運命共同体
追記、明日は投稿をお休みさせていただきます。
申し訳ありません!
夜も更け、空には無数の星が煌めき出す頃…冷えてきた夜風を身に受けながら、フィオラの家のテラスでロングチェアに座りながら二人で夜空を見ていた。
隣で同じように夜の星を眺めるフィオラは、その美しい星屑の光に魅了されながら…微笑みを浮かべていた。
そんな彼女に話を切り出すのがどうも手間取ると言うか…自制心が働いてしまい、そわそわしていると、目の前で葉巻を吸っていたアリストロメリアが俺の事を呼んだ。
「…ふぅ…お主、そろそろ話をしないと…先に進めないんじゃがの。
ゆっくりするのは構わないが…我の愛弟子が消えてしまう前に…の。」
「あ、ああ…分かってるよ。
折角ここまでついてきてくれたんだしな…。」
アリストロメリアは自分の家よりもかなり遠いこの場所までついてきた。
それは紛れもなく、俺がどう言った選択をするか…それを見届けるためだろう。
彼女を夜風に晒し続けるのも気が引ける、それにフィオラもいつまでも外に居させる訳には行かないしな。
俺は思いきって彼女に、話を始めた。
「フィオラ。」
「はい? なんですか?」
「いいか、フィオラ…俺は今から大事な話をする。
それを断ってもいいし…承諾してもいい。
はっきり言って、フィオラには申し訳ないと思う事だからな。」
「おいお主…。」
「すまんアリストロメリア…だけどそうだろ?」
「そうじゃが…まあ…確かに我らが決めることではない、その娘が決める事じゃからの…。」
アリストロメリアは俺の言いたいことに、薄くどういう意図があるか感じ取り、俺に抑制を掛けてきたが…俺は丁重に彼女に断りを入れた。
あくまでも俺の選択の話だ。
だけど…彼女自身の運命が掛かっている以上…本人に聞かないとどうしようも無いことだってある。
それを決めるのはアリストロメリアでも、俺でも、母親でもない…。
不思議そうな顔を浮かべるフィオラに、再度改めて話を続ける。
「フィオラ、実はな…俺…君のお母さんに会ったんだ。
一度だけじゃない、何度もだ。
それで、俺は君のお母さんと…そこのアリストロメリアからある頼みを聞いているんだ。」
「お母さんと!? そ、それは一体何処で…。
それにお母さんはあの時…違うんですか?」
「いや…取り敢えずいいか、良く聞くんだぞ。」
彼女の言う"違う"とは…勿論母親の安否の事だ。
俺はその質問に首を振り…軽く説明をした。
彼女の母親…ルピカさんが"記憶と時間の狭間"で実像幻影を辛うじて残していると言うこと、そしてその幻影も、もう持たないと言うことを。
賢者の審判者の話も"賢者"の事も、アリストロメリアの素性の話も粗方話した。
最初は彼女でも戸惑いを隠せない程の難しい話だったが…次第に彼女もその意図と目的を理解し、首を縦に振って相づちを打つようになった。
審判者の役目、賢者の存在…それを受け入れるかどうかの話はしてないが、どうやら彼女はもうそれを察している様だった。
彼女の母、ルピカさんの意思を話した所で…フィオラは重い口を開いて質問してきた。
「…大体の理由は分かりました。
その…あとお母さんは幻影としてまだ存在していて…度々リュウノスケさんに会っていたんですね。」
「ああ、それも共鳴が初めて起こった時から…意識を失う度にあの場所に飛ばされていたみたいだ。
身体はこっちにあるけど…意識だけ向こうに行ってる感覚だろうか。」
「通りで…そうだったんですね。」
「疑わないのか?」
「ふふ、疑ったり何かしませんよ。
リュウノスケさんは嘘は付かないですから…それに、リュウノスケさんから…実は『匂い』がしたんです。」
「匂いだって…?」
そう言うと、彼女は立ち上がり…座っている俺の前に立った。
すると、何やら俺に近付いて匂いを確かめ始めた。
少し恥ずかしい素振りがあったが…それを終えた彼女は頷き、何か確証を得たような表情を浮かべた。
「『スノーローズ』…やっぱりリュウノスケさんからあの真っ白なバラの匂いがするんです。」
「スノー…ローズ?」
「ええ、私のお母さんが大好きだったお花の一つです…昔は良く育てていたのですが…今は枯れてしまって。
