二人の夢は過去を背負って
閲覧ありがとうございます。
少女の過去話になります、少し重いのですが…ご了承下さいまし。
「私の本当のお父さんは私が生まれる前に、どうやら不幸な出来事で亡くなってしまっていたのですが…代わりにお母さんがずっと私の面倒を見てくれていました…」
少女が辛辣な表情で、俺に過去の事を話し始めた。
少々此方としても罪悪感はあるが、彼女を深く理解するためにはこうして打ち明けてもらう他ないと考えた。
だから…辛い過去でもそれを俺は受け止めなくちゃいけないし、彼女も俺にぶつけてくれるなら本望。
俺はただ黙って彼女の苦い思い出に聞き入る。
「お母さんはとっても優しかったんですよ?私に錬金術を教えてくれて…お花や植物、動物の事を見せたり聞かせたり、触らせたり…私の興味全てをその胸に受け止めてくれてました。
ある日、私が2つの歳でしょうか…それぐらいの寒い時期でした。
あのリベルさんがお手伝いさんとしてここに来ました。
リベルさんもずっと私のワガママを聞いてくれて…今もそうだけど、リベルさんに頼りっきりだったの。
お母さんはいつも錬金術の記録を作るときは、私をリベルさんに預けて遺跡や町、様々な素材採取所に出掛けていました。
数日帰って来ないけど…それでも帰ってきたらお土産話や素材を見せてくれたり…嬉しかった。」
リベルさんってそんな昔から居たんだな…道理でフィオラが信頼を置いてるわけだ。
そして…やはりこの世界には錬金術のそれ相応の素材を入手するための場所が存在しているらしい。
でも、だとしたらそれは貴重な物だ。
危険な場所もあるだろう…もしかしてそれで起きた不慮な事故のせいで…とか?
いや、そこまでタフな人がそんなに容易く事故に巻き込まれる訳では無さそうだ…。
俺は真剣に頷いて再度思慮を巡らせながら話に集中する。
「その時からでしょうか?お母さんが賢者の花を見せてくれたのは…毎日私にそれを見せてくれたんです。
私が産まれる前から咲いていたんですよ?」
「へぇ…そんな時からずっと咲いてたのか…」
良く聞くとどうやら賢者の花は彼女の母が若い頃に生み出した物で、それをずっと育てていたらしい。
何でも、凄く貴重な素材が集まって、それを元に作り出したとか何とか…。
そして彼女は再び別の話を始める。
「そんな時なんですが、ある日とある客人の男の人が来たんです、格好は…見たことのない姿で、酷く衰弱していました。
お母さんもその人を急いで介抱して…その人はお母さんと同じで遺跡調査等を行う人だったみたいなのですが…何処から現れたのか分かりませんでした。
次第にその人はお母さんと話が合ったり、悪い人では無かったので賢者の花の話何かもしてました。
何だか不思議な話をする内に仲良くなって…私とも遊んでくれたり世話をしてくれたりして居ました。
そうしたら…その人は父親の居ない私の為に、二人目の父親として…ここに住んで義理の父親として私の事を愛してくれたんですよ?」
「へぇ!じゃあその人が暫く居ない父親の代わりにフィオラを面倒見てくれてた訳か。」
「ですです!とっても優しくて…時々何かを思い出すように空を見たり…本を真剣に見てたり、かと思ったらふらふらと何処かに行って夜暗くなる時に帰ってきたりと不思議な人だったけど…私にとっては立派なお父さん…だったんです。」
空見たり本見たり出掛けたり…確かに不思議な人そうだ。
しかし…なーんか突っ掛かるんだよな、こう…そう言う不思議な所。
俺の親父もそんなんだったなー…そう言うところは共通点なのかも知れないと考えると、俺がフィオラと会ったのもやはり縁かも知れないな。
「それで…だった…と言うことは、やっぱり何かあったのか?」
その俺が気になった言葉を、少し意地悪だが強調して質問する。
フィオラは迷い無く、こくんと深く頷いた。
「リュウノスケさん、先程のお話に戻りますけど…この…賢者の花。
私のペンダントになる前は咲いていた…育てていた事…そう言いましたよね?
そう…それがお母さんとお義父さんを私が失うきっかけになってしまったんです…。
あれは…10年前…私が7つの夜…町に出掛けたお義父さんが帰って来た時でした。」
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時は遡ること10年前。
一人の少女フィオラが出会った不幸の話。
夜の事だ、深い闇に月夜が照らすいつもの夜。
玄関の大扉を思い切り音を立てて、彼女の父親は駆け込んできた。
町に出掛けていた筈の父親が、そんな血相を変えて戻ってきたのだった。
その音に驚いたフィオラの母が、駆け寄り話を聞く。
「あなた!どうしたの!?そんなに急いで…」
「ルピカ!賢者の花は何処にある!?」
「え…賢者の花はフラワーガーデンに…それがどうしたのよ?」
「あれの情報を知った街……が…そいつを狙ってる!」
ルピカ、それは彼女の母の名前だ。
そんな母の名前を緊迫して呼ぶ男はフィオラの義父。
その時良く聞き取れなかったが、どうやら何者かが賢者の花を狙っているとの事だった。
賢者の花…それは神の叡知。
フィオラの母が生み出したその花は、人間の想像を超えるほどの存在だった。
朝露で滴る雫を一滴飲めば…体の傷は塞がり、病は綺麗さっぱり消え去る。
その香りを嗅げば、不安や緊張感等は解れ、その者に安らぎを与える。
そして…その花びらを取り込めば…その者は人成らざる存在…神にすらなれると噂されていた。
そんな花を手にいれようと何人もの人間が押し掛けた時もあったが、そう易々と錬金術の賜物を渡す筈もなかったので、それを気に入らない商人などが良く悪巧みをしていたそうだ。
しかし、フィオラの母親は錬金術師…そんな悪巧みも通用しなかった。
そんな中での出来事だ、何者か…強い誰かがそれを狙いに来たのだった。
「…お母さん?」
「フィオラ!!奥の部屋に隠れてなさい!
