東の森
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この話は少しシリアス…かな?
俺達はミッシェルの案内の元、依頼に受けた"グジラボール"を採取するため、東の湖へと向かっていた。
その途中、彼女…ミッシェルが前方に見える森を指差した。
「あれ!彼処の東の森を抜けると早いんだ!
貴重な植物もあるから、フィオラにとっても抜けるのは得策じゃない?」
ミッシェルは目の前に見える深そうな森を抜けようと提案してきた。
確かに、貴重な植物とやらがあるのであれば、通って採取して行ってもいいだろう。
だが…道筋的に早く都合が良いとは言え、どうみても危険そうな雰囲気だ。
俺が心配そうにその森を見ていた時、ふと、ある本の存在を思い出した。
「あっ、ちょっとお前ら、少しだけ待ってくれないか?」
「んー?どうしたの?」
「持ち物を漁って…何か忘れ物ですか?」
「いや違うんだ、探し物でな…えっと、あった!」
俺がリュックを地面に起き、中から取り出したのは…古びた皮の本、裏表紙には名前が書いてある。
龍ヶ谷…竜二郎と。
そう、俺が取り出したのは親父の日記、この世界で親父が書き残した記録だ。
この日記の中に、もしかしたらここら辺周辺の情報を書き記してあるかもしれないと思い、唐突に取り出してみたのだった。
「それ…お義父さんの?」
「そうだ、親父の日記。
確か親父は色んな所に出掛けるのはここに来ても変わらなかったよな?だからもしかしたらそこの森の事とか書いてあるかもって思ってさ。」
「フィオラのおとうさんでリュウノスケの…おやじ?どゆこと?」
「あー…複雑な話になるからそれはまた今度なミッシェル。」
取り敢えず、足を進めながら日記を辿っていく。
どうやら街の方にも足を運び、様々な店に寄っていたとの話もある、マイペースだなぁ…俺も言えた質では無いが…。
と、そこで気になる文面を見つけた。
記録xx日目。
私は近くの草原に佇む森林を調査した。
中には特別特殊な植物や動物がひっそりとその生を育んでいた。近くから発せられる小さな光…どうやらハッコウダケと言うキノコみたいなのだが…それの胞子がホタルの様に光っている、神秘的だ。
これだ、間違いない。
ここからのページはこの森の事を書き記してある。
「おい!この森の事書いてあったぞ!」
「マジ!?リュウノスケのおやじやるじゃん!」
ミッシェルが興味深そうに覗き込んでくる、近すぎて俺が見れないのでグイグイと押さえつつもそれを見ていた。
しかし、ふと気付いたときには既に森の中に足を踏み入れていた。下を向いて本を眺めていたせいか、いつの間にか侵入してしまっていたらしい。
「ミッシェル!森に入ったら言ってくれよ!」
「ゴメンゴメン!フィオラが珍しく走るものだから追いかけるのに必死で!」
「ん?そう言えばフィオラは?」
俺とミッシェルは一旦立ち止まって周りを見渡した。
周りは木々に囲まれ、奇妙な鳴き声やハーブと思われる植物の匂いが立ち込めている。
そして所々発光した粒子がフワフワと浮かんでいる所を見ると、あれはハッコウダケの胞子だと直ぐに分かった。
つまりはこの日記の森で間違いないのだが…フィオラの姿が見当たらない。
「フィオラ!どこに行ったんだ!?」
「おーいフィオラー!はぐれちゃうよー?」
俺とミッシェルで一生懸命叫んだところ、少し進んだ奥から、彼女の声が返って来た。
