69 予想外にシンプル
国王のいる国では、名前に「王」を使ったら、不敬に思われるのかな。だったら「桜」がきれいだよね。でも、男性に花の文字は嫌がられるかもな。じゃあ、「欧」か「央」とか?
そうやって、シャルル=オーギュストにはめる最後の一字を考えていた、その時だった。コンコン、と扉が鳴り、ジョゼットが入ってきた。マノンたちが到着したらしい。カトリーヌとクレモンスも一緒だそうだ。
待合室の前に着くと、彼女たちの賑やかな声が聞こえ、衣装などを手際よく運び込む工房スタッフたちとすれ違った。
「Bonjour. Bienvenue chez Beaumont.」
(こんにちは。ボーモン家にいらっしゃい)
私は待合室の扉を元気よく開けた。すると皆が寄ってきてくれた。私も含め、四人ともシンプルな服装をしているためか、秋のサロンの準備をしていた頃みたいで、懐かしい気持ちになった。
実は今回、身分の壁を少しでも薄くするために、「本会は身分の別なく楽しむための催しです。当日は社交用の正装や制服は避け、皆様それぞれの普段着にてお越しください 」と招待状に一言添えさせてもらった。
「普段着って、こんな感じで大丈夫だった。」
お洒落なカトリーヌは、着物風に袖口が広いワンピースを着ていた。
「もしかして、エロディの新作?」
「そうなの。」
普段着といいながら、Yukata専属のデザイナーになりつつあるエロディの新作を着てくるあたりが、カトリーヌらしい。ショールを留めているブローチもつまみ細工という徹底ぶりだ。
実はこの「普段着」という指定は、貴族の人々にとっては、難しいものだったらしい。「無礼講」と同じくらい、「普段着とはどういうものか?」という質問が多かった。当主である侯爵からジョゼットやポールなどの使用人まで、ボーモン家の人たちとは、念のため昨日、衣装合わせを行っていた
一通り服装についての話が終わると、今度は忘年会にくるメンバーについて質問攻めにあった。確かに、
私とボーモン家の人は誰が来るかを把握しているけれど、参加者には誰が来るかは知らせていないから、心配になるのも無理はない。
「『無礼講』の意味は分かったけど、本当に大丈夫なの?爵位が上の方々も呼んでいるの?」
一番気にしているのは、社交界の礼儀ごとに明るいクレモンスだ。
「ボーモン家の親戚の人も呼んでいるから、爵位のある人は何人かいると思う。ただ『無礼講』にしているのは、あなたたちのためというよりも、私やジョゼット、ポールなんかの平民のためよ。礼儀に気を取られて、楽しめなかったら困るでしょ。」
私の説明で納得し、気遣い上手と褒めてくれるカトリーヌに対し、クレモンスはまだ納得がいかないようだ。
「私にだって準備が必要よ。せめて、今日招待されている方で一番爵位の高い方を教えて。」
予想以上に必死なクレモンスに、私はフィリップ王子を呼んだことを伝えた。
「え!誰が彼を呼んだの?」
クレモンスが素っ頓狂な声をあげた。急な大声に、その場の動きが全て止まり、彼女に視線が集まった。そのことに気がついたクレモンスは、咄嗟に持っていた扇子で口元を隠し、微笑んだ。そうしてみんなの視線をいなすと、そのまま口元を隠しながら、囁くような声で質問を続けた。
「どうして彼がここに?」
いつもは感情があまり表に出ないクレモンスの焦りが、ささやく声から伝わってきた。
「私がお誘いしたの。」
「え?どうして?」
「だって、かんざしが献上品リストに入ったのって彼のおかげでしょう。それにかんざしキットも彼がいたから売ることになったし。色々あったけど、直接お礼をしたくって。」
「あなたって……。」
クレモンスは言葉を探しているようだった。やっぱり怒られるのだろうか。私は恐る恐る、続く言葉をたずねた。
「私って?」
「いや、あなたって……私の想像を超えているわ。考え方の根本が違うのかしら。」
「え?」
お説教を聞くつもりだったので、予想外の答えに私は思わず目を瞬いた。
「褒めているのよ。かんざしプロジェクトに対して横車を押そうとした人にお礼なんて、私には真似できない。マキシミリアン様は彼の招待を承諾しているのでしょう。」
「うん。」
「ならいいわ。ただ混乱を避けるために、マノンとカトリーヌには言っておいた方がいいわ。行くわよ。」
そう言って、クレモンスはマノンとカトリーヌをこちらへ呼び寄せた。
「さっき舞花から聞いたんだけど、今日、第三王子が来るそうよ。」
「どうして?」
「誰が?次は何を企んでいるの。」
クレモンスの言った通り二人ともかなり動揺している。もし予告もなしにフィリップ王子に鉢合わせていたら、忘年会を楽しむどころじゃなかっただろう。クレモンスのアドバイスに感謝しながら、私は二人に経緯を説明した。
「舞花って、本当にすごいわね。」
マノンは半分感心したような、半分呆れたような声で言った。先ほどのクレモンスの反応にも似た、微妙な褒め言葉をもらい、話はフィリップ王子からショーの方に移っていった。
その後大広間でショーのリハーサルを終えたところで、ジョゼットが入ってきた。
「リハーサルはもう大丈夫でしょうか。お客様が集まってきたので、そろそろ大広間を開けたいのですが。」
「ありがとう。もう少ししたら、私が待合室まで声をかけに行くわ。」
「かしこまりました。待合室で対応されているマキシミリアン様にも伝えておきます。あと、第三王子の馬車がもう少しで到着するそうなので、お迎えをお願いいたします。」
「分かったわ。」
念のためにアントワーヌを呼び、二人で玄関に行くと、ちょうど向こうから王家の馬車が到着するところだった。しかし、奇妙なことに、馬車が三台連なっている。そんな何人も従者を連れてきているのだろうか。首をかしげながら、王子の到着を待った。
すみません、少し遅れました。次も土曜日に更新予定です。




