 駆が右手を振るうたび、影が鞭のようにしなり、周囲の獣魔を文字通り「ミンチ」に変えていく。

 それは守るための戦いというよりは、己の内側で暴れる「怪物」を外側に吐き出すための、悍ましい排泄作業のようだった。

 

 学園の防衛システムを熟知しているはずの教官たちでさえ、その異常な戦闘力に言葉を失い、戦慄する。

 駆の瞳からは、ついにハイライトが完全に消え失せていた。

 

「……邪魔だ。全員、下がってろ」

 

 かつてのクラスメイトたちを、人間ではなく「障害物」として一瞥し、駆はさらに深い地獄の奥へと突き進む。

 

 その背中に向けられるのは、感謝の言葉ではない。

 畏怖、嫌悪、そして「あいつは何だ」という、怪物に向けられる特有の拒絶だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