見せたい記録と苦い思い出
閲覧ありがとうございます。
少しお話が暗くなりますがご了承下さいまし!
フィオラに呼ばれた俺は、食事場に置いてあった俺のリュックを肩に掛け、早速彼女の部屋へと向かうことにした。
昨夜の事もあり、初めて入るわけではないが、昨日と違ってフィオラは起きているし、部屋は明るいはずだ。
そう考えると、思春期真っ只中の女子の部屋に入ると言うのは些か気が引けるものだ。
だが俺もそんな事に考えを割くほどの年では無くなったので、そのままフィオラの自室へと扉を開け、踏み込んだ。
「ふふ、リュウノスケさん、ようこそ私の部屋へ!」
俺が足を踏み入れた瞬間フィオラはまるでテーマパークのキャストの様に部屋を紹介した。
どうしてそんなに自慢気なのかは分からないが、それは置いといて…昨夜は良く見えなかったが、とても中は綺麗できっちり整頓されている。
両隣の本棚には、背表紙だけでも興味を引くタイトルの本が幾つか見える。
部屋の角にはテーブルや実験道具だろうか、様々な備品が備え付けられ、その道具ひとつひとつはしっかりと整備されている。
上を良く見ると天井には天窓何かも付いていて、心地良い日差しが入ってきている。
そして勿論、彼女の大好きな多種類の花を各所に散りばめながら育成している様子だった。
女の子の部屋…と言うと可愛いげが少ないようだが、それでも彼女と言う魅力を伝えるには充分な雰囲気だった。
「ここがフィオラの部屋か…見たことのない本や花ばっかりだな。」
「良い香りがするんですよ!この子達全員違う香りを持っているんです!」
「へぇ、どれどれ…ふむふむ…?
あれおかしいな…どれも良い香りだが…特別違うって訳でも無いような…?」
紫色と赤色、その後にオレンジの花を少し嗅ぐって見るものの、色の違いだけで香りは同じように感じた。
しかし彼女が嘘を言うわけでもない…何か彼女は花の違いや匂いを掻き分ける事でも出来るのだろうか?
「もしかしてフィオラって匂いが敏感に分かるとか、そんな犬みたいな事が出来るとか…?」
「あれ!?何で分かったんですか!?
そうなんです!私は素材や花、動植物に至るまでの匂いを正確に調べて感じることが出来るんです!良くわかりましたね!」
「何それ完全に犬じゃあないか!フィオラはワンコだった…?」
一瞬チワワの様なコスプレをした彼女を妄想してしまった。
いやまて、案外行ける…寧ろ絶対可愛いんじゃあ無いのか…って何考えてるんだ俺は。
「そうだ!リュウノスケさんの匂いってどんな匂いがするのでしょうか?もしかしたら何かの植物の匂いがして!」
「おいおい…俺はそんな良い匂い何かしねぇぞ。
まあ植物だったらそこら辺の土臭い雑草レベルの匂いだと思うけどな。
あ、土臭いじゃなくて下はイカ…ってフィオラマジでやってるのかよ!」
「スンスン…何だか…懐かしいような匂いがしますね!」
途中挟もうとしたブラックジョークを見事にスルーされた俺は、何だか悲しみとも言える感情に襲われつつ、目の前で何故か匂いを確かめる無垢な少女を見つめていた。
あ、ジョークだけど下はジョーカー…ってやかましいわ。
下ネタしか思いつかない自分の悲しさに拍車を掛けつつ、いつまで匂いを確かめるのか気になったので取り敢えず制止することにした。
「なあフィオラ、俺の匂いより何か見せたいものとか、用とかあったんじゃないのか?」
「むー?あ!そうでしたそうでした…えへへ…。
実は見てほしい記録があるんですよ!」
「記録?」
すると彼女は一冊の古びた分厚い本を取り出した。
表紙は何処かで見たような幾何学的な文字で書かれている。
「これ…文字か?
