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また明日

 結果論としてだが、俺はこの世界に残ることになった。

 勿論元の世界に戻る方法を完全に探さない訳ではないが、多分それでもこの世界に残り続けるかも知れない。


 それにしても…この世界で研究やら何やらやりたいし、色々と知りたいことも山ほどある。

 先ずはこの世界で利便性のある事と、それと同時にフィオラの手伝い何かも出来たら暇はしないだろう。


「さて…どうすっかなぁ。」


 リベルさんからは、この家に居る間は色々中を見て貰っても構わないし、部屋を物色…じゃなくて見学しても良いらしい。

 夜ではあるがまだ寝る時間ではない。

 何せ現代っ子である故、夜更かしは当たり前の様に行ってきたからだ。

 外は暗いのであまり出歩かないとして、問題は中だ。

 探索しようにも、灯籠ランプ一つしか無いしな…二人はもう就寝してしまっているので大きな音を立てたくはない。


 せめてもう少し灯りがあればな…。


 ふと、俺はあることを思い出した。

 そう言えば、俺が此方に来る際と言うか、向こうで肩に掛けてたリュック…あのリュックはどうなったのだろうか。

 あの時は焦ってよく周りを見ていなかったので、もしかしたらあの場所に置いてあるかも知れない。


「あのリュックがあれば懐中電灯とかあるし、汎用性の高い道具も幾つか入れてたな…あの部屋探してみるか?」


 薄暗い灯籠を手に持ち、あの時の部屋を目指すことにした。

 確かリビングを出て真っ直ぐ行った所の…取り敢えず手当たり次第開けてみるか?


 竜之介は暗い通路を手探りで歩きながら、手当たり次第扉を静かに開ける。


「お邪魔しまーす…?」


 近くにあった扉を一先ず開ける。

 すると、すーすーと静かな寝息が聞こえてきた。


 近付いて灯籠の光をかざすと、どうやらフィオラの部屋だったらしく、可愛らしい人形や花の標本等がぼんやりと見えた。


「ここがフィオラの部屋か…成る程。」


「すー…すー…お母さん…お父さん…えへへ…」


 すると、可愛らしい寝言が聞こえた。

 ふと近くを照らすとフィオラの寝顔が間近くにあった。

 おっと、と驚いた物の全く起きる気配が無いので少し顔を近づけて見てみた。


 むにゃむにゃと可愛らしくよだれを垂らして寝ている。


「…可愛い顔して寝てるなぁ…俺も妹が居たらこんな気持ちになるんだろうか…さて、起こさない様に別の部屋に行くか…」


 何だか小さな兄弟を見守る様な気持ちが込み上げる。

 俺はそっと彼女の頭を撫でると、自然に笑みが溢れた。


 物音を立てないように静かに扉を閉める。

 あと少し…その寝顔を見たいと惜しみながらも、静寂と共にその場を去った。


※※※


 幾つか扉を開けてみたのだが、どれも同じような部屋で違うらしく、中々に目的の部屋が見つからなかった。


 手当たり次第では少し大きい家かもしれないと思いながらも再度探索を続けた。


 すると、通路左の三つ目辺りの部屋から何やら光が漏れている。


 気になってその扉を開けた俺は、その部屋が偶然にもあの部屋であることを認識した。


「ここだ…てか、何が光ってんだ?」


 スタスタと臆する事なくその光の元へと向かう。

 光は部屋の右側中央に置かれたテーブルの上で輝いていた。

 照らしてハッキリとその形(シルエット)を見ると、どうやら何かの花らしい。


 青白くて、花弁の先が薄茶色に染められた花。

 ミスマッチな色の組み合わせだが、発光している姿はそれを逆に魅力的な姿や色合いとして表現されていた。

 何故光るのかは分からないが、小さな花瓶に入れられたその花は俺を歓迎する様に小さく暖かい光を放っていた。


「綺麗な花だな…何て名前だろうな…ん?」


 その光に目を奪われて気付かなかったが、足元にどうやら何かあるようで、コツンと足をぶつけた。


 ランプをかざし、足元を見ると、そこには俺の求める物が忽然と置いてあった。

 そう、俺のリュックだ。やはり此方に一緒に飛ばされて居たらしい。


「お!ラッキーだな、これで何とかなる…どれどれ…あったぜ!」


 そのリュックから、手頃で馴染む筒状の物を迷いなく取り出す。


 側面につけられた小さなハンドルを数回グルグルと回す。

 そして、上部につけられたスイッチを押すと…それはしっかりと、ハッキリした科学の明かりを目の前に照らし出した。


「これこれ!やっぱ懐中電灯だよな!完璧(パーフェクト)な明るさだ!」


 この灯籠とは比べ物にならない発光、火の光ではなく、電気の光。

 現実の世界に置いてそれは、馴染んだ光景であるのだが、それが馴染みで無くなったここではとてつもない絶対的な安心感を産み出していた。


 何処も壊れていない事を確認し、その懐中電灯でリュックの中身を確認する。

 中身はどうやら無事だし、欠けていない。

 目的を果たした俺は、そのリュックを肩に掛け、灯籠と懐中電灯を両手に持ち、その部屋を離れる事にした。


「おっと…そうだ、この花ちょっと借りるか…」


 俺はふと、近くで淡い光を放つその花の事が気になり、懐中電灯を首に器用に挟んで光を確保しつつ、花瓶を手に持った。


「よっと…落とさない様にしないとな。

一旦リビングに戻るか…灯籠は…もういらないからな。」


 ある程度部屋を見渡した後、特に後は用事が無い俺は大事に花瓶を持ちながら、薄暗い廊下を歩き、食事場のテーブルまで戻った。


 灯籠を壁に戻し、懐中電灯を持ち直す。

 そっと花瓶をテーブルの上に乗せ、一息ついて椅子に腰掛けた。


 懐中電灯の光を弱め、目の前にある花を見つめて居た。


「しっかし綺麗な花だな…何だか懐かしい気分を感じさせるぜ…ふぁぁ…」


 その光がとても暖かくて…あくびが出た。何だか瞼(まぶた)も重くなるのを感じた。

 目を凝らして見るも、やはり睡魔が俺を襲い始めた。そんなに直ぐに眠くなるのはあまりなかったのだが…。


 いや、しかし今日だけで色々あったし、精神的にも疲労が溜まっているのかも知れない。

 そう考えると、ふわふわとしてきておもむろにテーブルに伏せてしまう。


 淡い青色の光を浴びながら、俺はそのまま目を閉じ、少し考えた。


「明日から何をしようか…まあ…また、明日考えればいいか…何だか今日は…疲れて………。」




 そのまま意識を夢に投じた彼は、その花の光を受けながら意識を失い、眠りに着いた。


 竜之介が次第に寝息を立て始めた頃、テーブルと彼を照らしていた一輪の花は、まるで見守る母の様な暖かな雰囲気を残しながらその光は次第に弱まり…またその花も眠りに着いたのだった。

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