どうやらまだ近くに居たようだ。
「ごめんなさい!でも直ぐに来てもらえませんかー?珍しい物を見つけたんです!」
そう彼女は声を返した。
何やら珍しい物を見つけたらしいが…それにしても案外こういう時はマイペースなのか。
フィオラってこう言う所が危なっかしく感じると言うか…まあそれも愛嬌なのだろうけど。
フィオラの声を頼りに、その方角へ木々を掻き分けながら進むと、彼女が座り込んで何かを手に持っていた。
「おお見つけた、急に居なくなるなよなー…って何だそりゃ?」
「あれれー?初めて見る植物だね?」
「そうなんです!私の知らない匂いが此方からしたので…つい…。」
そう言えばフィオラは嗅覚に優れていたな…確かにタバコ…とも言えそうな独特な匂いを発している。
その植物は、先端が3つにクルクルと巻かれ、葉っぱは小さな物が点々と付いていた。
根は少なく、多分繊細な植物なのだろう。それから発せられる匂いに、どうやらフィオラが反応してしまったようだ。
「何と言う植物なのでしょうか…カテゴリーや特徴も気になります!」
「うーん…カテゴリー【植物】は確定だろうけど…他にもありそうだよねー?【燃料】とか?」
「【食材】の可能性もありますよね!持って返って調べて見ましょう!」
フィオラとミッシェルがカテゴリーについて熱く語っているのを横目に、俺は親父の日記を覗いていた。
すると、その植物に似た物が日記に記載されており、直ぐに彼女たちに報告した。
「見ろ!親父もどうやらそれを手にしたみたいだぜ!えーと…何々?
"このクルクルとしたゼンマイの様な植物を仮にキテキソウと名付ける"らしい。じゃあコイツは取り敢えずキテキソウと呼ぶことにしようか?」
「良いですね!キテキソウ…面白くて好きです!」
「他には無いのー?特徴とかー?」
ミッシェルに促されるまま、親父の日記の続きを読む。
すると、特徴らしきものも書いてあった…親父の日記…持ってきて良かったな。
そのページの最初から、彼女達に読み聞かせる。
「えっとだな…キテキソウはクルクルした部分を押すと、茎の部分から空気を出して…まるで汽笛の様な音を出す。その音から名前をつけてみた…だとさ!」
俺が言った通り、フィオラはそのクルクルした花弁と思われる先端をグッと押した。
すると、ポッポー!っと本当に汽笛に似た音を出し始めた。
成る程面白いと、ミッシェルも一緒に音を鳴らし続けている。正直そのレベルはうるさいがまあ良いだろう。
と、どうやら続きがあるみたいだ、一応読んでおくか。
「続きがあるな…どれどれ?
"ただし、その音を鳴らし続けると…この森に住んでいると思われる小さな鳥達が襲ってくるので注意…"。
襲ってくる…鳥?」
フィオラ達は聞いていなかったのか、まだその汽笛を鳴らして遊んでいる、まるで子供だ。
それは非常に微笑ましい事この上無いのだが…それよりその音が問題なのだ。
鳥が襲ってくるって書いてある…とするとヤバいかも知れない。
「あのーお二人さん?聞いてました?」
「「何がー?」」
「いや聞けよ!それここで鳴らしてると鳥が襲ってくるって…!」
俺がそこまで言った時だった。
それまで静かだった森は唐突にざわめきだし、小動物の鳴き声が充満する。
やっと異変に気付いたのか、フィオラ達も何だ何だ?と立ち上がって周囲を見渡す。
薄暗く、太陽の光は木の葉の隙間から差し込む程度…以外に暗い。
昼間だと言うのに、空は真っ黒に見える、雲でも出たか?
