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第33話 エリートの挫折

 学園の「太陽」と称された焔の炎は、すでに消えかけていた。


「嘘だろ……。俺の、最高出力の極大火炎が……全く効かないなんて……」

 焔の目の前には、炎を吸収し、赤黒く肥大化した特級獣魔がそびえ立っていた。

 彼がこれまで心血を注いできたエリートとしての修練も、高潔な血筋も、この異形の暴力の前ではただの紙屑に等しい。

 バリケードは砕かれ、取り巻きの生徒たちは蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。

 たった一人、瓦礫の山に取り残された焔の膝は、生まれたての小鹿のように震えている。


「あ……が、あ……っ」

 獣魔の巨大な鉤爪が振り上げられる。死の影が視界を覆い、焔は反射的に目を閉じた。

 

 だが、待てど暮らせど衝撃は来ない。

 代わりに聞こえたのは、肉を紙のように引き裂く、不快な濡れた音だった。


「ひ……?」

 焔が恐る恐る目を開けると、そこには、自分が「障害物」として一瞥したあの男――駆が立っていた。

 駆の右腕から伸びた黒い泥の槍が、特級獣魔の胸部を無造作に貫通している。

 

 駆は焔をまるで石ころのように見ようともせず、ただ作業をこなすように、槍を引き抜いて獣魔を塵へと変えた。


「黎明……! まさかお前、俺を助けに来たなんて言うんじゃないだろうな!?」

 焔の声に、困惑が混じる。しかし、駆が放った言葉は、彼の自尊心を完全に粉砕するものだった。


「……どけ。火力が足りないなら、火なんて使わなきゃいいだろ。邪魔だ」

 駆の瞳には、かつての自分に対する引け目も、あるいは救った者への慈悲も、欠片も存在しなかった。ただ「非効率なもの」を排除しようとする、冷たい怪物の意志があるだけだ。


「な、なんだその目は……。俺はエリートで、お前は無能の……!」

 言いかけた焔の背後に、さらなる獣魔の影が二つ、三つと立ち上がる。


 絶叫。失禁。

 死の恐怖が、ついに焔の「エリート」としての仮面を剥ぎ取った。

「……助け……助けてくれ、黎明!! なんでもする、謝るから! 頼む、死にたくないんだ!!」

 かつての傲慢さは消え失せ、地面に這いつくばって駆の足首に縋り付く。

 駆は、その惨めな姿を冷ややかに見下ろし、泥の滴る右手を静かに持ち上げた。

 

 その光景を、背後から陽葵が、この世で最も幸福なものを見るような目で眺めていた。


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