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湖を"還す"ために

ご閲覧ありがとうございます!

 余談ですが、水質汚染の問題って複雑なんですよね…水の浄化だけでも難しいと言うのに…。

 それまで獲物を狙って襲いかかってきていた漆黒の群衆は、司令官を失い、東の空へと帰っていった。

 俺が撃ち落とした奴等も、ミッシェルの治療が済み次第続々と太陽の光の元へと逃げ帰った。


 無事に巨鳥を守りきった俺らは、ほっと一息つくと、改めて三人並んで巨鳥の前に立った。


 黄昏の光を背に受けながら、その大きな瞳と目を合わせた。


「大丈夫だったか?悪かったな、色々と…それにしても暗くなっちまったな…ちゃっちゃと済ませるか。」


 俺はポケットからフィオラに作ってもらった『翻訳機』を取り出すと、アンテナを伸ばし、巨鳥へと向けた。

 何だこれはと言わんばかりの表情を浮かべ、興味深そうに見ている。そこで、通じるかは分からないが一応断りを入れておくことに。


「あーすまんな、これはお前さんの心の声を聞くための道具なんだが…もしも俺達に思う事があれば、出来るだけ教えてほしいんだが…ってこれ分かってるかねぇ?」


「どうだろうね?私にも見せて!」


「あっ!私も!」


「だー!こらこら!くっつくな!アンテナがぶれるだろ?」


 フィオラとミッシェルも、ようやくの思いでここまで来たので、どうやら待ち望んでいた様だ。

 何だか色々あったが…未だに"グジラボール"の行方は分かって無い…ここで情報を聞けると良いんだけど…。


 と、三人でくっついて居ると、アンテナが振り子の様に動き出したのを確認した。

 どうやら…巨鳥は心で何か話そうとしてるみたいだ。


 静かにするように指示をし、三人でその翻訳機に耳を傾ける。すると、ハッキリとした声が翻訳機から帰って来た。


『小さな人間達…聞こえていますか?』


「うおっ!?これは!?」


「聞こえましたね!」


 まるで大人しい女の人の声の様に、妙に落ち着いていて、優しい声…驚いた、まさか本当に聞こえるなんて。

 驚いて顔を上げると、巨鳥が俺達に頷いた…どうやら、俺達の言葉は通じていたらしく、その後はスムーズに会話をし始めたのだった。


『食料の譲渡…そしてこの危険からの命守…どうやら貴方達は前に訪れた人間達とは違うようですね。

 先刻はまたあの者達が来たと勘違いをし…襲うような真似をして申し訳ありませんでした。』


 巨鳥…彼女は丁寧な言葉とゆっくりした口調で俺達に謝礼の言葉を並べた。あまりにも冷静かつ優雅な喋り方なので、こちらもどぎまぎして言葉につまりながらも、謝礼を返した。


「あー…その、通じてたんだな。いや、こっちも勝手にテリトリーに入ったのが悪いし…ホントに申し訳ない…。

 前にどんな人間が来たかは分からないけど…どうやら何かあったみたいだな…。」


「でも、誤解が解けて良かったですね!リュウノスケさん!」


 フィオラがニコニコと安堵の声を上げる。

 その笑顔に微笑みが溢れ、自然とこちらも緊張感が解けていく。


 どうやらもう俺達を敵とは見てないみたいだ…それに、かなり話が分かる存在だと感じた。

 もしかしたら予想通りここら辺の話が聞けるかも知れないな。


 ゆっくりと目線を戻し、今度は翻訳機に目を落とすのでは無く、正面のその純粋な黒い瞳を見て話を続けた。


「えっと、あんたはここら辺の管理者…見たいな者なのか?やけに食料源や水源…生物の棲みかに詳しそうだが…?」


『ええ、私はここの湖の"守護者(ガーディアン)"…だったのですが、この通り…そう、貴方のさっき言った通り、そのままの現状が進み、この湖と私の体は…汚れてしまいました。』


一層身体についたその傷を眺め、悔しいと言う雰囲気を感じた。


「やっぱりか…飢餓の原因は水質汚染と生物の減少…しかもそれの元凶は…あんたがさっき言った"あの者達"って訳だな?」


 俺が問いかける様に言うと、彼女は目を閉じ、一滴の涙を溢した。

 これは、相当酷い仕打ちを受けたに違いない…これだけ聡明(そうめい)な彼女が容易(たやす)く涙を流すのは、それだけの事実があったからだろうな。


 傷を(えぐ)る様で申し訳ないとは思いつつも、彼女に俺達が出来ないことが無いかと訪ねることにした。

 実際、俺達も迷惑を掛けてしまっているからな…鳥の群衆や無断捜索何かが彼女のストレスになったに違いない。


 そう考え、俺は再び質問をする。


「すまない、色々と迷惑を掛けたな。

 その謝罪と言っては何だが…俺達に出来ることは無いか?」


 俺がそう訪ねると、首を傾げ…少し不安げに彼女は言った。


『貴方達の出来ること…どれだけの力を持っているかは把握しかねますが…やはりこの湖の水の改善…それにあの忌々しい建築物や桟橋等も撤去出来ないでしょうか?


