表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

17/50

第17話 魔力の暴走

 聖痕祭の翌日。学園内には、昨夜の狂乱の残骸と、祭りの終わりを惜しむ気だるい空気が漂っていた。

 

 駆は、重い足取りで中庭の廊下を歩いていた。

 右肩の傷は、陽葵が塗ってくれた市販の軟膏のおかげか、痛みは引いている。だが、体の芯にある「違和感」だけが、鉛のように重く居座っていた。


(……魔力の擬態が、上手くいかない)


 駆は、無能の劣等生として振る舞うために、常に自分の強大な「影」を、微弱な「Fランク魔力」へと擬態させている。

 だが、昨日の領域展開の代償か、内側から溢れ出す漆黒の奔流が、制御を離れて暴れ回ろうとしていた。


「おい、黎明。ボサッとするな。今日は全校生徒対象の『魔力定期検診』だぞ」


 クラスメイトの声に、駆はハッとして顔を上げた。

 視線の先には、最新型の魔力測定器――「魔導の天秤」が設置された特設ブースがある。


 生徒たちが一人ずつ、水晶球に手を触れていく。

「Cランク。次」「Bプラス。優秀だな」

 淡々と告げられる判定。


(マズい……。今の状態でこれに触れたら、擬態が剥がれる)


 駆の背中に、嫌な汗が流れる。

 列は着実に進み、ついに駆の番が回ってきた。

 測定員の教師が、退屈そうに手元のタブレットを叩いている。


「黎明駆か。……どうせいつもの『測定不能(微弱)』だろうが、一応形式だ。触れろ」


 駆は震える指先を、冷たい水晶球へと伸ばした。

 心の中で必死に念じる。

(鎮まれ。……消えろ。……ただの無能の影でいろ……!)


 指先が触れた、その瞬間。


 ピィィィィィィィィィン!!


 鼓膜を突き刺すような高音の警告音が、静かな廊下に鳴り響いた。

 水晶球の内側で、本来なら青白く光るはずの魔力が、ドロリとした「漆黒の墨」のような色に染まり、激しくのたうち回る。


「……な、なんだ!? 数値が……計測限界を超えて……逆流している!?」


 教師が椅子を蹴り飛ばして立ち上がった。

 液晶画面に表示された数値が、FからA、そしてSへと一気に駆け上がり、最後にはバグを起こしたように、見たこともない古代文字のような記号で埋め尽くされた。


「……あ、あれ? 合格、でいいですよね?」


 駆は引きつった笑みを浮かべ、反射的に手を離そうとした。

 だが、その時。


「――逃がさんぞ、黎明」


 背後から、氷のように冷たい声が響いた。

 ほむらだ。

 彼は、狂ったように点滅する測定器と、蒼白な顔をした駆を、射抜くような視線で見つめていた。


「合格なわけないだろ。……その真っ黒な『魔力』。昨日、俺が体育館で感じた獣魔のモノと全く同じだ」


 周囲の生徒たちが、異変に気づいて集まってくる。

「黎明が……獣魔?」「あの漆黒の光、何だ……? 呪いか?」

 ざわめきが、波のように広がっていく。


 駆は、押し寄せる視線と、自身の内側から漏れ出す「影」の衝動に、眩暈を感じていた。

 擬態という名の仮面が、今、音を立てて崩れようとしている。


 その光景を、校舎の二階、人影のない教室の窓から、じっと見下ろしている少女がいた。

 陽葵だ。

 彼女は、騒動の中心にいる兄を見つめながら、指先で窓ガラスをトントンと規則正しく叩いていた。


「……あーあ。……お兄ちゃん、隠すの下手だなぁ」


 陽葵は、困った子供を見るような優しい微笑みを浮かべたまま、その瞳の奥に、昨日と同じ「絶対的な静寂」を宿していた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