72 フランっぽいもの
忘年会なら、みんなで集まって乾杯をしたら、テーブルに大皿料理を並べて、好きなものをつつきながらお酒を楽しむものだ。でも、ここはヴァルドール。郷に入っては郷に従えということで、料理はフルコースでふるまわれる。
その代わりといってはなんだが、料理には忘年会らしさを仕込ませてもらった。
この場にいる人は私以外、「忘年会」が何なのかも知らない。だから完全に私の自己満である。でも、「忘年会」と銘打ったのだから、そのくらいのわがままは許してほしい。
まずはアミューズが運ばれてきた。小さな器が配られる。
「フランかしら?」
カトリーヌが首をかしげながら、小さな器を観察している。それにマノンが反応する。
「それにしては表面がツルツルね。ゼラチンで固めたパテかしら。」
「よい香りがするわ。」
クレモンスは手で煽りながら匂いをかいでいる。
「海老ではないでしょうか。」
そう言って、フィリップ王子がスプーンで上品にすくい、口に運んだ。茶碗蒸しを食べているだけなのに、思わず見惚れてしまう優雅さだ。私は、改めて彼が王子だということを実感する。
フィリップ王子の一口目を皮切りに、カトリーヌたちも茶碗蒸しに手をつけた。
「あら、いつもよりも弾力がある。」
「さっぱりしているのね。」
「何か中に入っているわよ。」
私は、茶碗蒸し初体験の友だちの反応をにやにやと眺めていた。
「もしかして、舞花が何かしたの?」
「うん。実は、今回のメニューは私が日本でやっていた忘年会でよく出てくるレシピを基にして作られているの。これは『茶碗蒸し』っていう卵料理なの。」
私はネタばらしを始めた。もちろん、ネタばらしの練習はアントワーヌ相手にすでに済ませている。
「今回は、海老の殻でとった出汁が使われています。特に頭からはよい出汁がとれるので、ぜひ捨てずに使ったほうがいいですよ。 」
「え、海老の頭でスープを?」
マノンが微妙な顔をして、茶碗蒸しを見ている。確かに、「海老の頭のスープ」という言葉は結構迫力がある。マノンのような反応になるのもしょうがない。そして、この人たちは自分で料理しないことを思い出した。アントワーヌは自分で使えるかどうか関係なく食いついてくるが、普通はそうじゃない。しまったと思い顔をそらすと、フィリップ王子と目が合った。
「海老の頭にはそんな使い方があるのか。王宮の料理人にも伝えておこう。」
意外と真面目に私のアドバイスを受け取っていた。
その一方、王のテーブルではポールたちが盛り上がっていた。
「海老って、こんなに美味しいんですね。」
「見たことはありましたが、食べたのは初めてです。」
「俺もだ。こんな食べ物、どこで獲れるんだ?」
ジョゼットやポールたちは、茶碗蒸しに入っていた海老について、口々に感想を言い合っている。その様子を、向かいに座っている王が興味深そうに眺めていた。
「舞花から聞いた話ですが、日本では海老はかなり身近な食材だそうです。」
すかさずアントワーヌが説明を始める。
「しかも、身だけでなく、殻や頭からも出汁を取るそうですよ。」
「なるほど。ならば、今度海老が出されるときに、殻で出汁を取れば、美味しいスープが飲めるんだな。」
「今度頼んでみましょう。」
王は頷きながら、もう一度ポールたちを見る。
「それほど珍しい食材なのか?」
「私は今まで食べたことがありません。 」
ポールが代表して答えた。
「そうか。」
王は小さく頷いた。
「そんな深刻に受け止めないでください。海老を食べたことないなんて、普通ですよ。ボーモン家の使用人たちは町の庶民に比べたら、よいものを食べさせてもらっているんです。それで十分満足していますよ。だから、そんな憐れまれても、困ります。」
「ポール、酔っぱらっているんですか?」
年配の使用人の女性がポールの肩に手を置いた。
「気にしないでくれ。今日は無礼講なんだ。さあ、海老の日本風フランを楽しもう。」
すると会話が聞こえていたのか、アルフォンスが隣のテーブルから話にはいってきた。
「この方は、変わり者でずっと国外を旅していたんだ。だから、国内の事情に疎い。みんな、最近のことも含めて、色々と聞かせてやってくれ。」
その言葉に王自身も便乗する。
「そうだ。みなが舞花さんとどうやって知り合ったのかも聞かせてほしい。舞花さんは最初、どんな様子だったんだ?」
「いやあ、最初は本当に大変でしたよ。」と、ジョゼットが、身を乗り出して話し始めた。
すみません。遅くなりました!来週も目標は土曜更新です。