そこまで考えた俺は、それに気付いた。
「二人とも見ろ!上だ!」
一斉に空を見上げた俺達が見たのは、周辺を覆い尽くすほどの小さな黒い鳥…その群衆が俺達を木々の上から覗いていたのだった。
そして、その一匹が甲高いモスキート音に似た鳴き声を発した。
それに反応してか、他の小鳥達も共鳴し…次第にそれは範囲を広げていった。
流石にこの状況に危機を感じた俺は、即座に二人の手を掴み、走り出した。
「逃げるぞ!フィオラ!ミッシェル!」
「あわわわわ!!」
「ヤバイよこれ!!」
俺達が察して走り出したと同時に、その黒い鳥の群衆は、一斉に翼をはためかせ…俺達三人に襲いかかってきたのだった。
「ピギィィーー!!」
「ギャーー!!メッチャクチャ追っかけて来てるー!!」
「つべこべ言わずに走れミッシェル!捕まったらどんな目に合うか分からないぞ!」
その黒い塊に怯えながら、俺達はひたすら走り続けた。
時に木々の隙間を抜けたり、大きな岩の角を利用して死角から曲がってみたりしたものの、直ぐに見つかり、追われ続けた。
クソッ…こんな事なら最初から全部確認しておけば良かったぜ。
注意散漫なのは俺の落ち度だ、コイツらの保護者として居る以上はこの状況を何とかしないと…。
考えながら走っていると、右手を掴んでいたフィオラがふと地面の凹凸に足を取られ、転倒してしまった。
「フィオラ!大丈夫か!?」
「いたた…大丈夫です!…あっ!鳥達が!」
転んだフィオラに目を付けたのか、鳥達がフィオラ目掛けて一斉に飛びかかってきた。
それを見た俺は、咄嗟にフィオラを庇うように目の前に立った。
しかし、鳥達の勢いは止まらない。
混乱とも見えるその表情…鳥達はもしかしてあの音で混乱していたのか?
確かにあの大きな音と特徴的な周波数…もしかしたらこの鳥達に何か影響を与えてしまったのかも知れない。
それで正気を失っているとしたら…もしかすると…!
俺は、そう考えた時には既に腰のベルトに掛けたあれを掴んでいた。
「リュウノスケ!?それは!?」
「一か八かだ!ミッシェル!耳を塞げ!それにフィオラもだ!もう聞きたくないだろ?」
「あっ!そう言うことですか!分かりました!」
俺の指示通り、二人は自分の耳を防いだ。
それはこの俺が構えている道具…そう、銃の音を出来るだけ聞かないようにするためだ。
さっき出るときは暴発して諸に聞いてしまったが、俺がチビっちまう位音がデカイ…だからだ。
弾丸は当てなくていい、せめてこの音をコイツら鳥達に聞かせればあるいは…その衝撃で正気を取り戻すかもしれない。
天高くそれを構え、セーフティを外す。装填数は10…撃つのは…念を押して3発だ。
そして俺は引き金に指を当て…力を込めた。
「SS…頼んだぜ!効いてくれ!!」
俺は思い切り引き金を、森の空に向かって引いた。
銃口から火が吹き出し…バァンッッ!と大きな銃声が森に響いた。
目を瞑り、反動が肩を伝う感触を感じながら再度撃つ…また大きな銃声が鳴る、肩を反動が伝う…そして最後、3発目の弾丸を放つ。
先程よりも音が小さく聞こえた、しかし問題ない…それは銃声が俺の耳を少し揺さぶっているせいだ、問題はない。
最後の一発を放ち、肩に掛かった衝撃を深く息をついて和らげ…深呼吸をする。
どうやらフィオラ達も目を瞑って居たらしく、俺達は同時に目を開けた。
するとどうだろうか、先程まで目の前に迫っていた黒い鳥達が、遥か上空に向かって逃げ仰せる姿が木々の隙間から見えた。
俺はそれを見て、緊張が解れるのを感じ、腰を地面に降ろした。
手が震える…無理もない、下手をするとどうなっていたか分からなかったからな。
…異世界はどんな危険が迫るのか分からない、今回でその事が良く分かった…心に刻んでおくとしよう。
「た、助かったのぉ?」
「危なかったですぅ…。」
二人もへなへなと腰を砕いて背中合わせにだらしなく座り込んだ。
それを見ながら俺は安堵し、自然に微笑みが溢れていた。
