夢で夢を見る
──俺は…真っ暗な道を歩いていた。
何もない、冷たい空気だけが吹く真っ暗な道だ。
周りからは笑い声や心配しているような声が聞こえる、しかし、俺の目には映らない。
その声は愉快な様で、それでいて俺には不愉快だった。
そう言えば…こんな笑い声こんな同情の声を、俺は小さい頃に良く聞いていたな。
街を歩けば笑われるのだ、目につけば同情されるのだ、こんな風に。
理由は分かっていた。
親父のせいだと、そう分かっていた。
今時考古学なんて…それに宛もない旅を続けては失敗を繰り返した。
母さんもほったらかしにして何処かに消える毎日だ。
それでも母さんは親父を信じて…と俺に言い続けた、その結果がこれだ。
だが、俺はそれを悪かった等とは一度も思うことなどなかった。
夢の見すぎ、それが叶わぬ夢だと分かっていても追い続けた結果…親父はそのまま夢の果てに消えてしまった。
信じていた母さんは帰ってこない親父を思い悩み、病を患って死んでしまった。
母さんを失っても尚帰ってこない親父は…いったい何処に居るのだろうか。
まだ旅をしているのか、それとも…もう死んでいるのか、それは俺にも分からない。
だが…それの以前親父は帰ってくると俺に話をしてくれていた。
半分以上覚えていない、何せ本当に小さい頃の話だからな。
親父はその話をしている時は、世の中とか、家族とか、そう言う重いもの全て取っ払って、純粋無垢な顔をして話してくれていた。
そして話が終われば机に向かってひたすらなにかを綴る…。
その背中を見て居たから分かる。
世間を離れて、人目を気にせず、縛りも愛も団らんも…何もかも捨ててまで追い続けた親父のそれを…俺は知りたかった。
俺はひたすらその真っ暗な道を歩く、親父の様に、何かを求めるように。ただ、真っ直ぐに。
親父のその思いを胸に秘め、不快に満ちた声を耐えながら進む。
すると、道の先で一筋に光る扉が見えてきた。
その光に吸い込まれるように、俺は扉に手を掛け、押す。
ゆっくりとその扉は開き…俺は何処とも知れない、見覚えのない部屋にたどり着いた。
周りは本だらけ、部屋の中心には古びた地球儀と立て掛けられた脚立。
壁紙は痛み、何処と無く懐かしいような匂いがする。
すると、その部屋の一角、左奥のテーブルの引き出し。
その引き出しの二番目が、また俺を招く様に光を放っている。
点滅し、ここだと主張する様に。
また俺はその光に誘われ、テーブルの前に立つと、そのまま引き出しへと手を伸ばした。
ゆっくりと開くその引き出しからは、溢れんばかりの光が部屋中を駆け巡り、まるで流れ星の様に降り注ぎ、乱反射する。
その光に負けず、思い切りその引き出しを引き抜く。
更に一層光が増し、そして遂には俺の視界全てをその光では包んだ。
眩しさと共に、何故か身体を巡る暖かさ、そして抱擁されている様な柔らかさが覆い…声が聞こえた。
……ん。
り…すけ…さん。
───リュウノスケさん!!!
※※※
ハッとして、俺は目を開けた。
どうやら…夢を見て居たらしい、不思議な夢だった。
まだ正常に頭が回らず、目をひたすらぱちくりと動かしながら、先程の夢を思い出す。
あの部屋…何だったんだろうか…。
それにあの引き出しの中身…眩しくて見えなかったが…。
ボヤける視界の中、そう思い出しながらも、冷静に頭の回転を始め、目を覚ます。
それにしても…何だか身体が重いような…柔らかいけど、何か背中にのし掛かってる感じがする。
と、そこで急に柔らかいその何かだと思われる物から声が発せられた。
「リュウノスケさん!起きてください!どうしてこんな所で寝てるのでしょうか…」
「…ん…?フィオラ…?」
その声の主はフィオラだった。
どうやら俺を起こしてくれていたらしい。
「あ!起きましたねリュウノスケさん!
良かったー…こんな場所で寝てるんですもの、空き部屋はまだあると言いましたのに…。」
「あれ?俺…何でこんな所で寝てるんだ…?
って重っ!フィオラ!ちょっと何で乗っかってるのさ!」
当たってたのは…あれか、胸か。
あー…柔らかいってそう言う…って朝から何考えてんだよ俺。
「中々に起きなかったので…体重を掛ければ起きるかなーって思いまして…」
「いやいや、重いから!すっごい息苦しいからさ!
てか、フィオラ案外見た目より重いんだなぁ…………あ!そうか!フィオラって胸の方に栄養が行ってるからそう言う…」
「なあっ!?むむむ、胸は関係ないです!この…おちょばーーーーー!!!!」
「だからそのおちょばって何ブフォオアアア!!!」
竜之介のかました仕様もないジョークは彼女の羞恥心に油を注いだ結果、夜更かしを続けたら現代人には痛い、朝の洗礼をその顔に受けることになったのだった。




