達成
「あら、早かったわね…竜之介くん。」
「……はっ!?」
目の前には赤茶色の特徴的な髪の綺麗な女性…そして周りは真っ白な空間。
俺は気付くと、その空間に置かれたテーブルの椅子に座っていた。
女性は手に持ったマグカップから紅茶を啜ると…ふう…と一息付いて俺を見て笑った。
「どうやら…私の宝物は…貴方を選んだみたいよ、竜之介くん。」
「は、はぁ…?」
「あの子が選ばれると思ったけど…残念だわ。
だけど、あの人の大切な子供ですものね、選ばれても…まあおかしくは無いわね。」
「ま、待て待て!何の話だ!?
それにあんた…前にも会ったよな?ここ…何処だよ。」
赤茶色の髪に、ルビーの瞳…そんな目の前の女性は、俺の質問に対して溜め息を付いた。
もう少し冷静になりなさいとか…よく分からない事をくどくど言われ始めてしまった。
俺は何でこんな場所に…それに此処は、前も一度来た気がする。
この女性も、その時に言葉を交わした筈だ。
だが…名前を教えたつもりはない。
何故か俺の名前を知っているのだ…一体何者何だこの人。
と、そこで俺は大事な事を思い出す。
こんな場所で呑気に説教を食らっている場合では無いと言うことを目の前でグチグチ言っている女性に伝える。
「あ、あのさ…俺確かレン達の錬金術を成功させる為に…何かしてた筈なんだけど。
こんな場所で…知らないあんたと話してる暇は…。」
「ん?ああ、あの子達?大丈夫よ?はいこれ。」
「えっ!?はっ!?」
女性は俺のその話を聞くと、まるでわかっていたかの様にすんなり話に割り込み…あるものを俺に渡してきた。
真っ白な水晶…透き通った鏡見たいな印象だ。
それを覗き込むように女性に促され…訳も分からずそれに従う。
すると、その鏡の様な水晶に写し出されたのは…光の中で箱に手をかざし…驚いているレン達の姿。
隣にはフィオラも居て…でも何故か見える彼女達は、時間が止まっているかの様な…いや、まるで写真の様な状態だ。
「驚いた?そこも見てみなさいな?」
更に女性に指を指された場所…光の中心点。
彼女達を包んでいる光の中心を良く目を凝らして見た俺は…とんでもない物を目撃する。
その光の中心で彼等の手を支える一人の少年…その背中姿…それは紛れもなく、俺自身だった。
「これ…どうして俺が…?」
「あっ、これ別に絵とかじゃないわよ、止まってるからそう見えるだけで実際は"動いてる"。」
「はあ!?何それ!?」
「この水晶に写っているのは…『今まさに起きている現実』なのよ。」
この女性はそう言った。
起きている現実…となると、何故止まっているんだ。
それに動いてる…止まってるのか動いてるのか良く分からないが、それにしたって情報が少な過ぎる。
何故そもそもその現実に起こってる事がこの水晶に写っているのか…それにここに写っているのは俺だ。
だとしたら…今ここに居る俺は…誰だ?
「あー深く考えないで、あなたがあなたで居られなくなるわ。
そうね…きっと竜之介くんはこう考えてる…"ここに居るのは誰?そしてここは何処で、何故こんな物を見せられてる"…ってね?」
「なっ…その通り…だが、何故それが…。」
「質問が多いわねぇ…そう言うところあの人そっくり…。」
そう言うと、つまらなさそう…と言うよりは呆れに近い顔で、何処からともなく取り出したカップから紅茶を啜った。
白い部屋…訳の分からない女性…それも俺の事を知っている様だ。
だが、自然と何故かここに居ると落ち着いて…焦りや不安は感じなくなってくる。
もしもここの水晶に見えているのが現実ならば、俺は彼女達の錬金術の成功を見届けなければならない。
そう約束したからだ。
そう考えていると…もの不思議そうに女性が俺の顔をまじまじと見てくる。
しかも至近距離だ…綺麗な女性なので、少しどぎまぎしつつも、不思議と顔を動かすことは出来なかった。
じろじろと見てきた女性は、くすっと笑うと…座っている俺を立たせ…何処かに連れていきたい様だ。
「ふふ…また今度…此処の事も、私の事も教えてあげるわ…取り敢えず付いてきて、竜之介くん。」
「えっ、あっはい…?」
「大丈夫…本当は今度こそ話したかったけど…仕方ないから、直ぐに帰してあげるわ。」
訳も分からず付いていく…ここが何処であれ、今の俺にはこの女性に全てを任せるしかない…そう感じた。
女性に手を握られ、そのまま引っ張られ…ある場所に連れてかれた。
そこには白い空間に佇む…大きな扉。
その扉も白い、僅かな影でその存在感を示しているかの様な…不思議な扉。
すると、女性は俺をその扉に触れさせた。
「さあ、竜之介くん…この扉に触れればあなたは再びあの世界に戻るわ。
時間も再び動きだす…さっきまでと同じよ。
だけど…一つだけあなたは"変わること"があるわ。」
「"変わること"…?」
「そう…あなたは『あの花に選ばれた』わ。
だからあなたはこれから……『賢者』になる。」
「は?『賢者』って何だ…ってうぉっ!?」
そう言うと、女性は扉をグッと押した。
扉は重く開き…中には何も見えない光が溢れていた。
すると、急に風が吹き荒れ…俺は成す統べなくその扉の中へと吸い込まれていった。
その時に何も言葉は出ず、身体も動かない…そんな中で最後に遠ざかる女性は、俺に気になるワードを呟いたのだった。
「あなたは『賢者』…花の本当の力を使えるのは、あなただけよ竜之介くん。
あなたの『夢』のために、あの子の『夢』の為に…それを使ってあげてね。
また会いましょう…あの子を、フィオラをこれからもよろしくね。」
そして、閉まってしまう扉の向こうに消える女性に…手を伸ばして何かを叫ぶ。
何を叫んだのか…俺にも分からなかった。
動かないはず、喋れない筈なのに…そんな感覚が俺を伝って…。
そんな中、光に呑まれる俺の頭の中…その中に浮かんできたのは…レン、ジャック、カイン、クウォーラの四人の記憶…。彼等の経験が…思い出が…流れてくる。
目の前に流れてくる映像…そこには彼等の、俺が知らない彼等の過去だろうか?それがひっきりなしに流れ、そして俺に蓄積されていく。
頭が割れそうだ…目頭が熱くなり、変な浮遊感が身体を襲う。
「あいつらの思い出が…イメージが…流れてくる…。」
心の中でそう言いつつ…その感覚に身を任せる。
一つ一つがしっかりと俺の中に刻まれていく感覚…これは前にも感じたことがある。
そう…この光に包まれて…他人の経験を感じとる感覚…共有、既視感、それはやがて俺の本当の経験のように扱われていく。
紛れもなくこれは…"共鳴"だった。
※※※
はっ!と気付いた時、俺は光の中で温もりを感じた。
ぱっと見ると…そこには四つのそれぞれ異なる温もり…それを俺の手が包んでいる。
朦朧としながらも周りを見渡すと、そこには…その温もりの主達が心配そうな表情を俺に向けて居たのだった。
「リュウノスケさん!!しっかりしてください!何が起こってるんですか!?」
「おい少年!これは…どういうことだ!?