俺の世界とは全然違うな…何て読むんだ?」
「これですか?この文字は源の言葉で"原初録"って読むんですよ?」
「これがあの言ってた源の言葉か。発音は同じでも全然形も似てないな…これは覚えるのに時間が掛かりそうだ…。
で、とにかくその原初録って奴には何の記録があるんだ?」
彼女はペラペラとページを適当に捲って見せた。
そこには源の言葉で何やら物の作る材料や行程を記録している様だった。
しかし、例えばこの木材なのだが…見た目はただの倒木の様に見えるのだが、それを作るのに苗を植える訳でも拾うわけでも無く、横には延べ棒と思われる金属や水、そして動物の革何かも集中線の様に当てられている。
文字を読むことは出来ないが、つまりこの素材を何かしらすると、この倒木みたいなのが作れる…と言うことだろうか。
そんな事が可能なのは…やはりあれの本らしい。
「これ…もしかして錬金術の本なのか?」
「まあ!文字は読めなくてもお分かり頂けるなんて!リュウノスケさん凄いですね!」
「すげぇな…本当に全く別の物から様々な物へと姿を変えることが出来るのか…遺伝子操作とか何て比じゃないレベルの技術の文明だぞこれは…。」
きっと文字が読めればより深くその行程を知ることが出来るのだろう。
俺には錬金術は無理だと思うが、とても興味深い事には変わらない。
そしてフィオラはその本をひたすら捲り、最後の辺り、一ページだけ角の折られたページを開いた。
そこには一輪の花が描かれていた。
「これですリュウノスケさん!」
「これ…花か?不思議な形をしてるね、まるで三日月見たいに花びらがついてるな。
これが見せたかったもの…なのか?」
「はい!これはお母さんがやっとの事で作り出した神話のお花…らしいんですよ!
この…私のペンダントにもそのお花が入っています…綺麗ですよね?」
「ってフィオラのお母さんも錬金術師だったのか!?だからフィオラは錬金術が…へぇ…。」
「うふふ…もっと早く言っておけば良かったですね♪」
道理で彼女がそんな道具を持っているわけだ。
その母親も錬金術師だと言うのならあの箱やこの血筋だろうか…それも何となく納得が行く。
それにしても良く見ると、彼女のペンダントには確かに宝石の中にその花が埋め込まれていた。
妖しくもきらびやかな太陽の光の反射を受けて、青い宝石を通じて綺麗な光を俺に見せてくれる。
何だか見ているだけで神秘的な気分になる、暖かさや冷たさ…感情とか形容しがたい感覚、そんな物まで一気に感じるような不思議な花だった。
「これは賢者の花…と言って、お母さんが作り上げた後、大切に育てた物なんです…何でも神の御加護が得られるとか何とか…。
難しい話は分からないのですが、この花凄く綺麗で、ペンダントにする前は良く見せてもらっていたんですよ!」
「成る程なぁ…それで、フィオラはその花をどうしたいんだ?
まさかとは思うんだが…。」
「そのまさかです…私、いつかこの花を作りたいんです!あの時の様に、もう一度…。
このお花を咲かせてあげたい…!」
その言葉を綴る彼女は、それまでとは逆に、なんだか憂いや哀しみと言った、深い古傷を眺めるような表情を見せた。
「……何か理由があるんだな?フィオラ。」
そこで言葉に感付いた俺はそう彼女に言った。
こくんと頷く彼女、やはり深い事情があるようだ。
ペンダントにする前は…と言うことは、何かしらの理由で、ペンダントにせざるを得なかった…と言う事になるのではないか?
それならば話したくない彼女の両親の過去に、その花がもしかしたら関係しているのかも知れないな…。
俺は思いきって、この際隠し事なしで彼女の両親に何があったのか、その花が関係あるのでは無いかと踏み込んだ。
彼女は少し悩んだが、俺も洗いざらい過去を話したこともあってか、隠すのも意味はないと悟った彼女は、そっと悲しい顔で本に記録されたその花を、そして胸のペンダントを優しく撫で、握りしめた後に…ゆっくりと口を開き、俺に話をしてくれた。
天窓から降りる光は、そんな彼女を照らすように温かく差し込んでいた。
「私の両親は…様々な出来事の末に…居なくなってしまいました…。」