種を探そうにも作ろうにも、お母さんしかそれの記録を知らなかったんです。
そのお花の匂いが…リュウノスケさんからするんです。
だとしたら…お母さんに会ったってお話も…信用出来ますから。」
彼女はそう言って笑顔を見せた。
スノーローズ…あの園に植えてあった白いバラは、彼女の思い出の一つだったのか。
だけど…あの場所に行っているのはあくまで精神だけ…身体は直接行っている訳ではないのだが…。
と考えて、ふとアリストロメリアを見ると…彼女が何やらフィオラを見て驚いていた。
咥えた葉巻の灰は落とすことなく…徐々に長くなり、今にも落ちそうな位にまでとどまっていた。
灰を落とす事すら忘れ、彼女はフィオラを見ていた。
「まさかこの娘そこまで…ふふ、とんだ親子愛と言うか…遺伝子と言うか…ふふふ。」
「…アリストロメリア、大丈夫か? 灰が落ちるぞ…?」
「ん? おお! すまんすまん、ちょっと考え事をしておっての、気にするでない。」
そう言って誤魔化す彼女は、何事もなかったかの様に夜空を見て葉巻を吸い続けていた。
フィオラに何か感じたようだけど…彼女の事だ、聞いても誤魔化されるのがオチだろう。
アリストロメリアは放っておき、再びフィオラと話を続ける。
「まあ…信じてくれるならそれに越したことはないさ。」
「いえ…あと、つまり…お母さんは私を選んだ…そう言いましたよね?」
「ああ…そうだな。
フィオラのお母さん…ルピカさんも、そこに居るアリストロメリアも…な。」
「…憧れの錬金術師だったお母さんのお師匠様…400年前の『東の賢者』…でしたよね。
そんな方までどうして…それに、どうしてリュウノスケさんがそんな人と?」
「実は湖の一件で会ってたんだ。
その時から目をつけられててな…しかも親父との関わりもあったみたいで…まだ謎も多いけどな。」
「我は…娘っ子、お主の事は評価している。
人間としても…錬金術師としても…お主には資格があるのじゃ。
この…竜之介と同じようにの。」
アリストロメリアがそう言うと…その評価に対して彼女も素直に嬉しさを感じていたようだった。
しかし、親父の事やその資格とやらの事にまだ疑問が残るようで…なんとも言えない複雑な心境の様だった。
「資格がある…それにお義父さんまで…何だか不思議なお話になってきましたね…。」
「ともかくだ…フィオラ、今までの話を踏まえて最後の確認をしたい…いいか?」
「……はい。」
いつになく真剣な表情を浮かべる俺を見て、彼女もどうやら事の重大さと話の重さを理解してくれたらしく、俺の目を真っ直ぐ見て、その綺麗な青色の瞳を輝かせながら俺の言葉を待った。
息を吸い…ふと目を閉じる。
そして決意を奮い立たせ、彼女に、俺自身に言い聞かせるように…その言葉を彼女に言ったのであった。
「フィオラ。
これは君だけの問題じゃない…でも選ぶのは君だし、その権利は選ばれた君にあるんだ。
だから断ってもいい、そうしたら…俺が全部背負うから気にするな。
言うぞフィオラ。
君は賢者に選ばれる資格がある…もしも君がそれを望むなら、俺が君を立派な賢者へと導く、必ずだ。
これはルピカさん、アリストロメリア、そして俺の願いでもあり…ワガママでもある。
フィオラ、世界を変える存在になる覚悟は…賢者として己を磨く覚悟は…あるか…?」
俺の言葉を聞いた彼女は…とても真剣な表情を浮かべながら…ふと目を閉じ…何かを拭い去るような…受け止めるような印象を見せた。
胸に着けたペンダントを握りしめ…彼女は目を開けると、その瞳には決意と夢を見据える確かな希望と信念が見えたのであった。
「元はと言えばお母さんが始まりだったんです…だとしたら、私の夢…賢者の花の事も、それも…私の運命だと信じて受け止めます。
それに……リュウノスケさんの頼みですから♪
私の夢を一緒に追ってくれるって最初に言ってくれたのはリュウノスケさんだから…。」
「フィオラ……。」
「だから私は……リュウノスケさんと一緒に、世界を変えるくらいの大きな夢を!
賢者としての道を進んで見せます!
一人の…憧れの錬金術師の弟子として!」




