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まぼろし使いの少年は今日もまた誰かを騙す  作者: ネム
第一章 ひびの入った仮面
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第十話 それが当たり前

 傷ついたまま座り込んで動かない忌子の少女。

 ふと、そんな少女から溢れ出る瘴気が何かに阻まれていることに気が付いた。

 瘴気は少女を丸く囲むように滞留し続けている。


「あれは、剣?」


 よく見れば少女の手足には鎖がつけられていた。

 その鎖の反対側は地面に突き刺された剣で固定されて、遠くに行けないようになっている。

 ……うん、間違いない。その剣が結界を発生させている。


 本当であれば、彼女から溢れ出る瘴気によってこの街は魔物の襲撃にあっていただろう。

 けど突き刺された剣を起点に結界が広がっていて、それが瘴気の拡散を防いでいるみたいだ。


「嫌な手だよねー。本当に……反吐が出る」


 ぽつりとミュリエルさんが呟いた、彼女らしくない言葉が耳に入る。

 でも彼女の言う通り、あれをやった人はかなりの嫌な奴だろう。


 彼女は忌子だ。

 助けようとする人はまずいない。

 けどそのまま放置していたらいずれ剣の魔力がなくなって結界が消えるし、少女からはさらに瘴気が出続ける。

 結界が消えた時瘴気は一気に拡散するだろう。


 でも結界を割ったら同じ結果になってしまう。

 だからどうにかして瘴気を逃さず少女に近づかなければならない。

 しかもそのあと“誰も助けたがらない”忌子の少女の傷を治さないと、瘴気はずっと発生し続けてしまう。


 それに助けて治した後だってすぐに放逐することも改めて殺すこともできない。

 山奥とかの人がいないところまで行ってしっかり“処理”しなければならない。

 かばおうとしても住民全員が敵になる。


 きっとこれをやったのは忌子を人だと思っていないようなやつ。

 色んな意味で、本当に嫌な手だ。


「……ロナ、ロウル。ちょっと来てくれる?」

「そうだねー、ちょっと人のいないところに行こうかー」


 表情を見て考えていることを察した。

 なるほどそうするつもりなのか。

 それならきっと僕も役に立てる。

 というよりも要としての役割を担うことができる。


 僕たちは連れ立ってすぐそこの建物の裏に入った。

 騒動に人が引きつけられているからかすでに待っていたアレックスさん以外の人影は見えない。


「んで、お前のことだから助けたいって言うんだろ? 俺だってそうだがどうにかできる方法はあるのか?」

「助けたいけどー、でもそれで終わりじゃないからねー」

「それは、もちろん分かっているわ。でも」


 なるほど、彼らは助けるということがどういうことかわかってるみたいだ。

 これなら僕としては協力したい。

 それに。


「きゅ! きゅ!」

「うん、そうだね」


 ソラが助けたいと主張しているのだから、それだけで助ける理由になる。


「ねえ、僕も協力するから助けるのに何が必要なのか教えてくれないかな?」

「わかったわ、ありがとうね」

「ううん、僕もソラが助けたいっていうから助けるっていうそれだけだから」

「それでもよ。元は私のわがままなのだから」


 パウロナさんは申し訳なさそうな、でも確たる意思を持った目をしていた。




 それからパウロナさんが助けるのに必要なことを説明してくれた。


 その一、周りの人々の目をどうにかすること。

 いくら助けたくとも追われているのを忘れてはいけない。

 目立ちすぎる行動は厳禁だ。

 いくら助けたいからと言って周りの市民に危害を加えることは出来ないし。


 その二、少女の傷を直して瘴気を止めること。


 それに伴いその三、少女の傷を治すためには近づく必要があるため、少女を囲う結界をどうにかすること。


 その四、少女をその場から連れて逃げること。


 その五、今後瘴気を出すことのないように、少女をあらゆる怪我から守ること。


 この五つならばパウロナさんたち三人でもどうにかできるようだ。

 魔術による深い霧で人々の目を塞ぎ、アレックスさんが結界をたたき割り、回復魔術で傷を治して、ミュリエルさんが少女を抱えて走ってその場を離れる。

 B級探索者だからかお金はあるらしく、助けた後面倒を見るのもなんとかできはするそうだ。

 自然治癒や結界の魔道具を使えば傷をつけないのも不可能ではないらしい。


 さらに言えば魔術において“想像”は強い力を持っている。

 同じ魔術でも“想像”によって効果は変わる。

 魔力量などの問題もあるが、それが解決できればかなり自由がきくんだ。

 パウロナさんのように多くの属性に適正を持っていればなおさら。

 だから魔道具が見つからずとも魔術で代わりになる。


 けれどそんな魔術があっても彼らがどうしても解決できない問題がある。


「今結界の中に溜まっている瘴気にはなにもできないのよ」


 やっぱりそうだ。

 もうすでに出てしまっている瘴気を処分する手段がないらしい。


 そもそも瘴気は自然には存在しない。

 あるのは忌子と一部の魔物の体の中にだけ。

 そんな瘴気は魔物に吸収される以外で何かと同化することなく、延々と遠くまで拡がっていく。

 さらに瘴気は魔力をはじき直接的な影響を受けない。

 だから対処法としては、結界で封じ込め魔物が寄ってきても問題ないところでその原因ごと解放するくらいだ。


 当然街は解放しても問題ないところに含まれない。

 瘴気を解放すれば数え切れないほどの魔物がこの街に襲いかかってくることになる。

 彼ら三人は少女を助けたいが、それは街の人を犠牲にしていいという訳ではないんだ。


 けど僕になら、その瘴気をなんとかできる。


「わかった、それは僕がなんとかするよ」

「なんとかできるのか!?」

「うん、師匠が忌子の研究をしててその一環でね」


 たった今、この“仮面”に新たな(情報)が書き加えられた。

 今までの情報と齟齬のないよう即座に修正していく。


「なるほどー、それって確実に成功できるのー?」

「うん、そう思ってくれていいよ」

「そうなのね。それなら今すぐにでも決行しましょう」

「え? 信じてくれるの?」


 普通、どうにもできないと知られている瘴気をどうにかできるなんて話、信じられるものじゃないと思うんだけど。


「ええ、信じるわ。それにあの少女を助けるためには信じなければいけないのだから、結果は変わらないでしょう?」


 これはお人よしというよりも考えなしに入るんじゃないかな。

 僕が噓をついていたら瘴気がばらまかれることになるんだから。

 その責は不用意に剣の結界を壊した僕らが負うことになる。


 でもきっと今の僕は頬を緩めているだろう。

 心がこれだけ怒りを訴えていたとしても。なんとなくそんな気がした。

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