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まぼろし使いの少年は今日もまた誰かを騙す  作者: ネム
第一章 ひびの入った仮面
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第十一話 身勝手な救出劇

「『衆盲の迷霧(ディープフォグ)』」


 そう唱えられると共にどこかからともなく霧が現れ、途端にこの一帯を白で埋め尽くしていく。


 混乱する群衆、その中に潜んでいたアレックスさんが前に出て勢い良く結界に剣を振り下ろした。


 バリンと割れる音が大きく響き、でも大丈夫。

 瘴気は周りに散っていない。

 ここからは僕の出番だ。

 少女は気力を失っているのか、こんな状況であってもピクリとも動かない。

 心配だけど好都合でもある。


 確かに瘴気は厄介だ。

 どうしたって処理することができない。 

 でも処理できないのなら元にの場所に戻してしまえばいいという話だ。

 僕は割れる前からただの魔力を結界に沿うように広げていた。


 瘴気を直接操ることはできなくとも、魔力で瘴気を囲ってやればいい。

 そうすれば勝手に弾かれてくれる。

 ほんの少しでも穴があればそちらに流れて行ってしまうけどそこは問題ない。

 こうするのには“慣れて”いる。


「よし、終わったよ」

「『身勝手な憐憫(ヒール)』」


 瘴気が全て少女の体に戻る。

 すると即座にパウロナさんによって回復魔術がかけられて傷が治っていく。

 そこでようやく少女が動きを見せた。

 よろよろと力なく首が持ち上げられる。

 気を失っていたのではなく気力を失っていただけなのか。


 その横でアレックスさんが地面に刺さる剣を抜く。

 すぐに傷も治りきる。

 これで後は逃げるだけだ。

 ミュリエルさんが深いフードの付いたローブをその少女にかけた。


「よし、それじゃあいくよー」


 ミュリエルさんがその少女を抱え上げ――


「いやっ!」


 バンッとそんな音がして、彼女の周りの霧が一気に晴れた。


「うわ、びっくりしたー」


 ミュリエルさんに問題はないようだ。

 いつものミュリエルさんらしい様子でしゃべっている。

 けど一メートルほど少女から遠くへと弾き飛ばされてしまっていた。


「えーっと、どうしよう?」


 結界が割れた時の音で野次馬たちは悲鳴をあげながら逃げて行っている。

 そうでなくとも霧が晴れたのは少女の周囲だけなので、誰かの視線については気にしなくていい。


 でも、助けようとしているその少女に拒否されてしまえばどうしようもない。

 いずれ憲兵か興味本位の野次馬が踏み込んでくる。


「きゅ! きゅ!」

「ソラ? そっか、わかった」


 けどソラが近づきたいと言い出した。

 先ほどの衝撃波は身のこなしが軽いミュリエルさんだから受け身を取れただけだ。

 だから本音を言えば小さくて軽いソラを近づけたくなんかない。

 けどソラがやりたいというのなら手伝う以外の選択肢はない。


 ソラを胸に抱えて、驚かせないよう怖がらせないようゆっくりと近づいていく。


「大丈夫だよ、僕たちは敵じゃない」

「きゅーきゅー!」


 ソラがその純粋な目で少女を見つめる。少女もソラを見つめ返して、二人共ピタリと動きを止めた。


 ああ、きっといま“思い”を伝えている最中なのだろう。

 うこうなれば僕にできることはない。することもなく、何とはなしにその少女を観察してみる。


 髪の色は薄汚れていてよくわからないけど、多分薄い緑だろうか。

 手入れされていないからか荒れ果てていてのびっぱなし。

 座り込んでいる状態だと髪の先の方が地面につくどころか踏んでしまっている。

 見つめ合っている瞳の方はソラと同じ淡い水色だ。


 肌の方は薄汚れてはいるけれど、傷跡やあざは特に見受けられない。

 ついさっきまで傷があったはずなので、これはパウロナさんの魔術の効力が高いということなのか。


 なんてところまで考えて自嘲した。

 観察する癖をを身に着けさせられてはいるけど、だからと言ってこうまじまじと見ているのはどうなのか。


「本当、に?」

「きゅー!」


 どうやら終わったようだ。

 まだまだ怯えは残っているものの、少女の持っていた全てをはねのけるような雰囲気は大分緩和されている。

 少女はゆっくりとソラから視線を外すと、おどおどと僕の方を見上げてくる。


「信用できるって、言ってる、から、信用、します」

「ありがとう。大丈夫だよ、僕らは君の敵じゃないから」


 こくりと、小さい頷きが帰ってくる。

 ソラも嬉しそうにしていつもの居場所で戻っていく。


「それで、一体誰が連れて行くかだけど」


 ミュリエルさんを見る。

 けど困ったように苦笑しているし、目の前の少女は勢い良く首を横に振っている。

 そしてすがるように僕を見つめてきた。


 はぁ、ソラは一体どんな説明をしたんだか。


「わかった。それじゃあ僕が連れて行くよ」


 怖がらせないよう柔らかく笑いながら僕は少女に近づいた。

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