「危なかったな、全く…作っといて良かったぜこの銃。」
俺がSSのセーフティをロックし、メンテナンスをしていると、四つん這いでよろけながら、フィオラが俺の前に近付いてきた。
すると、そのまま正座して頭を下げた。
「ごめんなさい!私が無闇に触ったりするから…もしもリュウノスケさんが居なかったら…私…。」
どうやら彼女もしっかりと今回の原因について反省しているようだ。
それに伴って、ミッシェルも同じく頭を下げて俺に謝っていた。
「ごめんねリュウノスケ!私ももうちょっと気にするべきだったね!これじゃ何でも屋失格だよぉ…とほほ…。」
大分落ち込んでいる様だ…でも、自分の過ちを直ぐに認めることの出来る人間は少ない。
そう思うと、彼女達を責める理由なんてもう何処にも無かった。
それに…俺にも落ち度はあった、彼女達だけの問題じゃないからな。
俺は二人の頭をそっと撫で、頭をあげてと優しく言った。
「確かに、一人で走ったフィオラも、それにつられたミッシェルも多少は悪いな。
でも…俺も悪かった、もう少し早く言ってればな…それに、もう終わったことだし。
あまり気に咎めるなよ?今からもっと危ない所に行くんだ…ここでくよくよしてたら依頼は出来ないぜ?」
「リュウノスケ…。」
「リュウノスケさん…。」
ジーパンについた土を払いながら立ち、リュックを背負い直す。
このままだと彼女達も可哀想だ…そう思った俺はある期間を設けることに…そして振り向いた俺は、座り込む彼女達に笑顔で言った。
「あと…別に採取しちゃいけないって訳じゃないからな、今から親父の日記からある程度分かりそうな情報は抜いておくから…注意するんだぞ?」
その言葉に目をぱちくりしながらフィオラとミッシェルは目を会わせて驚いていた。
「えっ!?いいんですか!?」
「当たり前だ、その為にここに来たんだろ?
あのキテキソウ一本じゃ物足りないだろうしな…少ししたらまた出発するから、それまで自由に採取でもするか!」
相当嬉しかったのか、一気に立ち上がった彼女達は二人手を組んでぴょんぴょんとその場で笑いながら跳び跳ねていた。
「マジ!?やったねフィオラ!」
「うん!やったねミッシェル!…じゃあ採取行ってきます!」
と、また急に動き出すので流石に止める。
やはり俺も一緒に居ないと不安だからな、念のために同行することにした。
「待て待て、俺もついていくから…ここからは団体行動だからな?」
「あっ…はい…すいません…。」
気を取り直した俺達は、今度こそ三人揃って、お互いに周囲を確認したり、細心の注意を払いながらも採取に勤しんだ。
新しい植物や、貴重な物を見つける度…フィオラもミッシェルも目を輝かせて笑顔を浮かべていた。
ふっ…これじゃまるで本当に保護者だ。やっぱり…まだまだ二人とも子供って事なんだろうな。
二人の笑顔を眺めながら、俺は手に持った親父の日記を強く握る。
親父の日記が役に立つなんてな…もしかしたら、親父もこんな時のために日記をつけてた…何てな、そんな訳無いか。
「リュウノスケさん!見てください!また面白いものがありましたよ!」
フィオラが思い更ける俺の名前を呼んだ、また何か見つけたようだ。
俺はそっと日記をリュックにしまい、今この時間に集中すべく、考えをリセットしてフィオラの元へと向かった。
「おう!また無闇に触るなよ!?」
「うわぁ!?何か煙が出てきました!」
「触るなって言っただろぉ!?まったく…今行くぞー。」
保護者も楽じゃないな…全く。
でも…そんな感覚を感じつつも俺を突き動かすのはまた別の物。
俺も…まだ子供の心を忘れては居なかったりするもんだ。
「ぶわぁ!?なんじゃこの煙は…ゴホッ!ゴホッ!何事だ!?」
「ごめーん!また靴起動しちゃってー、それがこの植物に当たったみたーい!ごめんね?」
「またお前か小娘ぇ!!」
保護者と言いつつも、何だかんだ二人に混ざって楽しく…まるで子供の様に初めて見る物を目の前にして、童心ではしゃいでしまっている竜之介であった。




