一人の少女
▼おお勇者よ!ページを進むとは何と素晴らしい!
▼此方はとある少女サイドの話となりますご注意くださいまし。
「ふぅ…」
それまで持っていた大量の本を床に置き、額の汗を拭いながら少女は一息ついた。
少女の名前はフィオラ・ビスマルク。
年齢は17歳で、趣味は植物観察と研究なのです。
今少女は、母と父の私室を掃除も兼ねて荷物などの整頓をしている模様。
一息付いた少女は手を腰に当てて周りを見ながら立っていた。
「よし! 大分綺麗になったね!」
ここはある少し大きな敷地の家、私の両親が暮らしてた家です。
最愛の母と父は…思い出したくないのですが、不幸によって亡くなってしまいました。
そんな母から貰った形見のペンダントを首につけながら、今は母や父の私物を整理している所です。
すると、トントンと扉を叩く音が…私の居る部屋に誰か来たようです。
「お嬢様ー、ちゃんとやってますかー?」
「リベルさん! ちゃんとやってますよー! 少し休憩しているのですー!」
「まあ! かなり片付きましたね! 流石ですお嬢様!」
扉を開けるなり私を優しく褒めて下さるこの女の人はリベルさん。
お歳は40、両親の代わりに私をずっと面倒見てくれている方なのです!
「お嬢様、片付けが終わりましたらお菓子を用意して居ますので、食事場へとお越しくださいね。」
「ありがとうリベルさん! もしかして…スワンスクッキーかしら?」
「あら! 良くお分かりで!」
何を隠そう私には、花や動物、調味料と言った物の類いの匂いを当てるのが得意なのです。
…ちょっと…女の子にははしたないかも知れませんが…
「ではお嬢様、待ってますよ?」
「直ぐ行きますね!」
そう言うと、リベルさんは丁寧なお辞儀をして食事場へと戻っていった、楽しみだなぁ…
お腹もそろそろ空いてきたし…さっさと終わらせてしまいましょう!
私はその後黙々と本や荷物を整理し、完璧に隅々まで整頓し直した。
我ながらぱーふぇくと…おっと、母の口癖がつい…
と、ピカピカになった部屋を一望した後、約束通りリベルさんの元へ向かおうと扉に手を掛けた時でした。
パタン。
後ろで何かが落ちる音がしました。
完璧に揃えて隙間は無かったと思うのですが…おかしいですね…
気になって、ソロソロとその音の方へ向かうと、本棚の影になっている部分に、一冊の本が挟まっていました。
「これ…初めて見る本だ…何処にあったんだろう…?」
表紙には綺麗な宝石の付いた古い本。
中を開くと見た目に反して白紙…何なのでしょうか?
ペラペラと捲るも全て白紙…母の私物だとしたら何か特別な物? …良く分からないので閉じようとしたところで気付きました。
「最後のページだけ何か書いてある…?」
気になって、一瞬見えた文字を辿ってページを開く。
その最後のページにはたった一文だけ、奇妙な言葉が書かれていた。
たった一文だけ…その言葉は私の何かを刺激して…
そして…私はその言葉を不思議に感じて…声に出してそれを読んだ。
「"我が道に標をもたらす最愛の相棒よ来たれ"」
沈黙。
その中に一粒の小さな音が聞こえた…プツン…と。
私の耳のそばで…何か糸のような物が切れる音がした。
直ぐにそちらに振り返って見たのだけど…そこには母の机しか無かった。
不思議に思い、再び目の前の本に視線を向けたときでした。
「きゃっ!?何!?」
その本から急に光が溢れだし、独りでに浮かび始めたのです。
荒れ狂う暴風は部屋中の本や道具など、小さいものから大きいものまで渦を作るように巻き上がり、その中央には先ほどの本が。
何が起こっているのか分からず、私はその場に座り込んでしまいましたが、その光と風は止まる事無く溢れ続けている。
「ペンダントが…?」
良く見ると、母の形見のペンダントが光に反応している。
暫くして、本が急にペラペラとページを最初まで戻し始め…最初のページへと到達した時でした。
風は急に止み、そのあと一層目映い光を発し、おもわず目を覆いました。
「眩しい…!」
その光は程無くして無くなり、パタンと再び本が落ちる音が。
…終わった?
私は恐る恐る目を開け、覆っていた手を退かす。
そこには…一人の少年が惚けた顔で私を見つめていた。