祝杯
ご閲覧ありがとうございます!
少し短めです…申し訳ない。
「皆さん!出来ましたよ!」
盛り上がる会場内に響く料理長の声…待ってましたと言わんばかりの歓声がその空間を埋め尽くす。
彼がローラーの付いた板で運んできたのは、軽く炙られ、表面はウェルダンに…そして肝心の肉の中はミディアムレアに仕上げられたステーキ。
所々に見える殻の模様から、それがグジラボールだと言うことは分かった。
「メテロン、出来たんだな…ってかそれ肉料理だったのか。」
「ええ!僕も驚きましたが、卵を割ってみると中身はぎっしり詰まった赤身でして…それならばと思い、思いきってステーキにしてみました。」
「へぇ…流石は"神秘の食材"だな…。でも、これで念願叶ったなメテロン!」
「はい!まさか出会ったばかりの貴方に僕の夢を手伝って貰えるとは思いもよりませんでした…本当にありがとうございました。」
「まあまあ、そう畏まるなよ…旅は道連れ世は情けって言うからな。」
「それでも…感謝の気持ちで一杯です…。」
彼はそう言って何度も頭を下げ…俺に感謝の念を表した。
こんな面前で止してくれと、彼の肩を持って前を見るように言った。
彼が頭を上げた先には、待ちわびている『客』の姿だ…となれば、彼がする行動は謝礼ではないだろう。
俺の顔を見て頷くと、綺麗に調理されたグジラボールを切り分けていく。
大きさも充分、香りも食欲を一層そそる程の重圧な肉の香りがする。
それを丁寧に一切れずつ分け、お皿に乗せる。
「はい、リュウノスケさんもどうぞ。」
「おっ、サンキューメテロン!」
そのあとも配り続け、最後の一切れまでお皿に乗せ終わると、それが全てのお客さんに渡ったか確認する。
それも確認すると、最後に料理長自ら最高級のドリンクを手に取る…すると、周りの彼等もそれを手に取り、そして胸の前に掲げた。
どうやら、乾杯をするみたいだ。
俺も見よう見まねで、彼等と同じく胸の前にドリンクを掲げた。
隣にはいつの間にかミッシェルとフィオラが並んでいて、目を会わせるとニコッと笑って頷いた。
そして、メテロンがそれを大きく頭上に掲げて叫んだ。
「大地の恵みと、神秘を得し勇者の活躍に、そして!
この大地に栄光あれ!」
『この大地に栄光あれ!』
──────────────────────
"ニセルウィークト"で行われたパーティーは、大盛況の中幕を閉じた。
それぞれ訪れた客達は、俺達が持ち帰ったグジラボールの料理を幸せそうに口に運び、誰一人不満を漏らすことなく幸ある表情で帰っていった。
会場の片付けを手伝いつつ、俺はその料理の感想をメテロンに話していた。
「ごめんなさいリュウノスケさん、片付けまで手伝って貰っちゃって…。」
「ああ、良いんだ。
お前の料理…どれも旨かったぜ。
グジラボールのステーキも、その肉厚の重厚感を損なう事なく、しっかりと味付けされて…それでいて素材その物の旨味を引き出す味付けだった。
これまで食った料理のどれよりも旨かった…ありがとな。
まあ、片付けはその駄賃だと思ってくれればいいさ。」
そう言うと、彼は申し訳なさそうな顔で苦笑いをしたが、お構い無しに俺は店の後片付けを手伝った。
ランプの明かりを消し、静まり返った店の装飾を取り外す。
パーティー何て何年ぶりだ…と思いつつ、その余韻を噛み締めながら宵闇で作業を進めた。
そして、全て片付け終わった後、身支度を整えてフィオラの家に帰ることに。
因みにフィオラは既にリベルさんと帰宅している。
ミッシェルもパーティーの終わり際にマルテッタさんと挨拶しに来て、直ぐに帰った。
残っているのは俺とメテロンだけと言うことで、細かい後の事はメテロンに任せることにした。
すると、挨拶を交わし、店を出たところで彼が何やら光る物を幾つか手に持って来た。
薄く伸ばされた銀と金のチップ…?
どうやら本物の金属で出来ているみたいだが、それを彼が俺に渡してきたのだった。
「これはこの世界の通貨…話を聞いたのですが、貴方はこの世界の人では無いと聞きました。
僕の勝手なお節介ですが…通貨が無ければ生活は難しいです。
少ないですが…あの食材の採取依頼料として、受け取ってはくれませんか?」
「えっ、本当に良いのか?」
「はい、勿論です。」
そう言うと、彼は半ば強引に俺の手の中にそれを数枚渡した。
好意を無駄にするわけにもいかないので、しっかりとそれを受けとると、頷いて彼に礼を言った。
「ありがとうメテロン。
じゃあ…また今度これでお前の飯を食いに来るぜ!その時は飛びっ切り旨いのをよろしくな!」
「ふふ…本当に面白い人ですね、別世界の人と言うのは皆こんな人ばかりなのでしょうか?
でも…しっかりと承りました、またお越し下さい…リュウノスケさん!」
「おう!またな!」
竜之介はそう言うと、月夜に照らされたその背中を彼に見せながら、颯爽と宵闇の中を歩き…彼を待つ少女の家へと帰っていくのであった。
その輝く後ろ姿は、料理長の少年にとって…正に突然現れた勇者を彷彿とさせる、頼もしい姿に見えたのであった。
「初めてのお金…だな。
働くって感覚じゃ無かったが…何はともあれ貴重な第一収入だ。
今度はフィオラと言ってて結局出来なかった商売でもしてみるかなぁ。ま、売れるかわかんねけどな…。
さて、アイツも待ってるだろうし、帰るか…ふぁー疲れたー!!!」
相も変わらず、この世界に一人飛ばされた彼は、呑気にあくびをしながら…達成感に酔いしれ、己が道を歩く姿勢を崩すことは無かったのだった。
まだこの世界に来て間もない一人の少年は、既に世界の環に順応をしてしまっているのであった。