何で少年の…俺の知らない記憶が頭に…。」
「お、俺もだジャック…この少年の…映像みたいなのが頭に直接…それにレン達の知らない事まで…?」
「何だか頭がおかしくなりそうですわ…光が急に広がって…何が起こったんですの?」
その言葉を聞いて、俺ははっきりと意識を取り戻した。
周りの彼等が何やら混乱している様だ、だがその前に…思い出した肝心の状況を整理しなくてはならない。
ふと足元を見ると、先程まで暴走していた筈の錬金箱は…綺麗な青色の光を放っていた。どうやら…暴走は止まったようだ。
それにこの感覚…彼等の先程の言葉…。
俺はそれを確信した途端、笑みが溢れ、歓喜余る様に彼等に声を掛けた。
「お、落ち着けあんた達…成功したんだよ…"共鳴"に!!」
「えっ?"共鳴"って…本当にですか?」
「ああ…そうだあんた達!もしかして俺の記憶やこの中の誰かの記憶が頭に浮かばなかったか!?そうなんだろ!?」
「あ、ああ…何か知らない映像が頭に…。」
「やっぱり…そうか!」
そう聞くと、驚いた様に彼等は激しく頷いた…やっぱりそうだ…成功したんだ。
俺は、"共鳴"と暴走の制止に成功したんだ!
すると、歓喜余っている俺に…後ろから心配そうな声を掛けてきた。
「り、リュウノスケさん!一体何が…大丈夫ですか!?
暴走も止まって…光も収縮を始めました…そろそろ具現化に入らないと!」
「フィオラ…?あ、ああ!そうだな!大丈夫だ!
無事に"共鳴"は成功したみたいだぞフィオラ!」
「ええっ!?」
その言葉に驚く彼女を尻目に…直ぐ様彼等の方を向き直り…最後の仕上げに入る。
暴走を止め…"共鳴"が成功した今なら、具現化までの道のりが分かる筈だ…と彼等に促した。
彼等は驚き、直ぐ様それを『思い出した』事に更にまた驚いていた。
しかし、それは後に取っておくべき事だと理解した彼等は…直ぐに箱へとイメージの念と魔力を飛ばした。
箱は更なる青い光の点滅を始め…次第に周りの散らばっていた光を吸収し始める。
それが沸々と煮えたぎる様に…箱がまるで鍋の様にカタカタと震えだす。
そして、それが収まった時…プシュー…と蓋から蒸気を吐き出した箱は、その綺麗な青色の輝きを失い…何事も無かったかのように静止したのだった。
それを見た彼等と俺は、手を箱の上から離し…まるで鳩が豆鉄砲を食らった様な顔をして、突っ立っていた。
と、そこで、レンがはっとその放心状態から脱出すると…口を開いた。
「……せ、成功……したんですか?」
その声に反応するように、他の三人も、放心状態から解放され…爆発する感情を言葉に出し始めた。
「や…やった!やったぞ!!」
「やったのか…?おいジャック!やったのか!?クウォーラ!?やったのか!?」
「うるさいわね!成功したに決まってるじゃないか!」
「クウォーラさん…口調がキツくなってますぅ…」
「あ、ああ…ごめんなさいねレン…。」
達成感に酔いしれ、子供の様にはしゃぐ彼等を見て…フィオラはほっと胸を撫で下ろしていた。
俺も、フィオラと同じように…最後は大きな事故や失敗に繋がらなかったこと、俺が考えた事が通用したことの嬉しさに、溜め息交じりの笑い声を、震える声で出していたのだった。
とその時、バン!!と急に実験室の扉が勢い良く開いた。
此処に居た全員は「うひぃ!?」とよく分からない悲鳴をあげ…恐る恐るその方を見た…すると。
そこには目をキラキラと輝かせながら、扉の前で立っているエメラルド色の髪の少女が居たのだった。
「おめでとーーー!!良かったー…凄かったよーー!!」
「「ミッシェル!?」」
俺とフィオラは思わず口を揃えてその名前を叫んだ。
レン達は困惑して頭にはてなを浮かべて戸惑っている。
称賛の言葉と共に…この実験室へと急に踏み込んできたのは…ミッシェルだった。