リベルも一緒に、出来るだけ見つからない様に!」
「分かりました母上様!さあお嬢様…こちらへ!」
「お母さん?お義父さん?何処に行くの?」
小さいフィオラが不安げな声を上げる。
そんな彼女を見てか、彼女の母はあることを思い付いた。
少し待っててとフィオラを待たせると、直ぐにある花を一輪…彼女の前に持ち出した。
青白く、蒼白なその三日月の形をした特徴的な花…賢者の花だった。
その後、母が取り出したのは小さな青いラインの入った箱、そう、錬金術の小箱だ。
そして…母はその賢者の花と宝石を一緒にその箱に入れ…錬金術を施したのだった。
「渡すくらいなら…」
そして、とてつもない輝きを放ったその小箱から母が取り出したのは、今の彼女がつけているあのペンダントだった。
それを優しくフィオラの首に掛け、優しい笑顔で微笑み…言った。
「フィオラ…この小箱もあげる。
大事に使うのよ?それと…私の物は全部フィオラにあげるわ。
あなたは私の大切な愛娘…私の血を引く誇り高き錬金術師なの。
だから…いつか…もう一度その花を咲かせてご覧なさい?
フィオラなら…きっと出来るわ…。」
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そして再び時は戻る。
彼女の母が残したその言葉の後、母と父を見たものは居なかった。
「…お母さんもお義父さんも…帰ってこなかった。
私はリベルさんと隠れていたから分からないけど…多分連れてかれてしまったのかも知れないです…。」
胸のペンダントに触れながら、今にも泣きそうな表情を見せる彼女は、震える声でそう言った。
きっと彼女が最後に見たのは…その母親の後ろ姿、外へと駆ける母とその義父の姿なのだろう。
「叡知を求めた賊の仕業か…それとも…。
何れにせよ、辛かったな…フィオラ。」
「はい…でも!私はそれを乗り越えて今に至ってます。
だからこそ…お母さんのその最後の願いを…
賢者の花をもう一度…咲かせたいんです。」
彼女の母が残した願い。
それが賢者の花の記録を俺に見せた本当の目的…。
重いようで、それでも何処か彼女の力を信じた強い信念だろうか…そんな気持ちを彼女の母親の話から感じた。
態々ペンダントにしてまでそれをフィオラに託した理由も気になるが…それは今となっては分からないだろう。
だけど、この話を聞いて分かったことは…ある。
苦しい思い出から逃げずに、自分の道を信じて進む彼女を…俺は支えたいと思った。
神の域に達する程の物を作る…何てゾクゾクする話だ。
不謹慎だが、俺はこの話で武者震いを起こすはめになるとは思いもよらなかった。
そんな過去から逃げずに母の背中を追う彼女を…俺は見届けたい。
「フィオラ。」
「はい?何でしょうかリュウノスケさん?」
少し溢れた涙を拭い、明るい表情を俺に見せるフィオラ。
そんな彼女と、胸のペンダントを見て…俺は言った。
「辛かっただろう…でも、その過去から逃げずに母親の思いを…背中を追う姿。何だか親父の背中を追う俺と似てるな。」
「…リュウノスケさんと…ですか?」
「ああ。
そんなフィオラがここまで打ち明けてくれたんだ…気に入ったぜ!!」
俺はおもむろに机に置かれたその記録を手に取り、ページを開いて彼女に開いて見せた。
そして俺の出来る最高の笑顔と決意で、彼女に言った。
「フィオラ!!俺も手伝うからさ、コツコツと錬金術を知って…いつかこの花を…賢者の花を、咲かしてやろうぜ!フィオラの為にも…母親の為にも…な!!」
「……!!!
リュウノスケさん…良いんですか!?」
「ああ!一緒に…見届けようぜ、錬金術の力って奴をよ!」
「…っはい!絶対にお母さんに追い付いて見せます!」
こうして過去を知った俺はフィオラと厚い握手を交わし、お互いの決意を分かち合った。
苦い過去を背負う者同士、最後に得るものは拭い去る希望。
若い二人の青年と少女の大きな夢は、ここから始まったのだった。
「こんなでっかい夢を見てたんだろうか?いや…そうだよな。だって俺が見た背中はそんな背中だったもんな…。
なあ…親父。」