 建築物や桟橋のほとんどは私が破壊したのですが…どうやらそれも良くなかった見たいで…。』


「成る程…建築等に使った素材に、水に対して有害な物が入ってたって事だな。

 無闇に壊せばそれが流れて…今に至ってしまった訳だ。」


 壊れた桟橋や、銅像の様な物と、ちょっとした置物の破片何かは探索中に確認している。

 もしもそれに有害物があるなら…確かに片付けないとな。


 それに、これだけ汚染が広がっていると言う状況を見ると、湖の底にも溜まっている可能性があるな…それも出来るだけ撤去しないと。


 少し気掛かりだ…もう少し聞いてみよう。


「分かった、ある程度撤去は出来そうだ。

だが…破壊したのはいつぐらいだ?」


『大体日が落ちるのを50回ほど見た前でしょう…かなり前です。』


「日が落ちる…つまり1ヶ月とちょっとか…それはまずいかも知れないな。」


 水底に蓄積した異物や木材…人工物と言うのは、ほんの数日程度で浸水し、馴染む。

 それによって成分の分解が始まる…微生物や水温の変化でな。そうなると、水の底から広がる様にして毒性のある物が水に散らばる…そうなるとお手上げだ。

 もう撤去したところで成分のほとんどは融解し、湖は自然治癒を待たないといけない。それにその回復には程遠い。


 恐らく、このまま撤去しても意味はないし、この巨鳥(かのじょ)が息絶えるのが先になってしまうだろう。


『…どうやら、かなり"賢"のある人間の様ですが…事態は深刻で到底変わることの出来ない現実…と言った所でしょう。』


「おっと…不安を煽らせちまったな。」


 俺が事深く考えていた表情を察し、悲しそうな声でそう語った。

 こちらの力を認めてくれているみたいだが…力になれるのは難しいかも知れない。


 いや、まだ諦めるには早すぎるな…何か…まだ俺達には何か力が残ってる筈だ。



 と、そこで切り出したのはフィオラだった。

 胸に手を当て、勇気を振り絞るような気持ちを全面に出して、困り果てた俺と彼女に向かって言った。


「私の…錬金術の力で何とか出来ないでしょうか?」


 そう震える声で言った。


 確かに…彼女の力なら何とか出来るかも知れない…が懸念もあった。


「錬金術…そうか!確かに錬金術ならまだ希望があるかも知れないな!

 いや…だが、今日は立て続けに錬金術を使わせてしまってるし、正直限界じゃないのか?」


 彼女もかなり疲れている筈だ。

 俺はこれ以上無理はさせたくないと言ったが、彼女は聞かなかった。


「いえ!全然大丈夫です!

錬金術師が錬金術を使えなくては意味がありません!

 それに…鳥さんが苦しんで居るのに、私だけ甘えている訳には行きませんから!」


「フィオラ…。」


 彼女は額に一滴の汗を垂らし、身体に纏ったレザースーツも泥だらけだ。

 傷もついているし、表情にも疲労の色が見える。

 それなのに、何故こんなにも力強い事が言えるのだろうか…俺はそんなフィオラに憧れすら抱きつつあった。


 それに彼女の意見は最もだ。奇跡の力…錬金術ならば、水質を改善する道具や何かも作れるだろう。


「私の錬金術は自然の力を借りて行っています…だから、それを自然に還すのもまた錬金術の使命だと思うのです!」


 腰に手を当て、ふんすと威張るかの様なポーズを見せるフィオラ。

 カッコいい…と言うよりはその容姿のせいで何だか微笑ましい・可愛らしいと言った表現がお似合いだ…でも、そうやって無理にでもカッコつけて励ましてくれているのかも知れない。


 いっちょまえに使命なんて言って…本当に真面目な娘だなフィオラは。


「仕方ない、疲れてるだろうけど…そこまで言うならフィオラには頑張って貰わないとな!

 出来るだけサポートするし、その道具の原案も分からないと思うし俺が考えておく。

それでいいよな?」


「はい!よろしくお願いします!」


『錬金術師…貴女が…。』


「任せてください鳥さん!必ず湖を元に戻します!」


 その小さな身体から感じ取れるエネルギー…決意に満ちた優しい光を、薄々と巨鳥は感じ取っていた。

 何処と無く、懐かしさを覚えるような表情を浮かべ、フィオラの言葉に素直に頷いた。


 と、そこでミッシェルが手を上げてソロソロと出てきた。

 どうしたのか、何だか気まずそうな顔で中腰になっていた。


「あのー…私にも出来ることありませんかー?

