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第30話 告白の封印

 廃ビルの最上階に、学園の救助部隊が突入してきた。

 無機質なライトの光が、瓦礫の中で互いの血に汚れ、寄り添って倒れている裸の兄妹を照らし出す。


「……黎明駆、および黎明陽葵を保護! 至急、医療班を!」

 騒乱。罵声。ストレッチャーの振動。

 駆は、遠のいていく意識の中で、必死に自分の喉を、舌を、動かそうとした。


(……陽葵。……さっきの、あれは……)

 陽葵が自分を噛んだ理由。彼女の瞳に宿っていた、あの底知れない闇。

 そして、先ほど「影の王」として蹂躙した際、脳裏にフラッシュバックした【十五年前の真実】。

 あの夜、黎明家を襲ったのは、外から来た獣魔などではなかった。

 幼い駆の内側から溢れ出した「それ」が、食卓を、家を、そして――。


「陽葵、俺……。お前の、お父さんと、お母さんを……っ」

 言いかけ、駆は自分の吐しゃ物と血で激しくむせび、言葉を止めた。

 陽葵は、ストレッチャーに横たわる駆の顔を覗き込み、血に染まった自分の指を、駆の唇にそっと当てた。

「……言わなくていいよ、お兄ちゃん」

 彼女の微笑みは、聖母のように慈悲深く、同時に、逃げ場のない監獄の鉄格子のようでもあった。

 

 駆は、溢れ出す血と一緒に、伝えようとした最悪の告白を喉の奥へと飲み込んだ。

 ゴクリ、という重苦しい音と共に、心臓の鼓動が一度、不自然に跳ね上がる。

 

 刹那。

 駆の記憶の奥底で、最後の「家族の風景」が、音もなく粉々に砕け散った。

 

(……あれ……?)

 

 思い出せない。

 自分を「人として生かしてやってくれ」と願った、あの【両親の顔】が。

 優しかった母の微笑みも、厳格だった父の眼差しも、まるで最初から存在しなかったかのように、真っ白な空白に置き換わっていく。

 

 親の顔さえ持たない「怪物」が、ただ妹という「依代」を繋ぎ止めるためだけに、人間のふりをして生き続ける。

 

 運ばれていくストレッチャーの隣で、陽葵が駆の指先をそっと握った。

 彼女は、血を拭ったばかりの唇で、誰にも聞こえないほど小さな声で呟く。

 

「……おやすみなさい、お兄ちゃん。……いい夢、見てね」

 

 駆は、もう表情さえ作れないまま、暗い眠りの淵へと沈んでいった。


 自分が「誰の子供だったか」を完全に失った、名前のない怪物として。


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