偶然のX乗
「リュウノスケさん!」
少女が俺の名前を呼んで、持ってきたのはあの表紙の本…やはり見間違ってなかったみたいだな。
その本の表紙にはしっかりと青い宝石が埋め込まれており、奇妙なラインに彩られた特徴的な見た目。
まさに光に包まれる直前に俺が持っていたのはこの本だった。
中を開くと、興味深そうにフィオラとリベルさんも除きこむ。
しかし、開いた所で中身は白紙…これは分かっていた。
肝心なのは最後のページだ…俺はそのまま本を裏から捲った。
「…この言葉…そうだ、この言葉を口に出して読んだときに俺が光に包まれて…」
「え?リュウノスケさんも同じ本を?」
「俺の家にもこの本があった。
全く同じものだと思うが…何でここにもあるんだ?」
そこで、フィオラがあっと声をあげた。
どうやらこの本と俺の出会いで思い当たる節があるらしく、俺にあの時の状況を話してくれた。
「実は私もリュウノスケさんが現れる前にこの言葉を口にしたんですよ!
そうしたらこのペンダントが光出して…一瞬でしたけど風と光に襲われた後に私の横で何やら糸が切れるような音がしたような…?」
「プツン…って音か?」
「それです!リュウノスケさんも聞いたんですか?」
俺も確かにその音を聞いた。
あれが何かは分からないが…何か繋がりがありそうだ。
とすると、俺とフィオラがこの言葉を口にしたのはほぼ同時期…それもきっと関係が…。
こんな時にこの本の事を調べられる様なものがあれば…パソコンも無いからインターネットもあれだし…ましてやこの本を知ってる人も居ないだろうしな。
フィオラも偶然母親の部屋から見つけたらしいし…とにかく何でもいいから調べられたら…。
調べられる物…便利な道具…あれ?これついさっき何処かで見たような?
と、俺はふとリベルさんを見た。
いや、正確にはリベルさんではなく、リベルさんが"掛けている"その道具…メガネの事を思い出した。
「…そうか…そうだった!!
そう言えばそのリベルさんのメガネってフィオラの作った道具だったよな!心眼のなんちゃらって奴!
それでこの本を見たら何か分かるんじゃないか!?なあフィオラちゃん!」
「わぁ!確かにその道具なら如何なる状態でも、その道具の目的すら見通せる筈です!
リベルさん!お願いしても良いでしょうか?」
「はい、お嬢様のご要望とあらば…どれどれ?」
フィオラの声かけもあり、リベルさんは喜んで協力してくれた。
じっくりとそのメガネを使ってこの本を凝視する。
一見変哲もない本でもきっと何かある筈だ、そうでなければこんな偶然が起こり得る筈はない。
状況からして共通点はこの本のみ。
リベルさんは目を険しくしながら本を見つめる。
すると、まあ!と声を出して驚いた。
何か重要なことを見つけたようで、直ぐにそれを聞いた。
「リベルさん、何か分かりましたか?」
「え、ええはい。
何か…と言いますか…これはどうやら魔法即効道具の様ですね…しかも当主様…つまりお嬢様の母上様の物で間違いありません。」
「…お母さんの道具…?」
フィオラも気になったのか、それともやはりと言うべきか、その本の正体に興味を示した。
魔法即効道具。
特定の行動や言葉で発動する魔法を閉じ込めた道具…らしい。
てか魔法まであるのかここは…やはり異世界説は濃厚だな。
いやまてよ?既に見ているかも知れないな。
錬金術って言う…魔法を。
とにかく、この本が特殊な道具であることは分かった。
そこでその魔法の正体をリベルさんに見てもらった…のだが。
それは俺達の予想を…いやもう予想すら必要ない程、訳のわからない物だった。
そう、ピンポイントにこの状況を作り出したもの…それが答えだった。
「どうやら…発動した人間を、"術者"の方へと転移させる強制魔法の様ですね…おっと…どうやら術者は…お嬢様見たいですね。」
「わ、私ですか!?」
「強力な魔力因子をこの本に投じた者が術者となり…同時に発動させた者を引っ張る…と言った所でしょうか?」
「魔力因子を…ってあー!!
お母さんのペンダントが光ったのってそう言う…」
「ど、どういう事だ?」
ペンダントを見ると、中に綺麗な青色の花びらが閉じ込められていた。
淡い光を常に発している…綺麗なペンダントだ。
話を聞いたところ、実はフィオラのペンダントは母にお守りとして渡され、中に見える花びらの様なものは特別な花で、持っている者に力を与えるとかどうとか…そう言えば錬金術行使の際にもこのペンダント光ってたな…?
リベルさんは更に続けて本の内部を読んだ。
「尚、発動はもう一つのこの本を別の場所で同時に起動させることが条件であり、実際ではあまり使われない…との事です。」
「え…と、言うことは…」
お分かりいただけただろうか?
そう、つまり、こう言うことである。
「偶然にも俺の家の親父の部屋を物色していた俺が、偶然にもこの本を見つける。
偶然何故かあったこの本を偶然手に取った俺が、偶然この本の最後のページを読み…」
「偶然私も母の部屋で見つけて、偶然術用のペンダントをつけていて…偶然同じ時間に、偶然最後のページの言葉を…読んだことになりますね…あはは…」
「そして重なった偶然で発動したこの本によって…」
「私が…リュウノスケさんを…召喚しちゃった…って訳ですね…?」
「完璧な…偶然って訳か…あははははは!!!」
…。
……。
………。
沈黙したあと、冷や汗を流し、ひきつる笑顔で目を見合わせた俺達二人は、空に向かって大声で叫んだ。
「「偶然にも程があるでしょーーー!!!!」」
ここまでくるといっそ清々しいわボケェ!
何処のご都合アニメでもあり得ないだろこれは!
疑問はまだまだ残るし…何で本があそこにあったのかすら…。
「ああ…こんなことって…マジかよ…」
こうして俺は、偶然の何乗と言わんばかりの確率で、この異世界へと飛ばされた…らしい。
しかもこの道具は一方通行…まあ薄々分かってたけど…。
俺…これからどうなるんだろうか?