何だか盛り上がってて悪いんだけど…置いてかないで欲しいなーって?」


「あー悪い悪い!言わなかったけどミッシェルにも手伝って貰いたいことあるからよろしくな!」


「マジ!?リュウノスケ!

私頑張るよ!なにすれば良い!?」


 ウキウキとした表情で俺に迫る。


 いやしかし…俺は手伝って貰う…とは言ったが、実は何も考えてなかった。


 ちょっと腕を組んで考える。



………。

 そこで、彼女の肩を掴んで、言った。


「ごめん!やっぱねぇわ!」


「えっ!?嘘!?」


「今考えたけどそんなに今考えつかねぇわ!ごめんな!」


「そんなぁー!」


 ヘナヘナと座り込むミッシェル…いやホントにすまないと思っている。

 日本なら働きたい!って言ったら何処でも働けるだろうし、寧ろこんだけ可愛くて動けたら即採用だろう。

 だがしかし、今思う中で彼女に出来そうな事も俺で事足りるので、仕方なかった。


 と、落ち込みながら人差し指をツンツンしあって座り込んでいる彼女に、突然巨鳥の彼女から提案があった。


『もし、そこの小さな女の子…貴女の先程の治癒の光はとてもこの身体に染み込んだ。

 貴女もこの湖を助けてくれると言うのであれば、優しいその光で私以外の傷付いた動物達を癒してほしい。

 私と同じくして傷付いた小さき存在がまだ居るのだ…お願いできますか?』


 と、彼女から提案があった。

 その言葉を聞くや否や、彼女は座り込むのを辞め、すっ飛んで巨鳥に抱きついて目を輝かせた。


「マジ!?やります!私もこの湖大好きだから!放って置けないの!」


『おやおや…元気ですね、では頼みましたよ?』


「はーい!!よーし!みんな元気にしてあげるからねー!!!」



 どうやら、ミッシェルもやるべき事を見つけたようだ。俺も目が行かなかった部分の事だけど…まあ彼女なら大丈夫か。


 こうして、次に行うことが決まった俺達は、即刻準備に取りかかった。

 もう日が沈み掛けている、明日に備えるとして、寝床や準備位は確保し完了させておきたいところだな。


 と、そこで俺は大事な事を聞くことを忘れていた。直ぐに巨鳥へと向き直り、最後の質問をする。


『どうしましたか?』


「実はな、俺達"グジラボール"って物を探してるんだが…知らないか?

 それを探しにここまで来たんだけどさ。」


 と言うと、彼女は冷静に頷いた。

どうやら読み通り知っていたようだ。


『それはですね…守護者たる私が、この湖を守っていた時…荒らされる前、翠色に輝く花の根を纏った…私の"タマゴ"です。まさかそれをお探しとは…。』


「た、タマゴ!?」


 俺はその情報に驚いた。


 良く聞くと、どうやら彼女はここら一帯に長く住み着く鳥、それもその先祖に近い存在らしい。

 原種である彼女の種族名は"グジラス"。


 成る程…"グジラス"の"タマゴ"で"グジラボール"…ボールは玉子の玉だった訳か…とんだ当て付けでネーミングセンスのない直球な名前だな。タマだけに。


 と、下らない駄洒落を考えている暇はない。

 だとすると、それをどうやって入手しようか…。だがその苦悶も、どうやら空振りに済んだようだ。


『もしも湖を元の美しい場所へと還してくれるのであれば、私が以前産み落としたタマゴの場所へと連れていってあげましょう。』


「えっ!?あんたの大事な子供みたいなもんだろ?そんな簡単にあげても良いのかよ!?」


『もう私に生命を宿す力は残ってません。この世界に種を残す役目を終えているのです。

 そのタマゴも、最早その花達の"栄養"として生命を与えています。

 それならば、花達にあげるのも、貴方達にあげるのも…そう変わらない訳です。』


「思いきった理論だな…年を重ねるとそういう考えが出てくるのか…。

 でも、くれるって言うならありがたく貰うことにするぜ、ありがとな。」


 俺はグーサインを見せ、彼女に必ず湖を救って見せると言った。

 隣に居たフィオラも、ミッシェルもお互い頷いて、俺と同じようにぎこちないグーサインを見せたのだった。


 それを見た彼女は、その大きな瞳を閉じ、起こしていた身体を横たわらせると、安心した様にその場で動かなくなってしまった。

 一瞬不安になったが…どうやら少し眠っているみたいだ。ビックリさせるぜ。


 ともあれ、これで道は見えた…人間が犯した自然を、今度は俺達(にんげん)が元に戻す番って訳だ。

 俺達はお互いに意思を確認したあと、各自、湖復元作戦の準備を始めたのだった。


 夕暮れの空、暖かな日差しを背中に受け、輝く湖面に写る…今よりも輝く湖を思い描いて、俺は仕事に取りかかった。



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